厚生年金保険法の費用の負担について学習します。
目次
国庫負担等
国庫は、毎年度、厚生年金保険の実施者たる政府が負担する基礎年金拠出金の額の2分の1に相当する額を負担する(80条1項)。
国庫は、前項に規定する費用のほか、毎年度、予算の範囲内で、厚生年金保険事業の事務の執行に要する費用を負担する(80条2項)。
保険料
政府等は、厚生年金保険事業に要する費用(基礎年金拠出金を含む。)に充てるため、保険料を徴収する(81条1項)。
保険料は、被保険者期間の計算の基礎となる各月につき、徴収するものとする(81条2項)。
保険料額は、標準報酬月額及び標準賞与額にそれぞれ保険料率を乗じて得た額とする(81条3項)。
保険料率は、次の表の上欄に掲げる月分の保険料について、それぞれ同表の下欄に定める率とする(81条4項)。
(途中省略)
平成29年9月以後の月分 1000分の183.00
育児休業期間中の保険料の徴収の特例
育児休業等をしている被保険者が使用される事業所の事業主が、実施機関に申出をしたときは、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定める月の当該被保険者に係る保険料(その育児休業等の期間が1月以下である者については、標準報酬月額に係る保険料に限る。)の徴収は行わない(81条の2第1項)。
① その育児休業等を開始した日の属する月とその育児休業等が終了する日の翌日が属する月とが異なる場合 その育児休業等を開始した日の属する月からその育児休業等が終了する日の翌日が属する月の前月までの月
② その育児休業等を開始した日の属する月とその育児休業等が終了する日の翌日が属する月とが同一であり、かつ、当該月における育児休業等の日数が14日以上である場合 当該月
被保険者が連続する2以上の育児休業等をしている場合については、その全部を1の育児休業等とみなす(81条の2第3項)。
産前産後休業期間中の保険料の徴収の特例
健康保険法と同じように、育児休業期間中の保険料の徴収は行われません。健康保険と厚生年金保険は、社会保険として一緒に引かれていると考えると、わかりやすいと思います。また、国民年金法は、「出産の予定日の属する月の前月から出産予定月の翌々月までの期間」であったことと比較しておきましょう(国民年金法88条の2)。国民年金法は、労働基準法の産前産後の就業制限(労働基準法65条)と紐づけると整理しやすいと思います。
保険料の負担及び納付義務
被保険者及び被保険者を使用する事業主は、それぞれ保険料の半額を負担する(82条1項)。
事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負う(82条2項)。
被保険者が同時に2以上の事業所又は船舶に使用される場合における各事業主の負担すべき保険料の額及び保険料の納付義務については、政令の定めるところによる(82条3項)。
3項について、政令を確認しましょう。
条文だとわかりにくいですが、各事業所について算定した額(例:10万円)を当該被保険者の報酬月額(例:25万円)で除して得た数(例:0.4)を被保険者の保険料(例:4万円)の半額(例:2万円)に乗じて得た額(例:2万円×0.4=8,000円)とします。かんたんにいうと、事業主は、その事業所における被保険者の報酬月額に対する保険料の2分の1を負担するということです。この例の場合、被保険者の報酬月額は25万円ですが、当該事業所では報酬月額が10万円なので、10万円にかかる保険料の2分の1を負担します。
保険料の納付
毎月の保険料は、翌月末日までに、納付しなければならない(83条1項)。
厚生労働大臣は、納入の告知をした保険料額が当該納付義務者が納付すべき保険料額をこえていることを知ったとき、又は納付した保険料額が当該納付義務者が納付すべき保険料額をこえていることを知ったときは、そのこえている部分に関する納入の告知又は納付を、その納入の告知又は納付の日の翌日から6箇月以内の期日に納付されるべき保険料について納期を繰り上げてしたものとみなすことができる(83条2項)。
納期を繰り上げて納入の告知又は納付をしたものとみなしたときは、厚生労働大臣は、その旨を当該納付義務者に通知しなければならない(83条3項)。
このあたりは、健康保険法と同じです。
口座振替による納付
いつもの言い回しです。
保険料の源泉控除
事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所又は船舶に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる(84条1項)。
事業主は、被保険者に対して通貨をもって賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる(84条2項)。
事業主は、保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない(84条3項)。
こちらも健康保険法と同じです。
交付金
保険料の繰上徴収
保険料は、次の各号に掲げる場合においては、納期前であっても、すべて徴収することができる(85条各号)。
① 納付義務者が、次のいずれかに該当する場合
イ 国税、地方税その他の公課の滞納によって、滞納処分を受けるとき。
ロ 強制執行を受けるとき。
ハ 破産手続開始の決定を受けたとき。
ニ 企業担保権の実行手続の開始があったとき。
ホ 競売の開始があったとき。
② 法人たる納付義務者が、解散をした場合
③ 被保険者の使用される事業所が、廃止された場合
④ 被保険者の使用される船舶について船舶所有者の変更があった場合、又は当該船舶が滅失し、沈没し、若しくは全く運航に堪えなくなるに至った場合
健康保険法と同じことが規定されています。
保険料等の督促及び滞納処分
保険料その他徴収金を滞納する者があるときは、厚生労働大臣は、期限を指定して、これを督促しなければならない(86条1項)。
督促状は、納付義務者が、健康保険法によって督促を受ける者であるときは、同法による督促状に併記して、発することができる(86条3項)。
督促状により指定する期限は、督促状を発する日から起算して10日以上を経過した日でなければならない。ただし、前条各号のいずれかに該当する場合は、この限りでない(86条4項)。
厚生労働大臣は、納付義務者が次の各号のいずれかに該当する場合においては、国税滞納処分の例によってこれを処分し、又は納付義務者の居住地若しくはその者の財産所在地の市町村に対して、その処分を請求することができる(86条5項)。
① 督促を受けた者がその指定の期限までに保険料その他この法律の規定による徴収金を納付しないとき。
② 前条各号のいずれかに該当したことにより納期を繰り上げて保険料納入の告知を受けた者がその指定の期限までに保険料を納付しないとき。
市町村は、処分の請求を受けたときは、市町村税の例によってこれを処分することができる。この場合においては、厚生労働大臣は、徴収金の100分の4に相当する額を当該市町村に交付しなければならない(86条6項)。
健康保険法と同じです。
延滞金
督促をしたときは、厚生労働大臣は、保険料額に、納期限の翌日から保険料完納又は財産差押の日の前日までの期間の日数に応じ、年14.6パーセント(当該納期限の翌日から3月を経過する日までの期間については、年7.3パーセント)の割合を乗じて計算した延滞金を徴収する。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合又は滞納につきやむを得ない事情があると認められる場合は、この限りでない(87条1項)。
① 保険料額が1000円未満であるとき。
② 納期を繰り上げて徴収するとき。
③ 納付義務者の住所若しくは居所が国内にないため、又はその住所及び居所がともに明らかでないため、公示送達の方法によって督促したとき。
延滞金を計算するにあたり、保険料額に1000円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる(87条3項)。
督促状に指定した期限までに保険料を完納したとき、又は計算した金額が100円未満であるときは、延滞金は、徴収しない(87条4項)。
延滞金の金額に100円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる(87条5項)。
健康保険法と同じように考えることができます。なお、健康保険や厚生年金保険は、給与等に基づいて計算するため、金額が比較的大きくなりやすいので、保険料額が1000円未満の端数、延滞金が100円未満の端数のときは切り捨てますが、国民年金法は、徴収金額が500円未満の端数、延滞金が50円未満の端数のときは切り捨てるといったように、半分になっている点に注意しましょう。
先取特権の順位
徴収に関する通則