民法における「受領権者に対する弁済」(478条、479条)についてまとめています。前回は、債務者以外の人による弁済(第三者弁済)についてでした(474条)。今回は、債権者以外の人に対する弁済です。弁済する側の話なのか、弁済される側の話なのかを整理しておきましょう。
受領権者としての外観を有する者に対する弁済
弁済
大前提として、債務者が債権者に対して債務の弁済をしたとき、債務は消滅します(473条)。
条文で見ると難しく感じますが、お金を借りた人(債務者)がお金を貸した人(債権者)にお金を返したら(弁済)、金銭の貸し借りがなくなる(消滅)ということです。
受領権者
受領権者(債権者、法令の規定または当事者に意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、効力を有します(478条)。
まず、受領権者とは、債権者だけではないというのがポイントです。
法令の規定とは、たとえば法定代理人などが考えられます。
当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者も受領権者になります。A「私が出かけている間に宅配便が来たら荷物を受け取っておいて」、B「わかった」という当事者の意思表示によって弁済を受領する権限が付与されていれば、そのBも受領権者になります。
受領権者としての外観を有する者
問題はここからです。受領権者ではないけれど取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するも(表見受領者)に対する弁済です。受領権者に見えるけれど(本当は)権利がないという状態です。たとえば、代理人と詐称している人、受取証書の持参人などが当てはまります。
この場合、弁済をした者を保護する必要がありますが(弁済している)、同時に弁済をしてもらう者(債権者)も保護する必要があります(弁済してもらっていない)。そこで、弁済をした者が善意無過失であった場合は、弁済の効力を有するとしています(478条)。
このどちらも保護する必要があるという絶妙なときは無過失が要求されるという感覚をつかむと、民法の丸暗記から解放されるようになります。
大切なのは、弁済を受けた者が受領権者としての外観を有していたかということと、弁済をした人が善意無過失であったかということで、本人(債権者)の帰責性は関係ないということです。考えてみればわかることですが、そもそも本人が判断できる(本人が弁済を受ける)場面であれば、本人が受け取ったかどうかという問題は発生することはありません。
受領権者以外の者に対する弁済
受領権者としての外観を有する者に対しての弁済の場合を除き、受領権者以外の者に対してした弁済は、債権者が利益を受けた限度においてのみ、弁済の効力を有します(479条)。
まず、受領権者としての外観を有する者に対しての弁済の場合は除かれているので、受領権者としての外観を有する者に対しての弁済の場合は、弁済をした者が善意無過失であれば、有効になります。
一方、もし、弁済が無効であった場合、弁済者は債権者にもう一度弁済する必要があります。そして、弁済を受領した者に不当利得返還(法律上の権利がないのだから返してということ)を請求します。
しかし、不当利得返還されたものをまた債権者に弁済するのは煩雑なので、債権者が利益を得た限度で弁済の効力を有する(債務が消滅する)と規定されています。「債権者が利益を得た限度」とは、受領権者以外の者から受領されたなどの場合です。
また、弁済者が、受領者に受領権限がないことを知っていたときでも、債権者が利益を受けた限度で、弁済の効力が生じるとされています(最判昭18.11.13)。受領権限がないことを知った上でお金を返しても(危険!)、債権者が受け取ったのならその範囲で弁済されたことになるということです。
これまでのことを例で見てみましょう。
- Aさん:債権者
- Bさん:債務者
- Cさん:受領権者以外の者
Bさんが、Aさんに1,000万円を借りているとします。Bさんは、Cさん(受領権者としての外観を有していない)に1000万円を弁済しました。Bさんは、Cさんに1000万円を不当利得返還を請求できますが、CさんがAさんに1000万円を渡しているなら、弁済されたと扱うということです。
仮に、CさんがAさんに600万円しか渡していなかったら、Aさんは利益を得た限度(600万円)で弁済されたことになります。この場合、Bさんは、Aさんに400万円を弁済する必要があり、Cさんに400万円を不当利得返還を請求することが考えられます。
まとめ
受領権者以外の者に対する弁済は、①取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものかどうかで判断します。もし、そうなら弁済した人が善意無過失かどうかで弁済の効力が分かれます。②受領権者としての外観を有していないのなら、債権者の利益を得た限度で弁済の効力を有します。
- 受領権者としての外観を有する→(善意無過失のときに限り)弁済の効力を有する
- 受領権者としての外観を有さない→債権者の利益を得た限度で弁済の効力を有する