健康保険法の費用の負担について学習します。
目次
国庫負担
国庫は、毎年度、予算の範囲内において、健康保険事業の事務の執行に要する費用を負担する(151条)。
健康保険組合に対して交付する国庫負担金は、各健康保険組合における被保険者数を基準として、厚生労働大臣が算定する(152条1項)。
前項の国庫負担金については、概算払をすることができる(152条2項)。
国庫補助
国庫は、費用のほか、協会が管掌する健康保険の事業の執行に要する費用のうち、被保険者に係る療養の給付等の合算額に1000分の130から1000分の200までの範囲内において政令で定める割合を乗じて得た額を補助する。(153条)。
国庫は、予算の範囲内において、健康保険事業の執行に要する費用のうち、特定健康診査等の実施に要する費用の一部を補助することができる(154条の2)。
保険料
保険者等は、健康保険事業に要する費用に充てるため、保険料を徴収する(155条1項)。
協会が管掌する健康保険の任意継続被保険者に関する保険料は、協会が徴収する(155条2項)。
被保険者の保険料額
被保険者に関する保険料額は、各月につき、次の各号に掲げる被保険者の区分に応じ、当該各号に定める額とする(156条1項)。
① 介護保険第2号被保険者である被保険者 一般保険料と介護保険料額との合算額
② 介護保険第2号被保険者である被保険者以外の被保険者 一般保険料額
前項第1号の規定にかかわらず、介護保険第2号被保険者である被保険者が介護保険第2号被保険者に該当しなくなった場合においては、その月分の保険料額は、一般保険料額とする。ただし、その月に再び介護保険第2号被保険者となった場合その他政令で定める場合は、この限りでない(156条2項)。
前月から引き続き被保険者である者がその資格を喪失した場合においては、その月分の保険料は、算定しない(156条3項)。
介護保険は、社会保険に関する一般常識で学習しますが、介護保険第2号被保険者は、40歳以上64歳未満の医療保険加入者です。介護保険第2号被保険者は、介護保険料を負担するため、一般保険料と介護保険料額との合算額が保険料の額となります。介護保険第2号被保険者である被保険者以外は、一般保険料のみとなります。
被保険者は、資格を喪失した場合、その月分の保険料は算定されません。
保険料の徴収の特例
育児休業等をしている被保険者が使用される事業所の事業主が、厚生労働省令で定めるところにより保険者等に申出をしたときは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める月の当該被保険者に関する保険料(その育児休業等の期間が1月以下である者については、標準報酬月額に係る保険料に限る。)は、徴収しない(159条1項)。
① その育児休業等を開始した日の属する月とその育児休業等が終了する日の翌日が属する月とが異なる場合 その育児休業等を開始した日の属する月からその育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの月
② その育児休業等を開始した日の属する月とその育児休業等が終了する日の翌日が属する月とが同一であり、かつ、当該月における育児休業等の日数として厚生労働省令で定めるところにより計算した日数が14日以上である場合 当該月
被保険者が連続する2以上の育児休業等をしている場合における前項の規定の適用については、その全部を一の育児休業等とみなす(159条2項)。
育児休業等をしている被保険者が使用される事業所の事業主が、保険者等に申出をしたときは、次の期間の保険料が免除されます。
1号について、育児休業等を開始した日の属する月と終了する日の翌日が属する月とが異なる場合、育児休業等を開始した日の属する月から終了する日の翌日が属する月の前月までの月が免除されます。たとえば、4月15日から9月20日まで育児休業をしていた場合、4月から8月まで免除されるということです。2号について、育児休業等を開始した日の属する月と終了する日の翌日が属する月とが同一であり、日数が14日以上である場合、当該月について免除されます。
また、括弧書きについて、育児休業等の期間が1月以下である者については、標準報酬月額に係る保険料のみが免除されます。つまり、標準賞与額に係る保険料は免除されないということです。
保険料の徴収の特例は、育児休業等をしている被保険者を保護しようというのと同時に、制度を悪用されないように調整されているという感覚を持つと理解しやすいと思います。
育児休業と同様のことが、産前産後休業でも規定されています。
保険料率
協会が管掌する健康保険の被保険者に関する一般保険料率は、1000分の30から1000分の130までの範囲内において、支部被保険者を単位として協会が決定するものとする(160条1項)。
前項の規定により支部被保険者を単位として決定する一般保険料率(以下「都道府県単位保険料率」という。)は、当該支部被保険者に適用する(160条2項)。
協会は、2年ごとに、翌事業年度以降の5年間についての協会が管掌する健康保険の被保険者数及び総報酬額の見通し並びに保険給付に要する費用の額、保険料の額その他の健康保険事業の収支の見通しを作成し、公表するものとする(160条5項)。
協会が都道府県単位保険料率を変更しようとするときは、あらかじめ、理事長が当該変更に係る都道府県に所在する支部の支部長の意見を聴いた上で、運営委員会の議を経なければならない(160条6項)。
協会が都道府県単位保険料率を変更しようとするときは、理事長は、その変更について厚生労働大臣の認可を受けなければならない(160条8項)。
厚生労働大臣は、都道府県単位保険料率が、当該都道府県における健康保険事業の収支の均衡を図る上で不適当であり、協会が管掌する健康保険の事業の健全な運営に支障があると認めるときは、協会に対し、相当の期間を定めて、当該都道府県単位保険料率の変更の認可を申請すべきことを命ずることができる(160条10項)。
厚生労働大臣は、協会が前項の期間内に同項の申請をしないときは、社会保障審議会の議を経て、当該都道府県単位保険料率を変更することができる(160条11項)。
特定保険料率は、各年度において保険者が納付すべき前期高齢者納付金等の額及び後期高齢者支援金等の額並びに流行初期医療確保拠出金等の額の合算額を当該年度における当該保険者が管掌する被保険者の総報酬額の総額の見込額で除して得た率を基準として、保険者が定める(160条14項)。
基本保険料率は、一般保険料率から特定保険料率を控除した率を基準として、保険者が定める(160条15項)。
介護保険料率は、各年度において保険者が納付すべき介護納付金(日雇特例被保険者に係るものを除く。)の額を当該年度における当該保険者が管掌する介護保険第2号被保険者である被保険者の総報酬額の総額の見込額で除して得た率を基準として、保険者が定める(160条16項)。
協会が都道府県単位保険料率を変更しようとするときは、支部長の意見を聴いた上で、運営委員会の議を経る、厚生労働大臣の認可を受けるという流れをおさえておきましょう。
準備金
保険料の負担及び納付義務
被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料額の2分の1を負担する。ただし、任意継続被保険者は、その全額を負担する(161条1項)。
事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う(161条2項)。
任意継続被保険者は、自己の負担する保険料を納付する義務を負う(161条3項)。
保険料の負担は、実感しやすい部分だと思います。事業主は、保険料額の2分の1を負担します。ただし、任意継続被保険者は、全額を負担します。任意継続被保険者は、会社を辞めた人なので、この人の分まで事業主が負担する必要はないと考えるとわかりやすいと思います。
健康保険組合の保険料の負担割合の特例
保険料の納付
被保険者に関する毎月の保険料は、翌月末日までに、納付しなければならない。ただし、任意継続被保険者に関する保険料については、その月の10日(初めて納付すべき保険料については、保険者が指定する日)までとする(164条1項)。
保険者等は、被保険者に関する保険料の納入の告知をした後に告知をした保険料額が当該納付義務者の納付すべき保険料額を超えていることを知ったとき、又は納付した被保険者に関する保険料額が当該納付義務者の納付すべき保険料額を超えていることを知ったときは、その超えている部分に関する納入の告知又は納付を、その告知又は納付の日の翌日から6月以内の期日に納付されるべき保険料について納期を繰り上げてしたものとみなすことができる(164条2項)。
任意継続被保険者の保険料の前納
任意継続被保険者は、将来の一定期間の保険料を前納することができる(165条1項)。
前項の場合において前納すべき額は、当該期間の各月の保険料の額から政令で定める額[年4分の利率]を控除した額とする(165条2項、令49条)。
第1項の規定により前納された保険料については、前納に係る期間の各月の初日が到来したときに、それぞれその月の保険料が納付されたものとみなす(165条3項)。
倒産、解雇などにより離職した者及び雇止めなどにより離職された者が任意継続被保険者となり、保険料を前納したが、その後に国民健康保険法施行令第29条の7の2に規定する国民健康保険料(税)の軽減制度について知った場合、当該任意継続被保険者が保険者に申し出ることにより、当該前納を初めからなかったものとすることができる(平22.3.24保保発0324第2号)。
口座振替による納付
徴収法のところでも出てきた、口座振替による納付による独特の言い回しです。選択式対策としておさえておきましょう。
保険料の源泉控除
事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる(167条1項)。
事業主は、被保険者に対して通貨をもって賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる(167条2項)。
事業主は、前2項の規定によって保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない(167条3項)。
事業主は、被保険者の負担すべき保険料を報酬と賞与から控除することができます。そして、保険料を控除したときは、計算書を作成し、控除額を被保険者に通知しなければなりません。
日雇特例被保険者に係る保険料の負担及び納付義務
事業主(日雇特例被保険者が一日において2以上の事業所に使用される場合においては、初めにその者を使用する事業主)は、日雇特例被保険者を使用する日ごとに、その者及び自己の負担すべきその日の標準賃金日額に係る保険料を納付する義務を負う(169条2項)。
保険料の納付は、日雇特例被保険者が提出する日雇特例被保険者手帳に健康保険印紙をはり、これに消印して行わなければならない(169条3項)。
日雇特例被保険者手帳を所持する日雇特例被保険者は、適用事業所に使用される日ごとに、その日雇特例被保険者手帳を事業主に提出しなければならない(169条4項)。
事業主は、日雇特例被保険者を使用する日ごとに、日雇特例被保険者にその所持する日雇特例被保険者手帳の提出を求めなければならない(169条5項)。
事業主は、第2項の規定により保険料を納付したときは、日雇特例被保険者の負担すべき保険料額に相当する額をその者に支払う賃金から控除することができる。この場合においては、事業主は、その旨を日雇特例被保険者に告げなければならない(169条6項)。
事業主は、日雇特例被保険者手帳に健康保険印紙をはり、消印する方法により、保険料を納付します。
日雇特例被保険者の標準賃金日額に係る保険料額の告知等
事業主が保険料の納付を怠ったときは、厚生労働大臣は、その調査に基づき、その納付すべき保険料額を決定し、これを事業主に告知する(170条1項)。
事業主が、正当な理由がないと認められるにもかかわらず、保険料の納付を怠ったときは、厚生労働大臣は、前項の規定により決定された保険料額の100分の25に相当する額の追徴金を徴収する。ただし、決定された保険料額が1000円未満であるときは、この限りでない(170条2項)。
追徴金を計算するに当たり、決定された保険料額に1000円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる(170条3項)。
第2項に規定する追徴金は、その決定された日から14日以内に、厚生労働大臣に納付しなければならない(170条4項)。
日雇特例被保険者の100分の25に相当する額の追徴金は、徴収法に出てきたものと同じなので、紐づけておきましょう。
保険料の繰上徴収
保険料は、次に掲げる場合においては、納期前であっても、すべて徴収することができる(172条1項各号)。
① 納付義務者が、次のいずれかに該当する場合
イ 国税、地方税その他の公課の滞納によって、滞納処分を受けるとき。
ロ 強制執行を受けるとき。
ハ 破産手続開始の決定を受けたとき。
ニ 企業担保権の実行手続の開始があったとき。
ホ 競売の開始があったとき。
② 法人である納付義務者が、解散をした場合
③ 被保険者の使用される事業所が、廃止された場合
1号から3号の場合、保険料の徴収ができなくなるおそれがあることから、保険料の繰上徴収が認められています。
日雇拠出金の徴収及び納付義務
厚生労働大臣は、日雇特例被保険者に係る健康保険事業に要する費用に充てるため、保険料を徴収するほか、毎年度、日雇特例被保険者を使用する事業主の設立する健康保険組合(以下「日雇関係組合」という。)から拠出金を徴収する(173条1項)。
日雇関係組合は、前項に規定する拠出金(以下「日雇拠出金」という。)を納付する義務を負う。(173条2項)。
保険料等の督促及び滞納処分
保険料等を滞納する者があるときは、保険者等は、期限を指定して、これを督促しなければならない。ただし、保険料の繰上徴収により保険料を徴収するときは、この限りでない(180条1項)。
前項の規定によって督促をしようとするときは、保険者等は、納付義務者に対して、督促状を発する(180条2項)。
督促状により指定する期限は、督促状を発する日から起算して10日以上を経過した日でなければならない(180条3項本文)。
保険者等は、納付義務者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、国税滞納処分の例によってこれを処分し、又は納付義務者の居住地若しくはその者の財産所在地の市町村に対して、その処分を請求することができる(180条4項)。
① 督促を受けた者がその指定の期限までに保険料等を納付しないとき。
② 納期を繰り上げて保険料納入の告知を受けた者がその指定の期限までに保険料を納付しないとき。
協会又は健康保険組合が国税滞納処分の例により処分を行う場合においては、厚生労働大臣の認可を受けなければならない(180条5項)。
市町村は、第4項の規定による処分の請求を受けたときは、市町村税の例によってこれを処分することができる。この場合においては、保険者は、徴収金の100分の4に相当する額を当該市町村に交付しなければならない(180条6項)。
「督促状を発する日から起算して10日以上を経過した日」というのは、徴収法のところと同じです。保険者は、国税滞納処分の例により処分を行う場合は、厚生労働大臣の認可を受けます。そして、市町村が処分したときは、保険者は、徴収金の100分の4に相当する額を市町村に交付します。保険者に代わって徴収してくれた手数料のように考えるとわかりやすいと思います。
延滞金
督促をしたときは、保険者等は、徴収金額に、納期限の翌日から徴収金完納又は財産差押えの日の前日までの期間の日数に応じ、年14.6パーセント(当該督促が保険料に係るものであるときは、当該納期限の翌日から3月を経過する日までの期間については、年7.3パーセント)の割合を乗じて計算した延滞金を徴収する。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合又は滞納につきやむを得ない事情があると認められる場合は、この限りでない(181条1項)。
① 徴収金額が1000円未満であるとき。
② 納期を繰り上げて徴収するとき。
③ 納付義務者の住所若しくは居所が国内にないため、又はその住所及び居所がいずれも明らかでないため、公示送達の方法によって督促をしたとき。
延滞金を計算するに当たり、徴収金額に1000円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる(181条3項)。
督促状に指定した期限までに徴収金を完納したとき、又は計算した金額が100円未満であるときは、延滞金は、徴収しない(181条4項)。
延滞金の金額に100円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる(181条5項)。
延滞金は、徴収法のところと同じように考えることができます。