行政法の法律による行政の原理について学習します。今回から、行政書士試験の主要科目のひとつである行政法に入ります。まずは、行政法の全体像についてみていきましょう。
行政法は、行政に関わる法律関係を扱う科目です。そのため、民法や商法などとは違い、「行政法」という名前の法律はありません。
そして、行政とは、すべての国家作用のうちから立法作用と司法作用を除いた残りの作用とされます(控除説)。
行政書士試験としては、大きく3つの内容を学習します。
- 行政組織法(国家行政組織法、地方自治法)
- 行政作用法(行政代執行法、行政手続法)
- 行政救済法(行政不服審査法、行政事件訴訟法、国家賠償法)
なお、行政法の学習は、大学の学部で学習するもの(主に公務員試験、行政書士試験向け)やロースクール等で学習する司法試験向けのもの、学問としてのものなどさまざまですが、ここでは、行政書士試験対策に特化して進めます。
法律による行政の原理
行政活動は、国会が作った法律に基づき、法律に従って行わなければなりません。これを法律による行政の原理といいます。国会が法律をつくり、行政活動が行われ、裁判所が適法性を回復する仕組みは、三権分立を根拠にしています(憲法41条、65条、76条)。このように、行政法は、憲法と密接に関連しているため、憲法を意識しながら学習するのをおすすめします。
法律による行政の原理には、3つの原則があります。
- 法律の法規創造力
- 法律の優位
- 法律の留保
法律の法規創造力とは、法律によってのみ法規を創造できるとする原則です。
法律の優位とは、法律がある場合には、行政活動は法律に反してはならないとする原則です。
法律の留保とは、行政活動を行う場合には、事前に法律の根拠を必要とする原則です。
このうち、法律の法規創造力と法律の優位については、当然のこととして認められています。
問題となるのは、法律の留保です。
すべての行政活動に対して、事前に法律の根拠を必要とすると、行政が柔軟に動けなくなってしまい、かえって国民に不利益が生じるという弊害が生まれてしまいます。
そこで、現在は、国民に義務を課し、権利を制限する行政活動については、法律の根拠が必要であるという考え方が主流になっています(侵害留保説)。反対に言うと、それ以外の行政活動については、法律の根拠は不要ということです。これに対しては、対立する考え方、いわゆる学説がいくつかありますが、試験対策という点からは侵害留保説をおさえておけば十分です。
ここで、法律の留保が問題となった判例をみてみましょう。
行政法は、特に判例が多い科目のひとつですが、ただ判例を学習するのではなく、なぜここで判例が問題となるのかを意識すると理解しやすく、記憶が定着しやすくなります。
浦安ヨット事件
事案の概要
1980年、あるクラブAによりヨットの係留施設として、鉄杭が川に打ち込まれました。これにより、船舶が航行することが危険となったため、地元の漁協が町に通報し、鉄杭の撤去を要請しました。
しかし、鉄杭が撤去されなかったことから、町(町長Y)が鉄杭を撤去するために公金を支出しました。
これに対して、住民Xが住民訴訟が提起したという事案です。
法律の留保の原則から、国民に義務を課し、権利を制限する行政活動については、法律の根拠が必要になりますが、今回は、法律の根拠がないにもかかわらず、緊急だからという理由で、鉄杭を強制撤去していることから問題となりました。
判旨
判例は、Yが町長として鉄杭撤去を強行したことは、漁港法及び行政代執行法上適法と認めることはのできないものであるが、緊急の事態に対処するためにとられたやむを得ない措置であり、町としては、Yが撤去に要した費用を町の経費として支出したことを容認すべきものであって、公金支出については、その違法性を認めることはできないとしています(最判平3.3.8)。
この判例のポイントとしては、鉄杭撤去を強行したこと自体は違法であるという点です。もっとも、鉄杭を撤去したことはやむを得ない措置のため、それに対して公金を支出したことは認めるべきであるという内容です。本試験対策としては、この流れをおさえておけば十分です。