生活保護の申請を考えている方にとって,悩むことのひとつが自動車(乗用車)の保有です。ここでは,生活保護の方でも自動車の保有が認められる場合について解説します。
生活保護は資産の活用が原則
生活保護は,生活に困窮する方が,利用できる資産,能力,その他あらゆるものを生活の維持のために活用することを要件として行われます(生活保護法4条)。この資産には,不動産(居住用不動産は認められます),預貯金,自動車,生命保険,貴金属が含まれます。
つまり,原則として,自動車の保有は認められないことになります。しかし,これはあくまで原則で,特別な事情があれば乗用車や125cc以上のオートバイの保有が認められることもあります。
特別な事情があれば自動車の保有が認められる
通勤用
次のいずれかに該当する場合であって,自動車による以外に通勤する方法がまったくないか,または通勤することがきわめて困難であり,かつ,その保有が社会的に適当と認められるときは,社会通念上処分させることを適当としないものとして通勤用自動車の保有が認められます。
- 障害者が自動車により通勤する場合
- 公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住する者が自動車により通勤する場合
- 公共交通機関の利用が著しく困難な地域にある勤務先に自動車により通勤する場合
- 深夜勤務等の業務に従事している者が自動車により通勤する場合
わかりやすくいうと,公共交通機関の利用が著しく困難な地域に住んでいたり,勤務先があったりする場合は通勤用自動車の保有が認められることになります。
上記2, 3, 4については,次のいずれにも該当する場合に限ります。
- 世帯状況からみて,自動車による通勤がやむを得ないものであり,かつ,当該勤務が当該世帯の自立の助長に役立っていると認められること。
- 当該地域の自動車の普及率を勘案して,自動車を保有しない低所得世帯との均衡を失しないものであること。
- 自動車の処分価値が小さく,通勤に必要な範囲の自動車と認められるものであること。
- 当該勤務に伴う収入が自動車の維持費を大きく上回ること。
通勤用自動車について,生活保護の申請時において,失業や傷病により就労していなくても,概ね6か月以内に就労により保護から脱却することが確実に見込まれて,保有する自動車の処分価値が小さいと判断されるものについては,処分する必要はありません。
ただし,期限(概ね6か月)到来後,自立に至らなかった場合は,通勤用の自動車の保有要件を満たす者が通勤用に使用している場合を除き処分する必要があります。
通院等
次のいずれかに該当し,かつ,その保有が社会的に適当と認められるときは,社会通念上処分させることを適当としないものとして,自動車の保有が認められます。
障害者が通院等のために自動車を必要とする場合であって,次のいずれにも該当する場合
- 障害(児)者の通院等のために定期的に自動車が利用されることが明らかな場合であること。
- 当該者の障害の状況により利用し得る公共交通機関が全くないか又は公共交通機関を利用することが著しく困難であって,他法他施策による送迎サービス,扶養義務者等による送迎,医療機関等の行う送迎サービス等の活用が困難であり,また,タクシーでの移送に比べ自動車での通院が,地域の実態に照らし,社会通念上妥当であると判断される等,自動車により通院等を行うことが真にやむを得ない状況であることが明らかに認められること。
- 自動車の処分価値が小さく,又は構造上身体障害者用に改造してあるものであって,通院等に必要最小限のもの(排気量がおおむね2,000cc以下)であること。
- 自動車の維持に要する費用(ガソリン代を除く。)が他からの援助(維持費に充てることを特定したものに限る。),他施策の活用等により,確実にまかなわれる見通しがあること。
- 障害者自身が運転する場合又は専ら障害(児)者の通院等のために生計同一者若しくは常時介護者が運転する場合であること。
以上のいずれかの要件に該当しない場合であっても,自動車の保有を認めることが必要である特段の事情があるときは,個別に判断されます。
公共交通機関の利用が著しく困難な地域に居住する者が通院等のために自動車を必要とする場合であって,次のいずれにも該当する場合
- 当該者の通院等のために定期的に自動車が利用されることが明らかな場合であること。
- 他法他施策による送迎サービス,扶養義務者等による送迎,医療機関等の行う送迎サービス等の活用が困難であり,また,タクシーでの移送に比べ自動車での通院が,地域の実態に照らし,社会通念上妥当であると判断される等,自動車により通院等を行うことが真にやむを得ない状況であることが明らかに認められること。
- 自動車の処分価値が小さく,通院等に必要最小限のもの(排気量がおおむね2,000cc以下)であること。
- 自動車の維持に要する費用(ガソリン代を除く。)が他からの援助(維持費に充てることを特定したものに限る。)等により,確実にまかなわれる見通しがあること。
- 当該者自身が運転する場合又は専ら当該者の通院等のために生計同一者若しくは常時介護者が運転する場合であること。
私自身,沖縄に住んでいるので事情はわかりますが,那覇市や市街地に住んでいるなら,沖縄都市モノレール(ゆいレール)があるので移動はそれほど大変ではありません。
しかし,それ以外の市町村や,那覇市でも公共交通機関(バス)が徒歩圏内に通っていない場合などは,自動車がないと日々の生活が大変だろうというのは優に想像できます。そのような場合は,特別の事情があるものとして申請しましょう。
自動車の更新について
保有が認められていた自動車が使えなくなってしまった場合の更新については,次のいずれにも該当する場合であって,自動車を購入することが真にやむを得ないと認められる場合は,自動車の更新が認められます。ただし,事前に承認を得ることが必要となります。
- 保有が容認されていた自動車が使用に耐えない状態となったこと。
- 保有が容認されていた事情に変更がなく,自動車の更新後も引き続き保有の容認要件に該当すること。
- 自動車の処分価値が小さく,通勤,通院等に必要な範囲の自動車と認められるものであること。
- 自動車の更新にかかる費用が扶養義務者等他からの援助又は保護費のやり繰りによって生じた預貯金等により確実に賄われること。
つまり,自動車が必要な状態は変わっていないけれど,自動車が使えなくなってしまったときは認められるということになります。
まとめ
生活保護を申請するときは,資産を活用するのが原則です。しかし,自動車以外の方法がまったくない,またはきわめて困難なときは,通勤や通院のために保有することが認められます。
参考:生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて(◆昭和38年04月01日社保第34号)