『新聞投稿に見る百年前の沖縄』の内容を一言で表すと,100年前のSNSです。
本書はこの新聞(注:琉球新報)の三面にほぼ毎日掲載されていた投書欄「読書倶楽部」に書かれた人々の声を「混ぜものなし」で紹介するものである。この投書欄は当時の人々のありのままの気持ちや考えをダイレクトに伝える貴重な資料である。その内容は「カオス」と言っていいぐらいの奔放で生々しく,そのリアルさには驚くばかりだ。
恋愛,質問,笑い話といったものから,最近の若者は…,クレームなど,そして投書に対する「返信」まで,まるでSNSを見ているような気持ちになります。違うのは,速度くらいです。
昔の沖縄の人々に興味がある人におすすめ
本書は,昔の沖縄のごく普通に暮らしている人々に興味がある方にオススメです。地名などもそのまま出てくるので,那覇あたりの土地勘がある方は,より親近感がわくと思います。
もちろん,地名等がわからなくても十分楽しめます(私も全部はわからなくても楽しめました)。
『新聞投稿に見る百年前の沖縄』の目次
本書の構成は,以下の通りです。
- 恋愛・結婚
- 修羅場
- 友情
- 最近の若者は…
- クレーム
- お出かけ・旅行・異郷の地にて
- 質問・お願い
- つぶやき
- 笑い話・珍事件
- 不満・苦悩・悲哀
- わたしの主張
- その他新聞記事
その他,コラムも掲載されています(後述)。
コラムも趣深い
本書は,投書とは別に,5本のコラムが掲載されています。
- 辻の遊郭
- 沖縄の鉄道
- 沖縄駐留の日本軍
- 戦前那覇の繁華街
- 沖縄そばの誕生
それぞれ,関連のある投書の近くに掲載されているので,参考になります。「辻の遊郭」はもちろん,私が好きだったのは「沖縄の鉄道」です。
沖縄地元の方が「鉄道」について発言をしているのは,少し不思議な感じがしますよねー。
また,本書には,「沖縄軽便鉄道時刻表」が掲載されていて,「こういう感じで運行していたのか」ということがわかります(例:那覇6:20発 – 与那原6:49着)。
2023.04.26
『沖縄のトリセツ』地形,交通,歴史,産業などから沖縄を分析した一冊
地方の書店は,ご当地に関する本の宝庫です。東京の書店やネット書店では取り扱っていない,または取扱はあるけれど目立たない本も,その地方に行けば...
最近の若者は…
西武門佐久川湯屋の主人にお願いします。あの高志保という理髪店ではいつでも5, 6人の二才(にーせー/青年)が連集まって,しきりに女湯をのぞいて嬉しがっておるから,そこはひとつ何とか方法をこらえて外から見えないようにしてください。中におる人々が一方ならん迷惑をするからこの際,至急に外部からのぞいても見えないようにしてくださるようにお願いします。
風呂をのぞく若者 88ページ
今なら大問題になるかもしれませんが,ちょっと前の日本では,ドリフのコントなどではよく見かける設定でしたよね(笑)。投書でも「最近の若者」が女湯を覗くことについて,投書がされていました。
わたしの主張
今からの人間は学問ばかりでは駄目だ。まず金を儲けるにこしたことはない。すなわち学問をするにも金が無ければなるまいし,また社会に立ちて何事かなさんとするにも金がなければ到底できるものではない。
今の世の中には無暗と本箱になりたがるものが多いからいけない。すべからく労働すべきだ。そして勉強すれば身体のためにもなる。またそのような愉快なことはない。
学問ばかりではダメだ 237ページ
本書の投稿の中で面白いひとつが「わたしの主張」です。自分の意見を述べ,理論がなくても「べき」と語るあたり,今のSNSやニュースサイトのコメントで見かけるのとまったく同じですよね。
こういうのって,100年も前からあったのだと思うと,人間の本質はなかなか変わらないものなのだと改めて感じるのでした。
まとめ
本書を読んだ読者は,百年前の新聞投書があまりにも自由で多彩な内容であることにおそらく驚いたはずだ。当時の沖縄に生きていた,名もなき人々の様子や気持ちをこれほど生々しく鮮明に伝える資料を私は他に知らない。
同じように感じます。
そういえば,100年前の人々の生活がわかる投書って,「琉球新報」以外にもやっているところはあるのでしょうか(気になる)。
書名 | 新聞投稿に見る百年前の沖縄 |
著者 | 上里 隆史 |
出版社 | 原書房 |