民法の総則の法律行為の意思表示から虚偽表示ついて学習します。
虚偽表示(1項)
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とします。これを通謀虚偽表示といいます。たとえば、「Aの時計をBに売ったことにしよう」という虚偽表示は、無効となります。
第三者保護(2項)
虚偽表示の無効は、善意の第三者に対抗することができません。Bに時計の所有権があると信頼した善意の第三者Cの信頼を保護する必要があるからです。虚偽表示は当事者の帰責性が高いため、第三者は善意であればよい、過失の有無は問われないのがポイントです。
ここで、「第三者」とは、当事者および包括承継人以外の者であって、虚偽表示の外形を基礎として新たに独立した法律上の利害関係を有するに至った者をいいます(最判昭42.6.29)。
本試験では、この94条2項の「第三者」にあたるかどうかがよく問われます。
判例は、AとBが虚偽表示をしたあとに、悪意のCに譲渡し、さらに善意のDに譲渡した場合、直接取引関係に立った者が悪意の場合でも、当該悪意者からの転得者が善意であるときは、善意の第三者にあたるとしています(最判昭45.7.24)。
また、虚偽表示による不動産の譲受人から抵当権の設定を受けた者やその不動産を差し押さえた者も第三者にあたるとしています(最判昭48.6.28)。
一方、土地の仮装譲受人が建築した建物の賃借人は、法律上の利害関係を有するものとは認められないので、第三者にはあたらないとしています(最判昭57.6.8)。
抵当権の設定を受けた者や不動産を差し押さえた者が第三者にあたるのは理解しやすいと思いますが、建物の賃借人が利害関係を有しないというのは、理解しにくいと思うので補足します。たしかに、建物の賃借人も一見利害関係がありそうです。しかし、今回、虚偽表示が問題になっているのは「土地」であって、譲受人が建築した「建物」を借りている人は、「法律上」関係ないということです。
94条2項の類推適用
続いて、94条2項の類推適用をみてみましょう。
「類推適用」というと難しく感じてしまうかもしれません。ひとつずつ丁寧に進めます。
まず、94条は虚偽表示について定めた条文です。つまり、意思表示をした本人と相手方が通謀して虚偽表示しているというのが前提になります。そして、虚偽表示をした場合は原則として無効だけれど、善意の第三者には対抗できませんというのが、94条2項の内容でした。
この点について、通謀がない場合、94条2項を直接適用をすることができません。しかし、通謀がない場合でも、取引の安全を確保するために、一定の要件を満たす場合は、94条2項のように第三者を保護しましょうという考えが出てきました。これが94条2項の類推適用です。
ここで、一定の要件とは、以下のものになります。
- 虚偽の外観
- 本人の帰責性
- 第三者の信頼
つまり、通謀はないけれど、虚偽の外観があって、それに対する本人の帰責性があり、そこに第三者の信頼があるときは、94条2項を類推適用して、第三者を保護しましょうということです。
判例は、不動産の所有者(A)の知らない間に、他人(B)によって所有権の登記がされた場合、所有者が不実の登記をされていることを知りながら、明示または黙示に承認していたときは、94条2項を類推適用し、善意の第三者(C)に対抗できないとしています(最判昭45.9.22)。
不動産の所有者の知らない間に登記がされていたという虚偽の外観があり、登記されていたにもかかわらず明示または黙示に承認したという本人の帰責性があり、そこに善意の第三者という第三者の信頼があるときは、94条2項が類推されるということです。
94条2項の類推適用を題材にした過去問をみてみましょう。
甲土地は実際にはCの所有に属していたが、CがAに無断で甲土地の所有名義人をAとしていた場合において、Aがその事情を知らないBとの間で本件売買契約を締結したときであっても、BはCに対して甲土地の引渡しを求めることができない。
(平30-29-ア)
正誤:☓
まず、土地の所有者であるCが、Aに無断で土地の所有名義人をAとしているという①虚偽の外観があります。そして、Cが無断で所有名義人をAにしているという②帰責性があります。さらに、その事情を知らないBが本件売買契約を締結したという③第三者の信頼があります。よって、Bは、Cに対して甲土地の引渡しを求めることができます。