民法の総則の法律行為の意思表示から心裡留保ついて学習します。意思表示は、民法総則の中でもっとも重要な部分のひとつのため、①心裡留保(93条)、②虚偽表示(94条)、③錯誤(95条)、④詐欺又は強迫(96条)、⑤その他の5回に分けて進めます。今回は、心裡留保についてみていきましょう。
心裡留保(1項)
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられません。これを心裡留保といいます。たとえば、Aがあげる気がないのに「この時計をあなたにあげる」とBに言ったとき、Aを保護する必要はなく、Bの信頼を保護する必要があるため、効力を妨げげられない、つまり、AはBに時計をあげる必要があります。
ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効となります。心裡留保が有効なのは、それを信じた相手方を保護する必要があるからです。相手方その意思時表示が真意ではないことを知り、または知ることができたときは、相手方を保護する必要性がなくなるため、無効になります。
判例は、婚姻や養子縁組といった身分行為については、93条は適用されないとしています。
真に養親子関係の設定を欲する効果意思がない場合においては、養子縁組は民法第802条第1号によって無効である。そして、この無効は絶対的なものであるから、同第93条但書を適用する必要もなく、また適用したものでもない。
本試験では、判例の知識が問われています。
養子縁組につき、当事者の一方において真に養親子関係の設定を欲する意思がない場合であっても、相手方がその真意につき善意、無過失であり、縁組の届出手続が行われたときは、その養子縁組は有効である。
(平27-問28-1)
正解:✕
第三者保護(2項)
前項ただし書、つまり、相手方が悪意有過失であったときは、その意思表示は無効となります。しかし、この無効は、善意の第三者には対抗することができません。たとえば、CがBから善意で時計を買ったとき、善意であるで第三者の信頼を保護しないと取引の安定が害されるからです。
ここで、善意について補足します。先ほど、1項では、相手方は、「知り、または知ることができたとき」のように善意無過失が必要とされました。つまり、「ちょっと考えればわかるよね」というときは、相手方は保護されないということです。
一方、2項では、第三者は、善意とされています(無過失は要求されません)。これは、あげる気もないのに「あげる」と言ったAの帰責性が高いため、保護する必要性が低く、反対に、第三者のCは保護されるべきであるという価値判断が働くからです。
これから意思表示のところだけでなく、民法、法律全般を学んでいくとき、この利益衡量の視点はとても重要になってきます。試験対策という観点からも、「この場合はどちらを守ってあげたいんだろう」ということを考えると、未知の問題にも対処しやすくなります。