労働者災害補償保険法(以下、労災法)の総則について解説します。
1条の目的条文は、「重要だから暗記してください」とか「かみしめてください」と精神論を言われるところですが、この機会に整理しておきましょう。
まず、労働者災害補償保険は、次の原因のものを対象としています。
- 業務上の事由
- 複数事業労働者の2以上の事業の業務を要因とする事由
- 通勤
業務上の事由による負傷等はまさに労働災害です。そして、複数事業労働者のうち、「2以上の事業の業務を要因とする」としているのは、1つの事業の業務を要因としていたら場合は、先ほどと同じ業務上の事由に該当するからです。2以上の事業の業務を要因とする事由の場合、どちらに責任があるかわからないことが多くあります。ただ、大切なのはどちらに責任があるかではなく、負傷等をした労働者の保険給付等です。そのため、条文では、複数事業労働者が別に設けられています。そして、同じく通勤による負傷等も事業者には責任はありません。ただ、同じく労働者に保険給付等をすることが大切なので、これら3つの事由に分けています。
あとで見ていくとわかりますが、業務上の事由による保険給付は労働者への補償の意味合いから「◯◯補償給付」となっているのに対し、他の2つは「◯◯給付」となっています(「補償」が入っていない)。
次に、対象のイベントは、負傷、疾病、障害、死亡です。
そして、これらに対して、行うことは以下のとおりです。
- 保険給付
- 労働者の社会復帰の促進
- 労働者及びその遺族の援護
- 労働者の安全及び衛生の確保等
労災法の目的は、すべて1条に書かれているということです。ただ、これをわからずに暗記をしようとするのは大変なので、整理しました。
管掌とは、監督するといった意味です。
2条の2という枝番の条文から、新しくできたものであることがわかります。労働者災害補償保険は、保険給付を行うほか、社会復帰促進事業を行うことができるとしています。実際、労災法は3章で「保険給付」、3章の2で「社会復帰促進事業」が定められています。
労災法においては、労働者を使用する事業を適用事業とする(3条1項)。
国の直営事業及び官公署の事業については、この法律は、適用しない(3条2項)。
労動者を使用する事業を適用事業とします。つまり、労動者を使用する事業において、業務に起因する災害があったときは労災となります。
国や官公署の事業は適用しません。国家公務員の場合は、国家公務員災害補償法の対象となり、地方公務員の場合は地方公務員災害補償法の適用となります。
労災法の適用に関して、通達をみておきましょう。
現業とは、原則として国又は地方公共団体の企業経営等の非権力的な事業をいいます。
暫定任意適用事業について、前述のように、労動者を使用する事業を適用事業とします。しかし、農林水産業の一部については、暫定的に任意適用事業とされています。
- 農業:常時5人未満の労働者を使用する個人経営の事業(一定の危険・有害作業を行う事業及び事業主が農業について特別加入している事業を除く)
- 林業:労働者を常時使用せず、かつ、年間使用延べ労働者数が300人未満の個人経営の事業
- 水産業:常時5人未満の労働者を使用する個人経営の事業であって、総トン数5トン未満の漁船によるもの又は災害発生のおそれが少ない河川、湖沼又は特定海面において主として操業するもの
まず、農業、林業、水産業ともに、個人経営である点をおさえましょう。そして、業務災害のリスクが高そうなものは、適用事業となるという視点を持っておくと理解しやすいと思います。
農業と水産業は常時5人未満、林業は常時使用せず、かつ、年間300人未満です。林業は、他の2つと比較して、業務災害が起きるリスクが高いことを考えると、5人ではない点が理解しやすいと思います。
参考:労災補償 |厚生労働省