地方自治法の普通地方公共団体から国と普通地方公共団体との関係及び普通地方公共団体相互間の関係について学習します。いわゆる関与です。
本章は、全5節で構成されています。
- 第1節 普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与等
- 第2節 国と普通地方公共団体との間並びに普通地方公共団体相互間及び普通地方公共団体の機関相互間の紛争処理
- 第3節 普通地方公共団体相互間の協力
- 第4節 条例による事務処理の特例
- 第5節 雑則
名前が長くてびっくりしてしまいますが、このうち第1節で関与について学習し、第2節で紛争処理について学習します。試験対策上、第3節以降は省略します。
目次
第1節 普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与等
第1款 普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与等
関与の意義
「普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与」とは、普通地方公共団体の事務の処理に関し、国の行政機関又は都道府県の機関が行う次に掲げる行為(普通地方公共団体がその固有の資格において当該行為の名宛人となるものに限り、国又は都道府県の普通地方公共団体に対する支出金の交付及び返還に係るものを除く。)をいう(245条)。
① 普通地方公共団体に対する次に掲げる行為
イ 助言又は勧告
ロ 資料の提出の要求
ハ 是正の要求
ニ 同意
ホ 許可、認可又は承認
ヘ 指示
ト 代執行
② 普通地方公共団体との協議
③ 前2号に掲げる行為のほか、一定の行政目的を実現するため普通地方公共団体に対して具体的かつ個別的に関わる行為(相反する利害を有する者の間の利害の調整を目的としてされる裁定その他の行為(その双方を名宛人とするものに限る。)及び審査請求その他の不服申立てに対する裁決、決定その他の行為を除く。)
関与には、普通地方公共団体に対する助言または勧告、是正の要求などがあります。
3号について、一定の行政目的を実現するため普通地方公共団体に対して具体的かつ個別的に関わる行為は関与に含まれますが、相反する利害を有する者の間の利害の調整を目的としてされる裁定などは関与にはあたらないとされています。
関与の法定主義
関与の基本原則
普通地方公共団体は、法律または政令によらなければ、関与を受けることはなく、また関与を受けるときも、その目的を達成するために必要な最小限度のものとされます。
第2節 国と普通地方公共団体との間等の紛争処理
第1款 国地方係争処理委員会
設置及び権限
総務省に、国地方係争処理委員会(以下本節において「委員会」という。)を置く(250条の7第1項)。
委員
委員は、優れた識見を有する者のうちから、両議院の同意を得て、総務大臣が任命する(250条の9第1項)。
第2款 国地方係争処理委員会による審査の手続
国の関与に関する審査の申出
普通地方公共団体の長その他の執行機関は、その担任する事務に関する国の関与のうち是正の要求、許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるものに不服があるときは、委員会に対し、当該国の関与を行った国の行政庁を相手方として、文書で、審査の申出をすることができる(250条の13第1項)。
普通地方公共団体の長その他の執行機関は、その担任する事務に関する国の不作為に不服があるときは、委員会に対し、当該国の不作為に係る国の行政庁を相手方として、文書で、審査の申出をすることができる(250条の13第2項)。
普通地方公共団体の長は、国の関与に不服があるとき、国の不作為に不服があるときは、審査の申出をすることができます。
審査及び勧告
国地方係争処理委員会は、申出があった場合、審査を行い、その結果を公表する必要があります。
第3款 自治紛争処理委員
自治紛争処理委員
自治紛争処理委員は、この法律の定めるところにより、普通地方公共団体相互の間又は普通地方公共団体の機関相互の間の紛争の調停、普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与のうち都道府県の機関が行うもの(以下この節において「都道府県の関与」という。)に関する審査、連携協約に係る紛争を処理するための方策の提示及び審査請求又はこの法律の規定による審査の申立て若しくは審決の申請に係る審理を処理する(251条1項)。
自治紛争処理委員は、3人とし、事件ごとに、優れた識見を有する者のうちから、総務大臣又は都道府県知事がそれぞれ任命する。この場合においては、総務大臣又は都道府県知事は、あらかじめ当該事件に関係のある事務を担任する各大臣又は都道府県の委員会若しくは委員に協議するものとする(251条2項)。
先ほどは、普通地方公共団体の長が国の関与に対して不服があるとき国地方係争処理委員会に申出をするものでした。今回は、普通地方公共団体同士、たとえ市町村が都道府県の関与に対して不服があるときのものです。国に対してのときよりスケールが小さくなっているのを意識しましょう。
- 国と地方公共団体→国地方係争処理委員会
- 都道府県と市町村→自治紛争処理委員
第4款 自治紛争処理委員による調停、審査及び処理方策の提示の手続
審査及び勧告
総務大臣は、市町村長その他の市町村の執行機関が、その担任する事務に関する都道府県の関与のうち是正の要求、許可の拒否その他の処分その他公権力の行使に当たるものに不服があり、文書により、自治紛争処理委員の審査に付することを求める旨の申出をしたときは、速やかに、自治紛争処理委員を任命し、当該申出に係る事件をその審査に付さなければならない(251条の3第1項)。
総務大臣は、市町村長その他の市町村の執行機関が、その担任する事務に関する都道府県の不作為に不服があり、文書により、自治紛争処理委員の審査に付することを求める旨の申出をしたときは、速やかに、自治紛争処理委員を任命し、当該申出に係る事件をその審査に付さなければならない(251条の3第2項)。
国地方係争処理委員会は、総務省に置かれているのに対して、自治紛争処理委員は、市町村長が都道府県の関与に不服があり、申出をしたときに任命します。つまり、事件ごとに任命するということです。
審査の流れは、国地方係争処理委員会と同じなります(251条の3第5項)。
第5款 普通地方公共団体に対する国又は都道府県の関与に関する訴え
国の関与に関する訴えの提起
審査の申出をした普通地方公共団体の長その他の執行機関は、次の各号のいずれかに該当するときは、高等裁判所に対し、当該審査の申出の相手方となった国の行政庁を被告として、訴えをもって当該審査の申出に係る違法な国の関与の取消し又は当該審査の申出に係る国の不作為の違法の確認を求めることができる。ただし、違法な国の関与の取消しを求める訴えを提起する場合において、被告とすべき行政庁がないときは、当該訴えは、国を被告として提起しなければならない(251条の5第1項)。
① 委員会の審査の結果又は勧告に不服があるとき。
② 国の行政庁の措置に不服があるとき。
③ 当該審査の申出をした日から90日を経過しても、委員会が審査又は勧告を行わないとき。
④ 国の行政庁が措置を講じないとき。
普通地方公共団体の長は、国の行政庁を被告として、国の関与に関する訴えを提起することができます。国の関与に関する訴えができるのは、審査の申出をした普通地方公共団体の長です。これを審査申出前置主義といいます。
都道府県の関与に関する訴えの提起
申出をした市町村長その他の市町村の執行機関は、次の各号のいずれかに該当するときは、高等裁判所に対し、当該申出の相手方となった都道府県の行政庁を被告として、訴えをもって当該申出に係る違法な都道府県の関与の取消し又は当該申出に係る都道府県の不作為の違法の確認を求めることができる。ただし、違法な都道府県の関与の取消しを求める訴えを提起する場合において、被告とすべき行政庁がないときは、当該訴えは、当該都道府県を被告として提起しなければならない(251条の6第1項)。
① 自治紛争処理委員の審査の結果又は勧告に不服があるとき。
② 都道府県の行政庁の措置に不服があるとき。
③ 当該申出をした日から90日を経過しても、自治紛争処理委員が審査又は勧告を行わないとき。
④ 都道府県の行政庁が措置を講じないとき。
前条と同じように、市町村の長は、都道府県の行政庁を被告として、都道府県の関与に関する訴えを提起することができます。
まとめ
関与に関する紛争処理は、相手方が国なら国地方係争処理委員会、都道府県なら自治紛争処理委員が審査する、審査の結果等に不服があるときは、高等裁判所に訴えを提起することができるといった流れをおさえておきましょう。
※第3節「普通地方公共団体相互間の協力」、第4節「条例による事務処理の特例」、第5節「補則」は省略します。