ここでは、民法の不法行為について解説します。これは私自身そうだったのですが、民法の学習をしているときに、突然不法行為に入っていき戸惑ったのを覚えています。そこで、まず不法行為が民法典のどこに位置しているのかを確認しておきましょう。
- 第1章 総則
- 第2章 契約
- 第3章 事務管理
- 第4章 不当利得
- 第5章 不法行為
不法行為は、「第3編 債権」の中の第5章に位置しています。第1章の総則(債務不履行や相殺など)、第2章の契約(売買や賃貸借など)のボリュームが大きく、第3章〜第5章がコンパクトのため、最初、違和感を感じるのかもしれません。これまでの契約とは別なのだと意識することが重要そうです。
不法行為
故意または過失によって他人の権利または法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(709条)。
財産以外の損害の賠償
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合または他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければなりません(710条)。
近親者に対する損害の賠償
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければなりません(711条)。
損害賠償の方法、中間利息の控除及び過失相殺
損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定めます(722条1項、417条)。
これは、債務不履行時の損害賠償と同じです。
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができます(722条2項、417条)。
過失について、判例は、「被害者の過失を斟酌するには、被害者たる未成年者が、事理を弁識するに足る知能を具えていれば足り、行為の責任を弁識するに足る知能を具えていることを要しない」としています(最判昭39.6.24)。
そして、債務不履行時の過失と不法行為の過失を押さえておくことが大切になります。
債務不履行 | 不法行為 | |
責任 | 免責 軽減 |
– 軽減 |
考慮 | 必要的 | 任意的 |
債権者側に過失があるとき、債務不履行のときは免責や軽減ができます。一方、不法行為のときは、軽減のみが認められます。
また、債務不履行のときは、「債務の不履行又はこれによる損害の発生若しくは拡大に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。」(418条)として、必要的に過失相殺しますが、不法行為のときは、「被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。」(722条2項、417条)として、任意的にとどまります。不法行為時は、被害者側に肩入れしているのがわかります。
名誉毀き損における原状回復
他人の名誉を毀き損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、または損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができます(723条)。
不法行為による損害賠償請求権の消滅時効
不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅します(724条)。
- 被害者またはその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
- 不法行為の時から20年間行使しないとき。
人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効については、「5年間」とします(724条の2)。
ここでも、債務不履行と比較をしておきましょう。
債務不履行 | 不法行為 | |
主観的 | 5年 | 3年 (5年) |
客観的 | 10年 (20年) |
20年 |
カッコ内は、人の生命または身体を害する場合です。この場合、債務不履行も不法行為も主観で5年、客観で20年でそろっているのがわかります。
参考までに、債権の消滅時効の起算点は、主観は「債権者が権利を行使することができることを知った時」、客観は「権利を行使することができる時」です(166条1項)。