沖縄県の普天間基地移設問題(辺野古新基地建設問題)の流れについて、承認の取消しと撤回、そして判例の争点になった「固有の資格」についてまとめています。
普天間基地移設問題のあらまし
時系列をまとめてみます。沖縄県のWebサイトには複数の細かいことまで載っていますが、ここでは大まかな流れが捉えられるように絞って掲載しています。
- 2013年12月27日:沖縄防衛局が、辺野古沿岸地域の公有水面埋立の承認を受ける
- 2015年10月13日:沖縄県が、公有水面埋立承認の取消しを行う
- 2015年10月14日:沖縄防衛局が、国土交通大臣に執行停止の申立てを行う
- 2015年10月27日:国土交通大臣が、執行停止を決定する
- 2015年11月2日:沖縄県が、国地方係争処理委員会に審査の申出をする
- 2016年3月4日:和解成立
- 2016年7月22日:国が、沖縄県に不作為の違法確認訴訟を起こす
- 2016年12月20日:沖縄県の上告棄却(敗訴)。埋立再開
- 2018年8月31日:沖縄県が、埋立承認の取消し(撤回)を行う
- 2018年10月17日:沖縄防衛局が、国土交通大臣に執行停止の申立てを行う
- 2018年10月30日:国土交通大臣が、執行停止を決定する
- 2018年11月1日:沖縄防衛局が、埋立工事を再開する
- 2018年11月29日:沖縄県が、国地方係争処理委員会に審査の申出をする
- 2019年7月17日:沖縄県が、関与取消訴訟を提起する
- 2020年3月26日:沖縄県の上告棄却
これらは、「沖縄防衛局が、辺野古沿岸地域の公有水面埋立の承認を受けた」というのを前提にして、「埋立承認の取消し」と「埋立承認の取消し(撤回)」の2つに分けると理解しやすくなります。
以下も「取消し」と「撤回」に分けて記載します。
承認取消し
沖縄防衛局が、辺野古沿岸地域の公有水面埋立の承認を受けたのを最初とします。なぜ、辺野古沿岸を埋め立てる必要があったかというと、沖縄県宜野湾市(ぎのわんし)にある普天間基地(ふてんま)を名護市(なごし)にある辺野古(へのこ)に移設するためです。そして、普天間基地を移設するきっかけとなったのは、1995年の「沖縄米兵少女暴行事件」です。
地図があるとイメージがつかみやすいと思うので、普天間と辺野古の位置関係を示しておきます。
2013年12月、仲井眞弘多(なかいま ひろかず)知事が承認すると、当時那覇市長だった翁長雄志(おなが たけし)さんが反発し、翁長さんは翌年の沖縄知事選に出馬し、当選しました。そして、2015年10月、公有水面埋立承認の取消しを行います。
沖縄防衛局は、公有水面埋立承認が取り消されてしまったため、国土交通大臣に「取消しをやめてほしい」と執行停止を申立てを行い、執行停止が決定されます(取消しが取り消される)。一方、沖縄県は、「これは国の違法な関与だ」ということで、国地方係争処理委員会に審査の申出をします。
この間、いくつかの訴訟がありましたが、「国土交通大臣が代執行訴訟を取り下げる」「沖縄防衛局は工事を停止する」「沖縄県が関与取消訴訟を取り下げる」といった内容の和解が成立しました。
承認撤回
今度は、国が、沖縄県に「不作為の違法確認訴訟」を起こします。「和解したのになぜ?」と思う方もいると思いますが、和解の内容は、双方の訴訟を取り下げる、工事を停止するといったものです。そうすると、「公有水面埋立承認の取消しを行った」状態が維持されていることになります。
そこで、国土交通大臣が、沖縄県知事に対して、承認取消しの取消しを求める是正の要求を行い、それにもかかわらず沖縄県が取消しを行わなかったため、不作為の違法確認訴訟を起こされてしまいます。結果、沖縄県の上告は棄却され、埋立が再開されることになりました(最判平 28.12.20)。
2018年8月、沖縄県は、埋立承認の取消し(撤回)をしました。最初の「取消し」は、当初から瑕疵があったことを理由として取り消すのに対して、「取消し(撤回)」は後発的事情の変化によって効力を存続させることが適当でなくなった場合に、将来に向かって効力を失わせるものです。
また、この頃に翁長雄志知事が急逝されています。
沖縄防衛局が、国土交通大臣に執行停止の申立てを行い、執行停止が決定されて、埋立工事が再開されます。この流れは、最初の「取消し」のときと同じことが繰り返されているように見えます。
沖縄県側も、国地方係争処理委員会に審査の申出をし、関与取消訴訟を提起します。前回の「取消し」のときは和解になっていますが、今回は沖縄県の上告が棄却されています(最判令 2.3.26)。
以上が、普天間基地移設問題における「承認取消し」と「承認撤回」の大まかな流れになります。
参考:承認取消し(撤回)(2018/H30)を巡る争訟について
国の機関等の「固有の資格」
上記のとおり、沖縄県は、国土交通大臣による裁決が「国の関与」にあたるとして国地方係争処理委員会に審査の申出をしましたが、国地方係争処理委員会は「国の関与」にあたらないということで却下しています。そこで、沖縄県は関与取消訴訟を起こしましたが、争点になったのが「固有の資格」です。
判例は次のように述べています。
埋立承認のような特定の事務又は事業を実施するために受けるべき処分について、国の機関等が上記立場において相手方となるものであるか否かは、当該事務又は事業の実施主体が国の機関等に限られているか否か、また、限られていないとすれば、当該事務又は事業を実施し得る地位の取得について、国の機関等が一般私人に優先するなど特別に取り扱われているか否か等を考慮して判断すべきである。
そして、国の機関等と一般私人のいずれについても、処分を受けて初めて当該事務又は事業を適法に実施し得る地位を得ることができるものとされ、かつ、当該処分を受けるための処分要件その他の規律が実質的に異ならない場合には、国の機関等に対する処分の名称等について特例が設けられていたとしても、国の機関等が一般私人が立ち得ないような立場において当該処分の相手方とはいえず、当該処分については、等しく行政不服審査法が定める不服申立てに係る手続の対象となると解するのが相当である。
この点に関し、国の機関等と一般私人との間で、当該処分を受けた後の事務又は事業の実施過程等における監督その他の規律に差異があっても、当該処分に対する不服申立てにおいては、直接、そのような規律に基づいて審査がされるわけではないから、当該差異があることは、それだけで国の機関等に対する当該処分について同法の適用を除外する理由となるものではなく、上記の解釈を左右するものではない。
行政不服審査法は、国の機関等に対する処分で、これらの機関または団体がその固有の資格において当該処分の相手方となるもの及びその不作為は適用除外になるとしています(7条2項)。
「沖縄防衛局が審査請求するのは適用除外なのではないか?」ということについて、適法という判断が下されたことになります。
このことについて、玉城デニーさんの著書『新時代沖縄の挑戦』にて言及されていたので引用します。
(安倍首相との会談の)翌日、私たち沖縄県は、先の国土交通大臣の決定は「違法な国の関与だ」として、国地方係争処理委員会に審査を申し出ました。そもそも埋め立て工事の事業者である沖縄防衛局が、私人になりまして国土交通大臣に審査請求を行い、大臣の裁決によって知事の撤回処分が執行停止されたのです。行政不服審査法に基づく審査制度は本来、国民の権利・利益の救済を目的とするもので、この一連の沖縄防衛局、国土交通大臣の対応は制度を捻じ曲げるものです。違法な国の関与に他なりません。
政治のこともあり繊細なところではあるのですが、法律に接しているひとりとしては、全体像を見て、歴史的背景も知り、意見を持つことが大切なのだと思いました。それこそ、背景を遡ると、沖縄が米国から返還されたのが1972年、米国統治下のきっかけになったのは太平洋戦争、大日本帝国憲法、明治維新の中心となった人たち、琉球侵攻など、複雑な気持ちがするのでした。