民法の総則の法律行為から代理について学習します。今回は、代理がどのようなものか基本をみていきましょう。
代理行為の要件及び効果
代理行為の要件を整理しましょう。
①代理権があること
②権限内であること
③本人のためにすることを示したこと(顕名)
※要件の順番は、基本書によって異なります(ここでは条文の順番通りに記載しています)。
たとえば、Bさん(代理人)が、Aさん(本人)のためにすることを示して、Cさんと代理の権限内において契約した場合、Aさんに契約の効力が生じます。
代理では、①代理権があるかどうか、②権限内であるかどうか、③本人のためにすることを示したかどうかについて学んでいくことになります。
本人のためにすることを示さない意思表示
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなします。取引をした相手方にとっては、目の前の人と取引をしたと考えるのが当然だからです。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第1項の規定を準用する、つまり、原則通り、本人に対して効力を生じます。
代理行為の瑕疵
代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする(101条1項)。
相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする(101条2項)。
特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする(101条3項)。
意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合、その事実の有無は、代理人について決するものとします。代理の場合、法律行為を行っているのは、代理人なので、代理人について錯誤があったかどうかで決めるということです。1項は、代理人が相手方にしたもの、2項は、相手方が代理人に対してしたもので条文が分けられています。
もっとも、特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたとき、たとえば、「これを買ってきて」のようにお願いした場合は、代理人が知らなかったことを主張することはできません。
代理人の行為能力
制限行為能力者が代理人としてした行為は、取り消すことができません。本人は、代理人が制限行為能力者だとわかって代理権を与えているからです。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為、たとえば、未成年者の親が制限行為能力者の場合は、代理権が法定で与えられており、また、未成年者を保護する必要もあるため、この限りでない、つまり、取り消すことができます。
権限の定めのない代理人の権限
① 保存行為
② 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
代理が有効に成立するには、権限内であることが必要でした。この点について、代理権は、契約の中で定められますが、権限の定めのない代理人は、①保存行為、②代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為のみをする権限を有します。
代理権の濫用
条文を整理します。代理人(B)が、自己(B)又は第三者の利益を図る目的(たとえば、売却金額を着服してしまうなど)で代理権の範囲内の行為をした場合、相手方(C)がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなします。これによって、代理の有効要件のひとつである代理権があることが満たされないため、無権代理となります。無権代理については、あとで学習しましょう。本人を保護するために、本人に効果が帰属されないようになっていると考えるとわかりやすいと思います。
自己契約及び双方代理等
同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない(108条1項)。
自己(A)が、相手方(B)の代理人としてした行為、たとえば、AとBが売買契約をするとき、AがBの代理人をする場合は、実質的に自分ひとりで契約をしているのと同じになってしまい、相手方Bの利益を損なうおそれがあることから、無権代理とみなされます(自己契約)。また、当事者双方(AとB)の代理人としてした行為も、利益が相反するため、無権代理とみなされます(双方代理)。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない、つまり、代理行為は有効になります。
代理権の消滅事由
代理権は、次に掲げる事由によって消滅する(111条1項)。
① 本人の死亡
② 代理人の死亡又は代理人が破産手続開始の決定若しくは後見開始の審判を受けたこと。
委任による代理権は、前項各号に掲げる事由のほか、委任の終了によって消滅する(111条2項)。
代理権は、①本人の死亡、②代理人の死亡または代理人が破産手続開始の決定もしくは後見開始の審判を受けたことによって消滅します。また、委任による代理権は、委任の終了によっても消滅します。
本人 | 代理人 | |
死亡 | ◯ | ◯ |
破産手続開始 | ✕ | ◯ |
後見開始 | ✕ | ◯ |
代理(法定代理・任意代理)は、本人を代理してあげるものなので、本人に破産手続開始や後見開始があっても終了事由にはなりません。一方、代理人が破産したり後見開始すると自分のこともままならなくなってしまうため、終了事由になります。任意代理は、上記に加えて、委任を終了させることでも代理が終了します。