社会保険に関する一般常識から介護保険法について学習します。介護保険法は、全14章で構成されています。
目次
第1章 総則
目的
介護保険
介護保険は、被保険者の要介護状態又は要支援状態(要介護状態等)に関し、必要な保険給付を行うものとする(2条1項)。
保険給付は、要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資するよう行われるとともに、医療との連携に十分配慮して行われなければならない(2条2項)。
保険給付は、被保険者の心身の状況、その置かれている環境等に応じて、被保険者の選択に基づき、適切な保健医療サービス及び福祉サービスが、多様な事業者又は施設から、総合的かつ効率的に提供されるよう配慮して行われなければならない(2条3項)。
保険者
特別区というのは、いわゆる東京23区のことです。
国民の努力及び義務
国民は、自ら要介護状態となることを予防するため、加齢に伴って生ずる心身の変化を自覚して常に健康の保持増進に努めるとともに、要介護状態となった場合においても、進んでリハビリテーションその他の適切な保健医療サービス及び福祉サービスを利用することにより、その有する能力の維持向上に努めるものとする(4条1項)。
国民は、共同連帯の理念に基づき、介護保険事業に要する費用を公平に負担するものとする(4条2項)。
国及び地方公共団体の責務
国は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるよう保健医療サービス及び福祉サービスを提供する体制の確保に関する施策その他の必要な各般の措置を講じなければならない(5条1項)。
都道府県は、介護保険事業の運営が健全かつ円滑に行われるように、必要な助言及び適切な援助をしなければならない(5条2項)。
国及び地方公共団体は、被保険者が、可能な限り、住み慣れた地域でその有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、保険給付に係る保健医療サービス及び福祉サービスに関する施策、要介護状態等となることの予防又は要介護状態等の軽減若しくは悪化の防止のための施策並びに地域における自立した日常生活の支援のための施策を、医療及び居住に関する施策との有機的な連携を図りつつ包括的に推進するよう努めなければならない(5条4項)。
国は、「必要な各般の措置」を講じ、都道府県は、必要な助言と適切な援助をします。そして、介護保険を行うのは、市町村及び特別区です。
以下、介護保険法を学習する上で必要になる用語について、定義をみていきましょう。
定義
「要介護状態」とは、身体上又は精神上の障害があるために、入浴、排せつ、食事等の日常生活における基本的な動作の全部又は一部について、厚生労働省令で定める期間[6月間]にわたり継続して、常時介護を要すると見込まれる状態であって、その介護の必要の程度に応じて厚生労働省令で定める区分(要介護状態区分)のいずれかに該当するもの(要支援状態に該当するものを除く。)をいう(7条1項、規則2条)。
「要支援状態」とは、身体上若しくは精神上の障害があるために入浴、排せつ、食事等の日常生活における基本的な動作の全部若しくは一部について厚生労働省令で定める期間[6月間]にわたり継続して常時介護を要する状態の軽減若しくは悪化の防止に特に資する支援を要すると見込まれ、又は身体上若しくは精神上の障害があるために厚生労働省令で定める期間にわたり継続して日常生活を営むのに支障があると見込まれる状態であって、支援の必要の程度に応じて厚生労働省令で定める区分(要支援状態区分)のいずれかに該当するものをいう(7条2項、規則3条)。
「要介護者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう(7条3項)。
① 要介護状態にある65歳以上の者
② 要介護状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病であって政令で定めるもの(特定疾病)によって生じたものであるもの
「要支援者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう(7条4項)。
① 要支援状態にある65歳以上の者
② 要支援状態にある40歳以上65歳未満の者であって、その要支援状態の原因である身体上又は精神上の障害が特定疾病によって生じたものであるもの
第2章 被保険者
被保険者
次の各号のいずれかに該当する者は、市町村又は特別区(以下単に「市町村」という。)が行う介護保険の被保険者とする(9条各号)。
① 市町村の区域内に住所を有する65歳以上の者(第1号被保険者)
② 市町村の区域内に住所を有する40歳以上65歳未満の医療保険加入者(第2号被保険者)
第3章 介護認定審査会
介護認定審査会
第4章 保険給付
保険給付の種類
この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする(18条)。
①被保険者の要介護状態に関する保険給付(介護給付)
②被保険者の要支援状態に関する保険給付(予防給付)
③要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資する保険給付として条例で定めるもの(市町村特別給付)
保険給付では、認定の流れをおさえましょう。
市町村の認定
介護給付を受けようとする被保険者は、要介護者に該当すること及びその該当する要介護状態区分について、市町村の認定(要介護認定)を受けなければならない(19条1項)。
予防給付を受けようとする被保険者は、要支援者に該当すること及びその該当する要支援状態区分について、市町村の認定(要支援認定)を受けなければならない(19条2項)。
要介護認定
要介護認定を受けようとする被保険者は、申請書に被保険者証を添付して市町村に申請をしなければならない。この場合において、当該被保険者は、指定居宅介護支援事業者、地域密着型介護老人福祉施設若しくは介護保険施設であって厚生労働省令で定めるもの又は地域包括支援センターに、当該申請に関する手続を代わって行わせることができる(27条1項、32条1項)。
市町村は、申請があったときは、当該職員をして、当該申請に係る被保険者に面接させ、その心身の状況、その置かれている環境その他厚生労働省令で定める事項について調査をさせるものとする(27条2項、32条2項)。
市町村は、申請があったときは、当該申請に係る被保険者の主治の医師に対し、当該被保険者の身体上又は精神上の障害の原因である疾病又は負傷の状況等につき意見を求めるものとする(27条3項本文、32条2項)。
市町村は、調査の結果、主治の医師の意見又は指定する医師若しくは当該職員で医師であるものの診断の結果その他厚生労働省令で定める事項を認定審査会に通知し、申請に係る被保険者について、次の各号に掲げる被保険者の区分に応じ、当該各号に定める事項に関し審査及び判定を求めるものとする(27条4項、32条3項)。
① 第1号被保険者 要介護状態に該当すること及びその該当する要介護状態区分
② 第2号被保険者 要介護状態に該当すること、その該当する要介護状態区分及びその要介護状態の原因である身体上又は精神上の障害が特定疾病によって生じたものであること。
認定審査会は、審査及び判定を求められたときは、厚生労働大臣が定める基準に従い、審査及び判定を行い、その結果を市町村に通知するものとする(27条5項、32条4項)。
市町村は、通知された認定審査会の審査及び判定の結果に基づき、要介護認定をしたときは、その結果を被保険者に通知しなければならない(27条7項、32条6項)。
要介護認定は、その申請のあった日にさかのぼってその効力を生ずる(27条8項、32条7項)。
要介護認定を受けようとする被保険者は、市町村に申請します。
市町村は、申請があったときは、面接や調査などをし、主治の医師に意見を求めます。そして、調査の結果、認定審査会に通知し、審査と判定を求めます。
なお、「をして」とは、「使役」を表す助詞で、「当該職員に〜させる」といった意味になります。
認定審査会は、審査及び判定を求められたときは、審査及び判定を行い、その結果を市町村に通知します。
市町村は、要介護認定をしたときは、被保険者に通知します。
これまで見てきたように、申請をしてから結果が出るまでいくつかの工程があるため、要介護認定は、申請のあった日にさかのぼってその効力を生じます。
ここでは、要介護認定のみ解説しましたが、要支援認定も同様の流れになります。
要介護認定の更新
要介護認定等は、要介護状態区分に応じて有効期間内に限り、その効力を有する(28条1項、33条1項)。
要介護認定を受けた被保険者は、有効期間の満了後においても要介護状態に該当すると見込まれるときは、市町村に対し、当該要介護認定等の更新(要介護更新認定)の申請をすることができる(28条2項、33条2項)。
要介護状態区分の変更の認定
介護給付の種類
介護給付は、次に掲げる保険給付とする(40条)。
①居宅介護サービス費の支給
②特例居宅介護サービス費の支給
③地域密着型介護サービス費の支給
④特例地域密着型介護サービス費の支給
⑤居宅介護福祉用具購入費の支給
⑥居宅介護住宅改修費の支給
⑦居宅介護サービス計画費の支給
⑧特例居宅介護サービス計画費の支給
⑨施設介護サービス費の支給
⑩特例施設介護サービス費の支給
⑪高額介護サービス費の支給
⑪の②高額医療合算介護サービス費の支給
⑫特定入所者介護サービス費の支給
⑬特例特定入所者介護サービス費の支給
詳細は割愛します。
第5章 介護支援専門員並びに事業者及び施設
※省略
第6章 地域支援事業等
地域支援事業
地域包括支援センター
地域包括支援センターは、第1号介護予防支援事業(居宅要支援被保険者に係るものを除く。)及び包括的支援事業その他厚生労働省令で定める事業を実施し、地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設とする(115条の46第1項)。
市町村は、地域包括支援センターを設置することができる(115条の46第2項)。
市町村は、地域支援事業として、介護予防・日常生活支援総合事業を行うものとします。そして、事業を実施し、保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする地域包括支援センターを設置することができます。
第7章 介護保険事業計画
基本指針
市町村介護保険事業計画
都道府県介護保険事業支援計画
厚生労働大臣は、介護保険事業に係る保険給付の円滑な実施を確保するための基本指針を定めます。都道府県は、都道府県介護保険事業支援計画を定め、市町村は、市町村介護保険事業計画を定めます。
第8章 費用等
国の負担
国は、市町村に対し、介護給付及び予防給付に要する費用の額について、次の各号に掲げる費用の区分に応じ、当該各号に定める割合に相当する額を負担する(121条1項)。
① 介護給付(次号に掲げるものを除く。)及び予防給付(同号に掲げるものを除く。)に要する費用 100分の20
② 介護給付(介護保険施設及び特定施設入居者生活介護に係るものに限る。)及び予防給付(介護予防特定施設入居者生活介護に係るものに限る。)に要する費用 100分の15
「介護保険施設」とは、都道府県知事が指定する指定介護老人福祉施設等のことをいいます。「特定施設入居者生活介護」とは、特定施設(有料老人ホーム等)に入居している要介護者について、当該特定施設が提供するサービスの内容等のことをいいます。介護保険施設や有料老人ホームでのサービスについては、国の負担割合が100分の15に下がっている点をおさえましょう。
以下、ひととおり条文を確認します。
調整交付金等
国は、介護保険の財政の調整を行うため、第1号被保険者の年齢階級別の分布状況、第1号被保険者の所得の分布状況等を考慮して、市町村に対して調整交付金を交付する(122条1項)。
調整交付金の総額は、各市町村の介護給付及び予防給付に要する費用の額の総額の100分の5に相当する額とする(122条2項)。
国は、市町村に対し、介護予防・日常生活支援総合事業に要する費用の額の100分の20に相当する額を交付する(122条の2第1項)。
国は、介護保険の財政の調整を行うため、市町村に対し、介護予防・日常生活支援総合事業に要する費用の額について、第1号被保険者の年齢階級別の分布状況、第1号被保険者の所得の分布状況等を考慮して、政令で定めるところにより算定した額を交付する(122条の2第2項)。
交付する額の総額は、各市町村の介護予防・日常生活支援総合事業に要する費用の額の総額の100分の5に相当する額とする(122条の2第3項)。
都道府県の負担等
都道府県は、市町村に対し、介護給付及び予防給付に要する費用の額について、次の各号に掲げる費用の区分に応じ、当該各号に定める割合に相当する額を負担する(123条1項)。
① 介護給付(次号に掲げるものを除く。)及び予防給付(同号に掲げるものを除く。)に要する費用 100分の12.5
② 介護給付(介護保険施設及び特定施設入居者生活介護に係るものに限る。)及び予防給付(介護予防特定施設入居者生活介護に係るものに限る。)に要する費用 100分の17.5
都道府県は、市町村に対し、介護予防・日常生活支援総合事業に要する費用の額の100分の12.5に相当する額を交付する(123条3項)。
市町村の一般会計における負担
市町村は、その一般会計において、介護給付及び予防給付に要する費用の額の100分の12.5に相当する額を負担する(124条1項)。
市町村は、その一般会計において、介護予防・日常生活支援総合事業に要する費用の額の100分の12.5に相当する額を負担する(124条3項)。
費用負担のまとめ
費用負担についてまとめます。まず、国・都道府県・市町村が出てくる点をおさえましょう。次に、内訳は、試験対策として、①介護給付及び予防給付、②介護給付及び予防給付(介護保険施設及び特定施設入居者生活介護に係るもの)、③介護予防・日常生活支援総合事業に要する費用の額をおさえます。
国 | 都道府県 | 市町村 | |
① | 20+5=25 | 12.5 | 12.5 |
② | 15+5=20 | 17.5 | 12.5 |
③ | 20+5=25 | 12.5 | 12.5 |
国について、「+5」となっているのは、調整交付金です。
まず、全体として、国・都道府県・市町村の負担割合を合計したものを行ごとにみると、100分の50、つまり、半分であることがわかります。次に、原則として、国が全体の100分の25(4分の1)、都道府県と市町村がそれぞれ100分の12.5(8分の1)ずつ負担していることがわかります。②介護給付及び予防給付(介護保険施設及び特定施設入居者生活介護に係るもの)のみ、国の負担部分が5下がり、都道府県の負担が5上がっています。このように整理すると、介護保険法の費用負担がわかりやすくなります。
保険料
市町村は、介護保険事業に要する費用に充てるため、保険料を徴収しなければならない(129条1項)。
保険料率は、市町村介護保険事業計画に定める介護給付等対象サービスの見込量等に基づいて算定した保険給付に要する費用の予想額、財政安定化基金拠出金の納付に要する費用の予想額、都道府県からの借入金の償還に要する費用の予定額並びに地域支援事業及び保健福祉事業に要する費用の予定額、第1号被保険者の所得の分布状況及びその見通し並びに国庫負担等の額等に照らし、おおむね3年を通じ財政の均衡を保つことができるものでなければならない(129条3項)。
市町村は、第2号被保険者からは保険料を徴収しない(129条4項)。
第2号被保険者からは保険料を徴収しないのは、第2号被保険者(市町村の区域内に住所を有する40歳以上65歳未満の医療保険加入者)は、健康保険の保険料に含まれるからです。
保険料の徴収の方法
普通徴収に係る保険料の納付義務
第1号被保険者は、市町村がその者の保険料を普通徴収の方法によって徴収しようとする場合においては、当該保険料を納付しなければならない(132条1項)。
世帯主は、市町村が当該世帯に属する第1号被保険者の保険料を普通徴収の方法によって徴収しようとする場合において、当該保険料を連帯して納付する義務を負う(132条2項)。
配偶者の一方は、市町村が第1号被保険者たる他方の保険料を普通徴収の方法によって徴収しようとする場合において、当該保険料を連帯して納付する義務を負う(132条3項)。
納付金の徴収及び納付義務
支払基金は、業務に要する費用に充てるため、年度ごとに、医療保険者から、介護給付費地域支援事業支援納付金を徴収する(150条1項)。
医療保険者は、納付金の納付に充てるため保険料若しくは掛金又は国民健康保険税を徴収する義務を負う(150条2項)。
医療保険者は、納付金を納付する義務を負う(150条3項)。
支払基金とは、高齢者の医療の確保に関する法律で学習した社会保険診療報酬支払基金のことです。
第9章 社会保険診療報酬支払基金の介護保険関係業務
※省略
第10章 国民健康保険団体連合会の介護保険事業関係業務
※省略
第11章 介護給付費等審査委員会
※省略
第12章 審査請求
審査請求
保険給付に関する処分又は保険料その他徴収金に関する処分に不服がある者は、介護保険審査会に審査請求をすることができる(183条1項)。
審査請求は、時効の完成猶予及び更新に関しては、裁判上の請求とみなす(183条2項)。
このあたりは、他の法律と同じように考えることができます。
第13章 雑則
※省略
第14章 罰則
※省略