民法の総則の法律行為の意思表示から錯誤ついて学習します。
錯誤(1項)
① 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
② 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
まず、錯誤には、「表示の錯誤」(1号)と「動機の錯誤」(2号)のふたつがあります。
1号の表示の錯誤は、意思表示に対応する意思を欠く錯誤です。たとえば、Aという商品が欲しかったのに間違ってBという商品を買ってしまった場合などです。
2号の動機の錯誤は、表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤です。A土地を購入したこと自体は間違っていないけれど、法律行為の基礎とした事情、売買契約をしようと思うに至った事情について、その認識が真実に反する錯誤、A土地の近くに駅ができる予定があると思い、値上がりすると思って買ったのに、駅ができる予定はなかったなどの場合です。
錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができます。
動機の錯誤の取消し(2項)
1号の表示の錯誤の場合は、前述のように、錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができます。
一方、2号の動機の錯誤の場合は、A土地を購入しようと思っていて、A土地を購入しているため、表示の錯誤はありません。そのため、動機の錯誤による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができるとされています。つまり、「A土地の近くに駅ができる予定があって値上がりすると思うから買います」ということが表示されていたときに限り、することができます。かんたんにいうと、取引の相手方を保護する必要があるということです。
重過失によるもの(3項)
① 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
② 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合、①相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき、②相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたときを除き、意思表示の取消しをすることができません。重大な過失があった場合、本人の帰責性が高く、相手方を保護する必要性が高いからです。もっとも、相手方が、錯誤があることを知り、または重過失によって知らなかったときは、相手方を保護する必要性が下がるため、取り消すことができます。また、相手方も同一の錯誤に陥っていたときは、損失がないため、取り消すことができます。
第三者(4項)
錯誤による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができません。
心裡留保や虚偽表示のときは、善意(無過失は要求されない)の第三者に対抗することができませんでした。これは、心裡留保や虚偽表示をした人の帰責性が大きいからです。
一方、錯誤による取消しの場合、第三者は善意に加えて無過失が要求されます。錯誤に陥った人はたしかに帰責性がありますが、心裡留保や虚偽表示ほどでありません。そのため、第三者を保護する必要性が相対的に下がり、無過失まで要求されます。