民法の物権の総則から不動産に関する物権の変動の対抗要件について学習します。今回は、物権の中でもっとも重要な条文のひとつである177条についてみていきましょう。
不動産に関する物権の変動の対抗要件
不動産に関する物権の得喪や変更は、登記をしなければ、第三者に対抗することができません。「対抗することができない」とは、「主張することができない」と考えるとわかりやすいと思います。
177条については、物権の7割、8割を占めると言われるほど重要な部分なので、しっかり学習していきましょう。もっとも、学習していない権利の名前が出てきたときは、軽く流してかまいません。
まず、177条は、「不動産」に関する物権変動について定めた条文です。動産については、次の178条で定めています。不動産を対象にしているという点をおさえましょう。
次に、「登記」とは、国が管理する登記簿に権利関係等を登録することにより、登記簿の内容を公開することなどを通じて取引の安全や円滑に資することを目的とする制度です。
177条の第三者とは
「第三者」とは、通常の文理解釈をすると当事者以外の人になりますが、判例は第三者について、もう少し絞り込みをしており、当事者及びその包括承継人以外の者であって、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者としています(大連判明41.12.15)。
当事者が第三者以外であるというのはわかると思います。
また、相続のところで学習しますが、相続等があると、一身専属的なものは除き、被相続人の一切の権利義務を承継します(896条)。これを包括承継といいます。相続人は被相続人の地位をそのまま受け継いでいるので、この包括承継人も第三者からは除かれます。
大切なのは、「登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者」という部分です。なお、「欠缺」とは、「不存在」と考えて問題ありません。
第三者にあたる場合
ここでおさらいをします。177条のひとつ前の条文である176条は、「物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。」と定めています。つまり、所有権などの物権変動は、当事者の意思表示のみによって、効力が生じます。
たとえば、AからBに所有権を移転させるという契約があれば、所有権はAからBに移転します。ただ、この時点では、まだ登記はAが備えているので、Bは所有権の取得を第三者に対抗することができません。この時点では、物権変動は不完全の状態であるということです。そして、登記を備えることによって、初めて完全な物権変動になると考えます。
一方、Aは自分が登記を備えていることをよいことに、Cに対しても所有権を移転させる契約をすることができます。
もちろん、売買契約をすると、売主は所有権の移転をする義務を負うため(560条)、最終的にはBとCのいずれかに対しては義務を果たせなくなりますが(履行不能といいます)、売買契約自体はすることはできます。
そして、このBとCのいずれが「自分が所有権を持っている」と第三者に対抗することができるかが、177条の重要論点になります。
まず、BとCのいずれも、契約当事者であるAに対しては、対抗することができます。当事者は、第三者ではないからです。
次に、BとCは、どちらもAと売買契約をしており、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する者といえるので、どちらも第三者にあたります。
BとCは、互いに第三者にあたるため、登記をしなければ、第三者に対抗することができません。反対に言うと、先に登記をした人が、相手方に対抗することができるということです。
たとえば、Cが先に登記を備えた場合、CはBに所有権を対抗することができます。
177条の論点ではありませんが、この先が気になる方もいると思うので補足します。この場合、Bは、Aと売買契約をしているにもかかわらず、所有権の登記をすることができませんでした。そこで、Bは、Aに対して、売買契約を解除して代金を返してもらうことになります。もちろん、損害が発生していた場合、損害賠償請求をするかもしれません。
このように、二重譲渡があった場合、二重譲渡の譲受人は177条の第三者にあたります。
ほかにも第三者にあたる場合というのが基本書に書かれていると思いますが、試験対策としては、まずはこの原則の考え方をおさえるようにしましょう。
第三者にあたらない場合
今度は、第三者にあたらない場合についてみていきます。
不法占有者
まず、不法占有者は第三者にあたりません(最判昭25.12.19)。勝手に不動産を占有している者は、登記の欠缺を主張する正当な利益を有していないと考えると納得できると思います。
無権利者
次に、無権利者も第三者にあたりません(最判昭34.2.12)。その不動産について、何も権利を持っていない人もまた正当な利益を有していないと考えることができます。
背信的悪意者
大切なのはここからです。177条の「第三者」は善意を要求していません。つまり、悪意であってもよいということです(最判昭32.9.19)。たとえば、Aが、Bに不動産を売るという契約をしたあと、CがBより高い価格で不動産を買うといった場合、Cは、AとBとの間に売買契約があったことを知っている、つまり、悪意ですが、177条の第三者になり得ることになります。
Aとしても、Bに対して損害金を支払っても、おつりが来るくらいなら、より高い金額を提示したCと契約をしたいと考えるのは自由競争として許されると考えると、理解しやすいと思います。
もっとも、信義則(1条2項)に違反している背信的悪意者(悪意+背信性)は、自由競争の範囲を逸脱し、保護を認めるべきではないため、「第三者」には含まれないとされています。たとえば、復讐目的で買い受けたもの(最判昭36.4.27)や第一買主に高値で売りつけようとして買い受けた者(最判昭43.8.2)などが背信的悪意者とされています。