行政手続法は、処分、行政指導、届出、命令等を定める手続に分けられています。
行政指導とは、行政機関がその任務または所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為または不作為を求める指導、勧告、助言その他の行為であって処分に該当しないものをいいます(行政手続法2条6号)。
本試験対策として、行政指導では関連する判例知識が問われます。
目次
行政指導の一般原則(32条)
行政指導に携わる者は、行政機関の任務または所掌事務の範囲を逸脱してはなりません。また、行政指導の内容があくまでも相手方の任意の協力によってのみ実現されるものであることに留意しなければなりません(32条1項)。行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはなりません(32条2項)。
行政指導はあくまで「指導」であって、国民の任意の協力を求める事実行為です。それにもかかわらずどうしてこのように行政手続法の中でしっかり規定する必要があったのかというと、これまでは行政の指導に従わなければ不利益な扱いをされることが多くあったからです。
有名な判例として、「武蔵野市長給水拒否事件」を見てみましょう。
そうすると、原判決が、このような時期に至ったときは、水道法上給水契約の締結を義務づけられている水道事業者としては、たとえ右の指導要綱を事業主に順守させるため行政指導を継続する必要があったとしても、これを理由として事業主らとの給水契約の締結を留保することは許されないというべきであるから、これを留保した被告人(編:武蔵野市長)らの行為は、給水契約の締結を拒んだ行為に当たる。
昭和40年代、東京都武蔵野市では民間のマンション建設が増加しており、日照阻害やプライバシー侵害などの問題から、地元住民によるマンション建設反対の声が高まっていました。
事業者がマンション建設計画を武蔵野市長に提出したところ、武蔵野市長から教育施設負担金や住民の同意を得ることなどを通知されました。事業者は、行政指導により計画を縮小するなどして建築確認を得たものの、武蔵野市長が給水契約を拒否したというものです。検察は、正当な理由がないのに給水契約の締結を拒んだとして武蔵野市長を起訴しました。
判例は、「指導要綱を事業主に順守させるために行政指導を継続する必要があったとしても、これを理由として事業主らとの給水契約の締結を留保することは許されない」としています。
東京都以外に住んでいる方のために説明すると、武蔵野市は東京都下(23区外)、東京都の西側に位置するベッドタウンです。港区や渋谷区、新宿区などの都心部と比較して地価が安いため、いわゆるサラリーマン世帯の多くは東京都下に住んで、都心部に通勤するという傾向があります。
申請に関連する行政指導(33条)
行政指導に携わる者は、申請者が行政指導に従う意思がない旨を表明したにもかかわらず行政指導を継続すること等により申請者の権利の行使を妨げるようなことをしてはなりません(33条)。
代表的な判例として、「品川マンション事件」を見てみましょう。
建築主が右のような行政指導に不協力・不服従の意思を表明している場合には、当該建築主が受ける不利益と右行政指導の目的とする公益上の必要性とを比較衡量して、右行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、行政指導が行われているとの理由だけで確認処分を留保することは、違法であると解するのが相当である。
判例は、地域の生活環境の維持・向上を図るために、建築主に対し、建築計画について一定の譲歩や協力を求める行政指導を行い、社会通念上合理的と認められる期間建築主事が申請に係る建築計画に対する確認処分を留保することがあったとしても、これが直ちに違法な措置であるとまではいえないとしつつ、建築主が行政指導に従わない意思を表明している場合には、行政指導に対する建築主の不協力が社会通念上正義の観念に反するものといえるような特段の事情が存在しない限り、確認処分を留保することは、違法であるとしています。
本試験では、品川マンション事件について出題されています。重要判例については、結論だけでなく、その過程も押さえる必要があることがわかります。
行政庁が申請の取下げまたは内容の変更を求める行政指導を行うことは、申請者がそれに従う意思がない旨を表明したにもかかわらずこれを継続すること等により当該申請者の権利の行使を妨げるものでない限り、直ちに違法とされるものではない。
(令2-問13-エ)
正解:◯
許認可等の権限に関連する行政指導(34条)
行政機関が、許認可等をする権限を行使することができない場合または行使する意思がない場合においてする行政指導にあっては、行政指導に携わる者は、当該権限を行使し得る旨を殊更に示すことにより相手方に当該行政指導に従うことを余儀なくさせるようなことをしてはなりません(34条)。
「武蔵野市長給水拒否事件」がそうでしたが、行政指導に従わなければ水道を契約しないといったことは間接的に行政指導に従わざるを得なくさせる行為のため、禁止されています。
行政指導の方式(35条)
行政指導に携わる者は、その相手方に対して、行政指導の趣旨・内容・責任者を明確に示さなければなりません(35条1項)。また、行政機関が許認可等をする権限または許認可等に基づく処分をする権限を行使し得る旨を示すときは、その相手方に対して、根拠となる法令の条項・要件などを示さなければなりません(35条2項)。
行政指導が口頭でされた場合において、その相手方から書面の交付を求められたときは、当該行政指導に携わる者は、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければなりません(35条3項)。もっとも、その場において完了する行為を求めるものであったり、すでに文書等により相手方に通知されている事項と同じ内容を求めるなどのときは、この限りではありません(35条4項)。
本試験では、行政指導の方式について手続の理解が問われます。
行政指導に携わる者は、当該行政指導をする際に、行政機関が許認可等をする権限を行使し得る旨を示すときは、その相手方に対して、行政手続法が定める事項を示さなければならず、当該行政指導が口頭でされた場合において、これら各事項を記載した書面の交付をその相手方から求められたときは、行政上特別の支障がない限り、これを交付しなければならない。
(令3-問13-イ)
正解:◯
複数の者を対象とする行政指導(36条)
同一の行政目的を実現するため一定の条件に該当する複数の者に対し行政指導をしようとするときは、行政機関は、あらかじめ、事案に応じ、行政指導指針を定め、かつ、行政上特別の支障がない限り、これを公表しなければなりません(36条)。
たとえば、同じ都市計画を実現するためなのに、あっちの人はいいと言われた、こっちではダメと言われたでは公平性が害されてしまいます。そのため、同一の行政目的を実現するため複数の者に行政指導をしようとするときは、行政指導指針を定めなければならず、また、国民がそれを知ることができるようにするため、特別の支障がない限り、それを公表しなければならないとしています。
行政指導の中止等の求め(36条の2)
法令に違反する行為の是正を求める行政指導の相手方は、行政指導が法律に規定する要件に適合しないと思料するときは、行政指導をした行政機関に対し、その旨を申し出て、行政指導の中止その他必要な措置をとることを求めることができます(36条の2第1項本文)。ただし、当該行政指導がその相手方について弁明その他意見陳述のための手続を経てされたものであるときは、できません(36条の2第1項但書)。行政指導の中止等の求めは、申出書を提出してします(36条の2第2項)。
行政指導の中止等の求めは、36条の2という枝番の条文番号からもわかるとおり、国民の権利救済を図るために、「処分等の求め」と合わせて、2014年改正により新しくできたものです。
行政指導が正しくないと思うときは、行政機関に対し、行政指導の中止等を求めることができます。
行政指導の中止等の求めについては、記述式でも出題されています。
私立の大学であるA大学は、その設備、授業その他の事項について、法令の規定に違反しているとして、学校教育法15条1項に基づき、文部科学大臣から必要な措置をとるべき旨の書面による勧告を受けた。しかしA大学は、指摘のような法令違反はないとの立場で、勧告に不服をもっている。この文部科学大臣の勧告は、行政手続法の定義に照らして何に該当するか。また、それを前提に同法に基づき、誰に対して、どのような手段をとることができるか。40字程度で記述しなさい。なお、当該勧告に関しては、A大学について弁明その他意見陳述のための手続は規定されておらず、運用上もなされなかったものとする。
(令3-問44)
正解例:行政指導に該当し、文部科学大臣に対して、行政指導の中止を求めることができる。
記述式問題はひるんでしまいがちですが、何を答えればいいか問題文中で教えてくれるので(たとえば本問の場合だと、「何に該当するか」「誰に対して」「どのような手段」)、それに沿ってひとつずつ落ち着いて回答していくようにしましょう。