記述式問題の解法や必要な知識について、令和4年度の記述式問題を題材にして学習します。問題を解く順番など、令和5年度と重複する部分については割愛しているので、必要に応じてご参照ください。
問題44 行政法
まず、何が問われているか確認しましょう。ここでは、「①誰を被告として」、「②前記のような被害を受けるおそれがあることにつき、同法の定める訴訟要件として、当該是正命令がなされないことにより、どのような影響を生ずるおそれがあるものと主張し」、「③どのような訴訟を起こすことが適切か」答えることがわかります。今回は、丁寧に番号が振ってあるので、この3点について答えていきましょう。
それでは、問題文を読んでみましょう。
Xらは、違反建築物の是正命令を発出してほしいとB市長に申し入れましたが、B市長は拒否しています。何かをしてほしいのにしてもらえていないというのが今回のポイントです。
参照条文の建築基準法9条をみると、「特定行政庁は、建築基準法令の規定又はこの法律の規定に基づく許可を付した条件に違反した建築物又は建築物の敷地については、当該建築物の建築主等に対して、当該工事の施工の停止を命じ、又は、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除去、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他これらの規定又は条件に対する違反を是正するために必要な措置をとることを命ずることができる」としています。
「①誰を被告として」について、今回は、「行政事件訴訟法に定める抗告訴訟を提起することにした」とあるので、行政事件訴訟法11条「被告適格等」を参照します。そして、38条で「取消訴訟に関する規定の準用」として11条が準用されています。被告適格は、前回の令和5年度でも出題されています。誰に対して訴えを提起するかは記述式問題で頻出なので、正確に解答できるようにしておきましょう。
処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属する場合には、取消訴訟は、次の各号に掲げる訴えの区分に応じてそれぞれ当該各号に定める者を被告として提起しなければならない(11条1項)。
① 処分の取消しの訴え 当該処分をした行政庁の所属する国又は公共団体
② 裁決の取消しの訴え 当該裁決をした行政庁の所属する国又は公共団体
処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属しない場合には、取消訴訟は、当該行政庁を被告として提起しなければならない(11条2項)。
前2項の規定により被告とすべき国若しくは公共団体又は行政庁がない場合には、取消訴訟は、当該処分又は裁決に係る事務の帰属する国又は公共団体を被告として提起しなければならない(11条3項)。
本問では、「(B市長が)拒否することとした」とあります。11条1項をみると「処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属する場合」とあるので、今回はこれがあてはまります。処分をした行政庁(B市長)が公共団体に所属しているので、公共団体である「B市」が被告となります。
問題としては、「B市長」と「B市」で迷わせるものでした。
被告適格は、ほかに「処分又は裁決をした行政庁が国又は公共団体に所属しない場合」(11条2項)、「前2項の規定により被告とすべき国若しくは公共団体又は行政庁がない場合」(11条3項)に分かれているので、正確に判断できるようにしましょう。
「②前記のような被害を受けるおそれがあることにつき、同法の定める訴訟要件として、当該是正命令がなされないことにより、どのような影響を生ずるおそれがあるものと主張し」について、ここはかなり丁寧に誘導してくれています。ただ、少しむずかしいのは、「同法の条文の表現を踏まえて記すこと」となっている点です。問題文では、「甚大な被害が生ずるおそれがある」となっていますが、これは条文の表現ではありません。それでは、一旦、次の「どのような訴訟」について考えてみましょう。
「③どのような訴訟を起こすことが適切か」について、今回は、何かをしてほしいというのがポイントでした。行政事件訴訟としては、「義務付けの訴え」を提起することになります(3条6項)。
義務付けの訴えは、1号と2号がありました。それぞれ「非申請型」「申請型」とも呼ばれます。
この法律において「義務付けの訴え」とは、次に掲げる場合において、行政庁がその処分又は裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいう(3条6項)。
① 行政庁が一定の処分をすべきであるにかかわらずこれがされないとき(次号に掲げる場合を除く。)。
② 行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないとき。
今回は、「義務付け訴訟」と答えれば問題ありませんが、要件に違いがあるため、1号と2号について理解しておくことが必要になります。
1号は、行政庁が一定の処分(今回だと「是正命令の発出」)をすべきであるにかかわらずこれがされないときにします。
2号は、行政庁に対し一定の処分又は裁決を求める旨の法令に基づく申請又は審査請求がされた場合において、当該行政庁がその処分又は裁決をすべきであるにかかわらずこれがされないときにします。本問をみると、「是正命令を発出するよう、B市長に申し入れた」とあるので、申請しているようにも感じます。しかし、一般的に使われる言葉と講学上(学問上)使われる用語には違いがあります。
この定義に沿って考えると、Xは、自己に対し何らかの利益を付与する処分を求める行為をしたわけではありません。申請は、たとえば食品営業許可などがあります。また、2号は、自分が申請や審査請求をしていることについてなので、申請型と呼ばれます。一方、1号は、自分が申請していることではないので、非申請型と呼ばれます。2号は自分のことなので、ある程度要件がゆるくなっていますが、1号は、言ってみれば他の人のことなので、訴訟を提起できる要件が厳しくなっています。
それでは、義務付けの訴えの1号について要件を確認しましょう。
今回は、設問の②「どのような影響を生ずるおそれがあるものと主張し」について、「同法の条文の表現を踏まえて記すこと」となっているので、「重大な損害を生ずるおそれがある」となります。
1号は、自分が申請等をしたわけではないので、「重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、その損害を避けるため他に適当な方法がないとき」というように、要件が厳しくなっています。
2号も見ておきましょう。
第3条第6項第2号に掲げる場合において、義務付けの訴えは、次の各号に掲げる要件のいずれかに該当するときに限り、提起することができる(37条の3第1項)。
① 当該法令に基づく申請又は審査請求に対し相当の期間内に何らの処分又は裁決がされないこと。
② 当該法令に基づく申請又は審査請求を却下し又は棄却する旨の処分又は裁決がされた場合において、当該処分又は裁決が取り消されるべきものであり、又は無効若しくは不存在であること。
2号は、相当の期間内に何らの処分等がされないことという不作為型のもの、申請等が却下または棄却されるなど自分が希望する処分がされない拒否処分型のものがあります。どちらも重大な損害といった要件が求められていないことがわかります。
義務付けの訴えについては、基本書等で学習する機会が少ないと思うので、この機会に整理しておきましょう。令和5年と同様、どのような訴訟を起こすことが適切かが問われたときに答えられるようにするため、行政事件訴訟の体系を理解しておくことが求められます。
ここまでで、「B市」「重大な損害を生ずるおそれがある」「義務付けの訴え」といった内容を答えることがわかりました。あとは、設問の形式に沿うように、調整しましょう。
例:B市を被告として、重大な損害を生ずるおそれがあると主張し、義務付けの訴えを提起する。(42字)
問題45 民法
行政法のときと同じように、まずは設問を読んでみましょう。「CがAに対して、売主として本件売買契約を履行するよう求めた場合に、Aは、これを拒みたいと考えているが、認められるか」となっています。今回は、「拒否につき理由を付して」となっているので、理由も考える必要があります。
続いて、問題文を読んでいきましょう。
本問は、「代理権を与えられていないにもかかわらず」ということなので、無権代理です。また、無権代理人が死亡してAが単独で相続していることから、無権代理人の相続が論点になっていることがわかります。
無権代理人の責任としては、相手方の選択に従い、履行または損害賠償の責任を負うのが原則です。
もっとも、本問では無権代理人が死亡しているので問題となります。この点、判例は、無権代理を理由に追認を拒絶できるとしています。追認を拒絶しても信義則に反するといった事情は認められないからです(最判昭37.4.20)。
本問とは反対に、無権代理人が本人を相続した場合はどうなるのでしょうか。この点、同判例は、「自らした無権代理行為につき本人の資格において追認を拒絶する余地を認めるのは信義則に反するから、無権代理行為は相続と共に当然有効となる」としています。
本問では、判例の文言を理由に使って答えましょう。
例:無権代理人を相続した本人が追認を拒絶しても信義則に反しないため、認められる。(39文字)
問題46 民法
本問は、「Aは、Cに対し、どのような請求をすることができるか」となっています。
それでは、問題文を頭から読んでいきましょう。
AがBから賃借した甲土地に、Cが無断で塀を設置してしまったため、AがCに対して請求できることが問われています。この問題は、難しいと思います。というのも、何を根拠にすればよいか、行政書士試験の学習範囲だと見抜くのが困難だからです。
まず、Aは、自身の賃借権に基づいた請求を考えます。しかし、「甲土地の賃借権の登記は、現在に至るまでされていない。」とあります。
不動産の賃借権は、登記したとき、第三者に対抗できますが、Aは、賃借権の登記をしていないので、自身の賃借権に基づいた請求はできないことになります。
一方、土地の所有者であるBは、所有権に基づく妨害排除請求権を行使することができます。妨害排除請求権は、物権的請求権のひとつで、物の支配を妨害された場合に生じる権利です。具体例としては、自分の土地に隣地の木が倒れてきた場合、「どけてください」と請求できるものがあります。
なお、物権的請求権は、返還請求権、妨害排除請求権、妨害予防請求権の3つがあります。
今回は、「Aが、Cに対し、どのような請求をすることができるか」が問われています。そこで、Aの賃貸借契約に基づく債権を被保全債権として、賃貸人である甲土地の所有者であるBの所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使することが考えられます。
もっとも、本問で妨害排除請求権と債権者代位を結びつけて答えるのは困難だと思います。そのため、受験生のレベルとしては、妨害排除請求権を行使できるといった部分点を狙うのが現実的といえます。
民法は、2問出題されるうち、1問は難易度が高いことが多いので、基本的な論点について、部分点を狙って記述できるようにしていきましょう。
例:Bの所有権に基づく妨害排除請求権を代位行使して、塀の撤去を請求することができる。(40文字)