社会保険に関する一般常識から船員保険法について学習します。これまでさまざまな法律で出てきた船員保険がどのようなものかみていきましょう。
目次
第1章 総則
目的
船員保険法は、船員またはその被扶養者の職務外の疾病等に関して保険給付を行う、つまり、健康保険の役割があります。また、職務上の事由または通勤による疾病等に関して保険給付を行う、つまり、労災保険の役割があります。かんたんにいうと、船員のための健康保険と労災保険ということです。
元々、船員保険法は、船員に対する総合的な社会保険制度でした。しかし、船員保険の被保険者は少ないため、年金部分は厚生年金保険に、労災・雇用部分は労災保険、雇用保険に統合されています。そのため、現在は、健康保険部分、労災保険部分の上乗せを行っています。本試験では、健康保険法や労災保険法との違いの部分が問われるので、それらをおさえていきましょう。
定義
この法律において「被保険者」とは、船員として船舶所有者に使用される者及び疾病任意継続被保険者をいう(2条1項)。
この法律において「疾病任意継続被保険者」とは、船舶所有者に使用されなくなったため、被保険者の資格を喪失した者であって、喪失の日の前日まで継続して2月以上被保険者であったもののうち、全国健康保険協会に申し出て、継続して被保険者になった者をいう。ただし、健康保険の被保険者(日雇特例被保険者を除く。)又は後期高齢者医療の被保険者である者は、この限りでない(2条2項)。
疾病任意継続被保険者について、健康保険法の任意継続被保険者と同じように考えることができます。
第2章 保険者
管掌
船員保険は、協会(全国健康保険協会)が、管掌する(4条1項)。
協会が管掌する船員保険の事業に関する業務のうち、被保険者の資格の取得及び喪失の確認、標準報酬月額及び標準賞与額の決定並びに保険料の徴収(疾病任意継続被保険者に係るものを除く。)並びにこれらに附帯する業務は、厚生労働大臣が行う(4条2項)。
船員保険協議会
船員保険事業に関して船舶所有者及び被保険者(その意見を代表する者を含む。)の意見を聴き、当該事業の円滑な運営を図るため、協会に船員保険協議会を置く(6条1項)。
船員保険協議会の委員は、12人以内とし、船舶所有者、被保険者及び船員保険事業の円滑かつ適正な運営に必要な学識経験を有する者のうちから、厚生労働大臣が任命する(同条2項)。
船員保険協議会の委員は、3つの立場から選ばれるという点に注目しましょう。
第3章 被保険者
資格取得の時期
資格喪失の時期
資格得喪に関しては、いつもどおり、「被保険者」の定義である「船員として船舶所有者に使用される者」(2条1項)を理解記憶して、それに当てはまるかどうかで判断できるようにしましょう。
疾病任意継続被保険者の申出等
疾病任意継続被保険者の申出は、被保険者の資格を喪失した日から20日以内にしなければならない。ただし、協会は、正当な理由があると認めるときは、この期間を経過した後の申出であっても、受理することができる(13条1項)。
疾病任意継続被保険者の申出をした者が、初めて納付すべき保険料をその納付期日までに納付しなかったときは、その者は、疾病任意継続被保険者とならなかったものとみなす。ただし、その納付の遅延について正当な理由があると協会が認めたときは、この限りでない(13条2項)。
健康保険法の任意継続被保険者と同じように考えることができます。
標準報酬月額及び標準賞与額
標準報酬月額及び標準賞与額、改定などは健康保険法と同様の規定がされています。そのため、船員保険法として問われる可能性は少ないですが(出題者側は健康保険法との違いを問いたいと考える)、問われたときは健康保険法と同じように考えましょう。
第4章 保険給付
保険給付の種類
船員保険法による職務外の事由(通勤を除く。以下同じ。)による疾病、負傷若しくは死亡又は出産に関する保険給付は、次のとおりとする(29条1項)。
① 療養の給付並びに入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費及び移送費の支給
② 傷病手当金の支給
③ 葬祭料の支給
④ 出産育児一時金の支給
⑤ 出産手当金の支給
⑥ 家族療養費、家族訪問看護療養費及び家族移送費の支給
⑦ 家族葬祭料の支給
⑧ 家族出産育児一時金の支給
⑨ 高額療養費及び高額介護合算療養費の支給
健康保険法と同じように考えることができます。費用の負担なども健康保険法と同じです。
職務上の事由若しくは通勤による疾病、負傷、障害若しくは死亡又は職務上の事由による行方不明に関する保険給付は、労働者災害補償保険法の規定による保険給付のほか、次のとおりとする(29条2項各号)。
① 休業手当金の支給
② 障害年金及び障害手当金の支給
③ 障害差額一時金の支給
④ 障害年金差額一時金の支給
⑤ 行方不明手当金の支給
⑥ 遺族年金の支給
⑦ 遺族一時金の支給
⑧ 遺族年金差額一時金の支給
こちらは労災法と同じように考えることができます。船員保険法特有の給付として「行方不明手当金」があります(後述します)。
付加給付
死亡の推定
死亡の推定については、いつもと同じように考えることができます。船員保険法は、後述する行方不明手当金の支給があるため、死亡の推定について意識しておきましょう。
傷病手当金
被保険者又は被保険者であった者が被保険者の資格を喪失する前に発した職務外の事由による疾病又は負傷及びこれにより発した疾病につき療養のため職務に服することができない期間、傷病手当金を支給する(69条1項)。
傷病手当金の額は、1日につき、傷病手当金の支給を始める日(被保険者であった者にあっては、その資格を喪失した日。)の属する月以前の直近の継続した12月間の各月の標準報酬月額を平均した額の30分の1に相当する額の3分の2に相当する金額とする(69条2項本文)。
疾病任意継続被保険者又は疾病任意継続被保険者であった者に係る第1項の規定による傷病手当金の支給は、当該被保険者の資格を取得した日から起算して1年以上経過したときに発した疾病若しくは負傷又はこれにより発した疾病については、行わない(69条4項)。
傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から通算して3年間とする(69条5項)。
1項について、「職務に服することができない期間」傷病手当金を支給します。健康保険法と異なり、待機期間がない点に注意しましょう。
2項について、傷病手当金の額は、健康保険法と同じです。
3項について、傷病手当金の支給期間は、「支給を始めた日から通算して3年間」です。健康保険法が、1年6月間であったことと比較しましょう。
行方不明手当金の支給要件
船員保険法の被保険者は、船の上で仕事をするため、職務上の事由により行方不明となる可能性が、他の職種と比べて高くなります。そのため、被保険者が職務上の事由により行方不明となったときは、その期間、被扶養者に対し、行方不明手当金を支給します。
行方不明手当金の額
傷病手当金と異なり、標準報酬日額に相当する金額である点に注意しましょう。
行方不明手当金の支給期間
行方不明手当金の支給を受ける期間は、3月が限度です。これは、被保険者の生死が3月間分からない場合には、行方不明となった日に、その者は、死亡したものと推定され(42条)、そのあとは、遺族年金等が支給されるからです。かんたんにいうと、行方不明手当金は、被保険者が行方不明になって1月から3月までの間の被扶養者の生活を保障するために支給するものと考えることができます。
報酬との調整
第5章 保健事業及び福祉事業
※省略
第6章 費用の負担
保険料額
① 介護保険第2号被保険者である被保険者 一般保険料額(各被保険者の標準報酬月額及び標準賞与額にそれぞれ一般保険料率を乗じて得た額をいう。以下同じ。)と介護保険料額(各被保険者の標準報酬月額及び標準賞与額にそれぞれ介護保険料率を乗じて得た額をいう。以下同じ。)との合算額
② 介護保険第2号被保険者である被保険者以外の被保険者 一般保険料額
一般保険料率
一般保険料率は、疾病保険料率と災害保健福祉保険料率とを合計して得た率とする(120条1項)。
後期高齢者医療の被保険者等である被保険者及び独立行政法人等職員被保険者にあっては、一般保険料率は、災害保健福祉保険料率のみとする(120条2項)。
船員保険法は、健康保険法と労災法の機能があるため、一般保険料率は、それぞれに対応する疾病保険料率と災害保健福祉保険料率とを合計して得た率とします。
後期高齢者医療の被保険者等である被保険者は、健康保険分(疾病保険料率)は後期高齢者医療制度として保険料を負担するため、労災分(災害保健福祉保険料率)のみ負担します。また、独立行政法人等職員被保険者も、国家公務員法共済組合の組合員で保険料を負担するため、労災分のみ負担します。
疾病保険料率
疾病保険料率は、1000分の40から1000分の130までの範囲内において、協会が決定するものとする(121条1項)。
健康保険料率が1000分の30から1000分の130であった点と比較しましょう(健康保険法160条1項)。
災害保健福祉保険料率
労災保険料率は、事業の種類ごとに1000分の2.5から1000分の88までの間で定められています(徴収法12条3項、規則16条、規則別表第1)。
保険料の納付義務
船舶所有者は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う(126条1項)。
疾病任意継続被保険者は、自己の負担する保険料を納付する義務を負う(126条2項)。
保険料の納付
このあたりは、健康保険法と同じように考えることができます。その他、口座振替による納付、保険料の源泉控除、滞納処分なども同様です。
第7章 不服申立て
審査請求及び再審査請求
被保険者の資格、標準報酬又は保険給付に関する処分に不服がある者は、社会保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服がある者は、社会保険審査会に対して再審査請求をすることができる(138条1項)。
保険料等の賦課若しくは徴収の処分又は保険料等の督促及び滞納処分に不服がある者は、社会保険審査会に対して審査請求をすることができる(139条)。
審査請求については、健康保険法と同じように考えることができます。
第8章 雑則
※省略
第9章 罰則
※省略