民法における「第三者のためにする契約」についてまとめています。まずは、生命保険で保険金が支払われるときの登場人物の関係を思い浮かべ、次に「要約者」「諾約者」「受益者」という用語を押さえると、理解がしやすいと思います(先に用語を覚えようとすると大変そうです)。
第三者のためにする契約とは
第三者のためにする契約とは、契約の当事者の一方(B:諾約者)が第三者(C:受益者)に対してある給付をすることを相手方(A:要約者)に約束する契約をいいます(537条1項)。
- 要約者:諾約者と契約する者
- 諾約者:受益者に給付する者
- 受益者:利益を受ける者
具体例としては、生命保険があげられます。A(要約者)と保険会社のB(諾約者)が契約を締結し、もしものことがあったときは、C(受益者)に保険金が支払われます。この場合、Bは「Cに保険金を支払う(給付をする)」ことをAに約束する、と条文に則して考えることができます。
第三者のためにする契約の「成立要件」
第三者のためにする契約は、次の要件を満たした場合に成立します。
- 要約者・諾約者に有効な契約が成立すること。
- 第三者(受益者)に直接権利を取得させる趣旨の契約内容であること。
契約の締結時、第三者(受益者)が存在しない場合(例:胎児、設立前の法人など)であっても、契約は成立します(537条2項)。
権利は、負担が付いているものも可能です。この場合、受益者は、負担を拒絶して利益だけを享受することはできません。
第三者のためにする契約の「効果」
第三者への債務履行義務
契約が成立すると、諾約者は受益者に対して、債務を履行する義務を負います。このとき、債務者(諾約者)は要約者に対する抗弁をもって受益者に対抗することができます(539条)。
受益の意思表示
第三者(受益者)の権利は、受益者が諾約者に対して契約の利益を享受する意思表示した時に発生します(537条3項)。たとえば、胎児が生まれてきて諾約者に意思表示をした時(もちろん法定代理人等が代理する)に権利が発生するということです。
このとき、①契約が成立しているかどうかと、②権利が発生しているかどうかを混ぜてしまわないように気をつけましょう。①契約は第三者(受益者)がいなくても締結することはできますが、②権利は、第三者(受益者)が受益の意思表示をした時に発生します。
契約の変更・解除
第三者(受益者)の権利が発生した後は、要約者と諾約者は、契約の内容を変更させることはできません(538条1項)。受益者の期待を害することになってしまうからです。
また、第三者(受益者)の権利が発生した後に、諾約者が受益者に対する債務を履行しない場合、要約者は受益者の承諾を得なければ契約を解除することはできません(538条2項)。こちらも受益者の期待を害することになってしまうからです。
なお、受益者は契約の当事者ではないため、契約を変更したり解除することはできません。
第三者のためにする契約を題材にした問題
行政書士試験では、「第三者のためにする契約」について、記述式問題でも出題されています。
Aは、自己所有の時計を代金 50 万円でBに売る契約を結んだ。その際、Aは、Cから借りていた 50 万円をまだ返済していなかったので、Bとの間で、Cへの返済方法としてBがCに 50 万円を支払う旨を合意し、時計の代金 50 万円はBがCに直接支払うこととした。このようなA・B間の契約を何といい、また、この契約に基づき、Cの上記 50 万円の代金支払請求権が発生するためには、誰が誰に対してどのようなことをする必要があるか。民法の規定に照らし、下線部について 40 字程度で記述しなさい。
※太文字はこちらで編集したものです。
「第三者のためにする契約といい、CがBに契約の利益享受する意思を表示する必要がある」といった内容のことを答えます。
ただ、行政書士試験の受験者のレベルを考えると、第三者のためにする契約について解答するのはけっこう大変だったと思います。行政法1問、民法のもう1問(共有がテーマ)について解答できれば十分と言えそうです(民法は2問中1問がなかなか難しいのが大変なところなのです)。