民法における物権的請求権についてまとめています。
物権的請求権
物権のおさらい
物権の支配が侵害され、または侵害されるおそれがある場合に、回復や保全を求める請求権を物権的請求権といいます。
民法を勉強しているとき、ごちゃごちゃになりやすいのが「物権」です。物権は「本権」と「占有権」に分かれ、本権は「所有権」と「制限物権」に分かれます。制限物権は「用益物権」と「担保物権」に分かれ、用益物権は「地上権」「永小作権」「地役権」「入会権」に分かれ、担保物権は「留置権」「先取特権」「質権」「抵当権」に分かれています。
このあたりはテキストに体系図があると思うので、全体像を把握しながら学習を進めるようにし、またわからなくなったときは全体像に戻るようにしましょう。
物権的請求権の条文
物権的請求権は、「占有訴権」を除いて条文がありません。占有訴権とは、占有者が使える「占有保持の訴え(198条)」「占有保全の訴え(199条)」「占有回収の訴え(200条)」です。
しかし、物権の絶対的・排他的性質から、物権的請求権が認められると考えられています。噛み砕いていうと、(たとえ本権がなくても)占有しているだけで上記権利が認められるのなら、(本権があるなら)当然に上記に対応する権利は認められるということです。
なお、物権的請求権は、令和4年度の記述式問題でも出題されています。このことから、出題されるレベルで理解しておくことが必要であることがわかります。
物権的請求権
物権的請求権は、占有訴権に対応して3つに分けられてます。
- 返還請求権
- 妨害排除請求権
- 妨害予防請求権
これらは、頭に「物権的」を付けて、「物権的返還請求権」「物権的妨害排除請求権」「物権的妨害予防請求権」と呼ばれることもあります(同じものです)。
返還請求権
返還請求権は、物を第三者が占有しているときに、返還を請求する権利です。難しく感じますが、自分のものを誰かが持っていってしまったとき、物権(この場合は所有権)に基づいて、「自分のものだから返してください」と言えるということです。
妨害排除請求権
妨害排除請求権は、物に対する権限の行使が第三者により妨害されているときに、排除を求める権利です。よく例に出されるのは、自分の家の庭に、隣の家の木が倒れているものです。このとき、「庭が使えないから、木をどかしてください」と言うことができます。
妨害予防請求権
妨害予防請求権は、物に対する権限の行使が第三者により妨害される危険性が存在するときに、妨害の予防を求める権利です。前ふたつが実際に「占有されている」「妨害されている」のに対して、こちらは(まだ実際には起きておらず)「危険性がある」状態です。隣の家の木が倒れてきそうなとき、「木が倒れてきそうだからなんとかしてください」と言うことができます。
まとめ
物権的請求権は明文の規定がない
物権的請求権は、返還請求権、妨害排除請求権、妨害予防請求権の3つがある
物権的請求権を題材にした問題
行政書士試験では、「物権的請求権」について、記述式問題でも出題されています。
Aは、工場を建設するために、Bから、Bが所有する甲土地(更地)を、賃貸借契約締結の日から賃借期間 30 年と定めて賃借した。ただし、甲土地の賃借権の登記は、現在に至るまでされていない。ところが、甲土地がBからAに引き渡される前に、甲土地に何らの権利も有しないCが、AおよびBに無断で、甲土地に塀を設置したため、Aは、甲土地に立ち入って工場の建設工事を開始することができなくなった。そこで、Aは、Bに対応を求めたが、Bは何らの対応もしないまま現在に至っている。Aが甲土地に工場の建設工事を開始するために、Aは、Cに対し、どのような請求をすることができるか。民法の規定および判例に照らし、40 字程度で記述しなさい。
※太文字はこちらで編集したものです。
「(Aは、Cに対し)Bの所有権に基づく妨害排除請求権を代位して、塀の撤去を請求することができる。」といった内容のことを答えます。