労働者災害補償保険法の保険給付から通則について解説します。
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・この法律による保険給付は、次に掲げる保険給付とする(7条1項、規則5条)。
① 労働者の業務上の負傷、疾病、障害又は死亡(以下「業務災害」という。)に関する保険給付
② 複数事業労働者(これに類する者として厚生労働省令で定めるもの[負傷、疾病、障害又は死亡の原因又は要因となる事由が生じた時点において事業主が同一人でない2以上の事業に同時に使用されていた労働者]を含む。以下同じ。)の2以上の事業の業務を要因とする負傷、疾病、障害又は死亡(以下「複数業務要因災害」という。)に関する保険給付
③ 労働者の通勤による負傷、疾病、障害又は死亡(以下「通勤災害」という。)に関する保険給付
④ 二次健康診断等給付
→ここで、4つの保険給付が示されました。業務災害はいわゆる労災といったときに想像するものです。
複数業務要因災害は、総則のところで見たように、どちらの事業者に帰責事由があるかわからないときでも、負傷等をした労働者に保険給付等ができるようにしたものです。
休業補償給付が支給される三要件のうち「労働することができない」に関して、業務災害に被災した複数事業労働者が、現に一の事業場において労働者として就労しているものの、他方の事業場において当該業務災害に係る通院のため、所定労働時間の全部又は一部について労働することができない場合には、「労働することができない」に該当すると認められることがある(令3.3.18基管発0318第1号)。
休業補償給付が支給される三要件のうち「賃金を受けない日」に関して、被災した複数事業労働者については、複数の就業先のうち、一部の事業場において、年次有給休暇等により当該事業場における平均賃金相当額(複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した平均賃金に相当する額をいう。)の60%以上の賃金を受けることにより「賃金を受けない日」に該当しない状態でありながら、他の事業場において、当該業務災害による傷病等により無給での休業をしているため、「賃金を受けない日」に該当する状態があり得る(令3.3.18基管発0318第1号)。
複数事業労働者については、その疾病が業務災害による遅発性疾病である場合で、その診断が確定した日において、災害発生事業場を離職している場合の当該事業場に係る平均賃金相当額の算定については、災害発生事業場を離職した日を基準に、その日(賃金の締切日がある場合は直前の賃金締切日をいう。)以前3か月間に災害発生事業場において支払われた賃金により算定し、当該金額を基礎として、診断によって当該疾病発生が確定した日までの賃金水準の上昇又は変動を考慮して算定する(令2.8.21基発0821第2号)。
複数事業労働者については、その疾病が業務災害による遅発性疾病である場合で、その診断が確定した日において、災害発生事業場を離職している場合の非災害発生事業場に係る平均賃金相当額については、算定事由発生日に当該事業場を離職しているか否かにかかわらず、遅発性疾病等の診断が確定した日ではなく災害発生事業場等を離職した日から3か月前の日を始期として、災害発生事業場等における離職日までの期間中に、非災害発生事業場等から賃金を受けている場合は、災害発生事業場等を離職した日の直前の賃金締切日以前3か月間に非災害発生事業場等において支払われた賃金により算定し当該金額を基礎として、診断によって疾病発生が確定した日までの賃金水準の上昇又は変動を考慮して算定する(令2.8.21基発0821第2号)。
複数事業労働者に係る平均賃金相当額の算定において、雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号。以下「改正法」という。)の施行日後に発生した業務災害たる傷病等については、当該傷病等の原因が生じた時点が改正法の施行日前であっても、当該傷病等が発生した時点において事業主が同一人でない2以上の事業に使用されていた場合は、給付基礎日額相当額を合算する必要がある(令2.8.21基発0821第2号)。
通勤災害も事業者に帰責事由はありませんが、労働者に保険給付等ができるようにしています。二次健康診断等給付は、安衛法の規定による定期健康診断において、異常の所見があると診断されたときに行われる二次健康診断等のときに給付されるものです。詳しくは、第4節で見ていきましょう(今は第1節です)。
・通勤とは、労働者が、就業に関し、次に掲げる移動を、合理的な経路及び方法により行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとする(7条2項各号、規則6条各号)。
① 住居と就業の場所との間の往復
② 厚生労働省令で定める就業の場所[適用事業所等]から他の就業の場所への移動
③ 第1号に掲げる往復に先行し、又は後続する住居間の移動(厚生労働省令で定める要件に該当するものに限る。)
合理的な経路及び方法」の意義
「合理的な経路及び方法」とは、当該移動の場合に、一般に労働者が用いるものと認められる経路及び手段等をいうものである。
① 経路については、乗車定期券に表示され、あるいは、会社に届け出ているような、鉄道、バス等の通常利用する経路及び通常これに代替することが考えられる経路等が合理的な経路となることはいうまでもない。また、タクシー等を利用する場合に、通常利用することが考えられる経路が二、三あるような場合には、その経路は、いずれも合理的な経路となる。また、経路の道路工事、デモ行進等当日の交通事情により迂回してとる経路、マイカー通勤者が貸切の車庫を経由して通る経路等通勤のためにやむを得ずとることとなる経路は合理的な経路となる。さらに、他に子供を監護する者がいない共稼労働者が託児所、親せき等にあずけるためにとる経路などは、そのような立場にある労働者であれば、当然、就業のためにとらざるを得ない経路であるので、合理的な経路となるものと認められる。
逆に、上に述べたところから明らかなように、特段の合理的な理由もなく著しく遠まわりとなるような経路をとる場合には、これは合理的な経路とは認められないことはいうまでもない。また、経路は、手段とあわせて合理的なものであることを要し、鉄道線路、鉄橋、トンネル等を歩行して通る場合は、合理的な経路とはならない。「住居」の意義
② 次に方法については、鉄道、バス等の公共交通機関を利用し、自動車、自転車等を本来の用法に従って使用する場合、徒歩の場合等、通常用いられる交通方法は、当該労働者が平常用いているか否かにかかわらず一般に合理的な方法と認められる。しかし、例えば、免許を一度も取得したことのないような者が自動車を運転する場合、自動車、自転車等を泥酔して運転するような場合には、合理的な方法と認められない。なお、飲酒運転の場合、単なる免許証不携帯、免許証更新忘れによる無免許運転の場合等は、必ずしも、合理性を欠くものとして取り扱う必要はないが、この場合において、諸般の事情を勘案し、給付の支給制限が行われることがあることは当然である。
「住居」の意義
① 労災保険法第7条第2項第1号の「住居」とは、労働者が居住して日常生活の用に供している家屋等の場所で、本人の就業のための拠点となるところを指すものである。
したがって、就業の必要性があって、労働者が家族の住む場所とは別に就業の場所の近くに単身でアパートを借りたり、下宿をしてそこから通勤しているような場合は、そこが住居である。さらに通常は家族のいる所から出勤するが、別のアパート等を借りていて、早出や長時間の残業の場合には当該アパートに泊り、そこから通勤するような場合には、当該家族の住居とアパートの双方が住居と認められる
また、長時間の残業や、早出出勤及び新規赴任、転勤のため等の勤務上の事情や、交通ストライキ等交通事情、台風などの自然現象等の不可抗力的な事情により、一時的に通常の住居以外の場所に宿泊するような場合には、やむを得ない事情で就業のために一時的に居住の場所を移していると認められるので、当該場所を住居と認めて差し支えない。
逆に、友人宅で麻雀をし、翌朝そこから直接出勤する場合等は、就業の拠点となっているものではないので、住居とは認められない
なお、転任等のやむを得ない事情のために同居していた配偶者と別居して単身で生活する者や家庭生活の維持という観点から自宅を本人の生活の本拠地とみなし得る合理的な理由のある独身者にとっての家族の住む家屋については、当該家屋と就業の場所との間を往復する行為に反復・継続性が認められるときは住居と認めて差し支えない。
② 労災保険法第7条第2項第3号の通勤における赴任先住居とは、①の住居の考え方と同様に、労働者が日常生活の用に供している家族等の場所で本人の就業のための拠点となるところを指すものである。また、同号の通勤における帰省先住居についても、当該帰省先住居への移動に反復・継続性が認められることが必要である。さらに、労災保険法施行規則第7条第1号イにおける労働者又は配偶者の父母の居住している場所についても、反復・継続性が認められる場合は「住居」と認められる。
「逸脱」、「中断」及び「日用品の購入その他これに準ずる日常生活上必要な行為であつて厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のもの」の意義
① 「逸脱」とは、通勤の途中において就業又は通勤とは関係のない目的で合理的な経路をそれることをいい、「中断」とは、通勤の経路上において通勤とは関係のない行為を行うことをいう。具体的には、途中で麻雀を行う場合、映画館に入いる場合、バー、キャバレー等で飲酒する場合、デートのため長時間にわたってベンチで話しこんだり、経路からはずれる場合がこれに該当する。
しかし、経路の近くにある公衆便所を使用する場合、帰途に経路の近くにある公園で短時間休息する場合や、経路上の店でタバコ、雑誌等を購入する場合、駅構内でジュースの立飲みをする場合、経路上の店で渇をいやすため極く短時間、お茶、ビール等を飲む場合、経路上で商売している大道の手相見、人相見に立寄って極く短時間手相や人相をみてもらう場合等のように通常経路の途中で行うようなささいな行為を行う場合には、逸脱、中断に該当しない。ただし、飲み屋やビヤホール等において、長時間にわたって腰をおちつけるに至った場合や、経路からはずれ又は門戸を構えた観相家のところで、長時間にわたり、手相、人相等をみてもらう場合等は、逸脱、中断に該当する。
② 逸脱、中断の間及びその後の移動は原則として通勤とは認められないが、当該逸脱・中断が日用品の購入その他これに準ずる行為等をやむを得ない事由により最小限度の範囲で行う場合には、当該逸脱、中断の後、合理的な経路に復した後は通勤と認められることとされている。
なお、「やむを得ない事由により」とは、日常生活の必要のあることをいい、「最小限度のもの」とは、当該逸脱又は中断の原因となった行為の目的達成のために必要とする最小限度の時間、距離等をいう。
(イ) 「日用品の購入その他これに準ずる行為」とは、具体的には、帰途で惣菜等を購入する場合、独身者が食堂に食事に立ち寄る場合、クリーニング店に立ち寄る場合等がこれに該当する。
また、労災保険法第7条第2項第2号の通勤では、これらに加え、次の就業場所の始業時間との関係から食事に立ち寄る場合、図書館等における業務に必要な情報収集等を行う場合等も含み、同項第3号の通勤では、長距離を移動するために食事に立ち寄る場合やマイカー通勤のための仮眠を取る場合等も該当するものとする。
(ロ) 「これらに準ずる教育訓練であつて職業能力の開発向上に資するものを受ける行為」とは、職業能力開発総合大学校における職業訓練及び専修学校における教育がこれに該当する。各種学校における教育については、就業期間が1年以上であって、課程の内容が一般的に職業に必要な技術、例えば、工業、医療、栄養士、調理師、理容師、美容師、保母教員、商業経理、和洋裁等に必要な技術を教授するもの(茶道、華道等の課程又は自動車教習所若しくはいわゆる予備校の課程はこれに該当しないものとして取り扱う。)は、これに該当するものとして取り扱うこととする。
(ハ) 「選挙権の行使その他これに準ずる行為」とは、具体的には、選挙権の行使、最高裁判所裁判官の国民審査権の行使、住民の直接請求権の行使等がこれに該当する。
(ニ) 「病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為」とは、病院又は診療所において通常の医療を受ける行為に限らず、人工透析など比較的長時間を要する医療を受けることも含んでいる。また、施術所において、柔道整復師、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等の施術を受ける行為もこれに該当する。
(ホ) 「要介護状態にある配偶者、子、父母、配偶者の父母並びに同居し、かつ、扶養している孫、祖父母及び兄弟姉妹の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)」とは、例えば、定期的に、帰宅途中に一定時間父の介護を行うために父と同居している兄宅に立ち寄る場合等が該当する。
「介護」とは、歩行、排泄、食事等の日常生活に必要な便宜を供与するという意である。同居している者の介護を行う場合としては、介護保険法(平成9年法律第123号)第8条第23項に規定する施設サービスが提供されない施設(養護老人ホーム、軽費老人ホーム等)に一時的に入所している者を介護する場合等が想定される。また、「扶養」とは、主として当該労働者が経済的援助をすることにより生計を維持させることをいい、所得税法(昭和40年法律第33号)第2条第1項34号の「扶養親族」の「扶養」と同義である。「継続的に又は反復して」とは、例えば毎日あるいは1週間に数回など労働者が日常的に介護を行う場合をいい、初めて介護を行った場合は、客観的にみてその後も継続的に又は反復して介護を行うことが予定されていればこれに該当する。
通勤災害における合理的な経路とは、住居等と就業の場所等との間を往復する場合の最短距離の唯一の経路に限られるわけではない(平18.3.31基発0331042号ほか)。
→「業務の性質を有するものを除くもの」とされているのは、業務の性質を有するものは、業務災害に該当するからです。3号の「住居間の移動」の要件について見てみましょう。
・転任に伴い、当該転任の直前の住居と就業の場所との間を日々往復することが当該往復の距離等を考慮して困難となったため住居を移転した労働者であって、次のいずれかに掲げるやむを得ない事情により、当該転任の直前の住居に居住している配偶者と別居することとなつたもの(規則7条1号イ)。
イ 配偶者が、要介護状態にある労働者又は配偶者の父母又は同居の親族を介護すること。
ロ 配偶者が、学校等に在学し、保育所若しくは幼保連携型認定こども園に通い、又は公共職業能力開発施設の行う職業訓練を受けている同居の子(18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある子に限る。)を養育すること。
ハ 配偶者が、引き続き就業すること。
ニ 配偶者が、労働者又は配偶者の所有に係る住宅を管理するため、引き続き当該住宅に居住すること。
ホ その他配偶者が労働者と同居できないと認められるイからニまでに類する事情
・労働者が、移動の経路を逸脱し、又は移動を中断した場合においては、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない(7条3項)。
→ここは原則と例外を逆におさえてしまうことが多い部分です。まず、原則として、移動の経路を逸脱し、または中断した場合においては、逸脱または中断の間、その後の移動は、通勤としません。ただし、それらが日常生活上必要な行為であって厚生労働省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、逸脱又は中断の間を除いて、通勤とします。
・日常生活上必要な行為は、次のとおりとする(規則8条各号)。
① 日用品の購入その他これに準ずる行為
② 職業訓練、学校において行われる教育その他これらに準ずる教育訓練であって職業能力の開発向上に資するものを受ける行為
③ 選挙権の行使その他これに準ずる行為
④ 病院又は診療所において診察又は治療を受けることその他これに準ずる行為
⑤ 要介護状態にある配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹並びに配偶者の父母の介護(継続的に又は反復して行われるものに限る。)
→本試験では、これらの日常生活上必要な行為について問われます。5号の要介護状態にある配偶者等の介護については、「継続的に又は反復して行われるものに限る」のがポイントです。
商店が閉店した後は人通りがなくなる地下街入口付近の暗いところで、勤務先からの帰宅途中に、暴漢に後頭部を殴打され財布をとられたキャバレー勤務の労働者が負った後頭部の裂傷は、通勤災害と認められる(昭49.6.19基収1276号)。
午前の勤務を終了し、平常通り、会社から約300メートルのところにある自宅で昼食を済ませた労働者が、午後の勤務に就くため12時45分頃に自宅を出て県道を徒歩で勤務先会社に向かう途中、県道脇に駐車中のトラックの脇から飛び出した野犬に下腿部をかみつかれて負傷した場合、通勤災害と認められる(昭53.5.30基収1172号)。
マイカー通勤をしている労働者が、勤務先会社から市道を挟んだところにある同社の駐車場に車を停車し、徒歩で職場に到着しタイムカードを押した後、フォグライトの消し忘れに気づき、徒歩で駐車場へ引き返すべく市道を横断する途中、市道を走ってきた軽自動車にはねられ負傷した場合、通勤災害と認められる(昭49.6.19基収1739号)。
3歳の子を養育している一人親世帯の労働者がその子をタクシーで託児所に預けに行く途中で追突事故に遭い、負傷した。その労働者は、通常、交通法規を遵守しつつ自転車で託児所に子を預けてから職場に行っていたが、この日は、大雨であったためタクシーに乗っていた。タクシーの経路は、自転車のときとは違っていたが、車であれば、よく利用される経路であった。この場合は、通勤災害と認められる(昭48.11.22基発644号ほか)。
自家用車で通勤していた労働者Xが通勤途中、他の自動車との接触事故で負傷したが、労働者Xは所持している自動車運転免許の更新を失念していたため、当該免許が当該事故の1週間前に失効しており、当該事故の際、労働者Xは、無免許運転の状態であった。この場合は、諸般の事情を勘案して給付の支給制限が行われることはあるものの、通勤災害と認められる可能性はある(昭48.11.22基発644号)。
同一市内に住む長女が出産するため、15日間、幼児2人を含む家族の世話をするために長女宅に泊まり込んだ労働者にとって、長女宅は、就業のための拠点としての性格を有する住居と認められる(昭52.12.23基収1027号)。
アパートの2階の一部屋に居住する労働者が、いつも会社に向かって自宅を出発する時刻に、出勤するべく靴を履いて自室のドアから出て1階に降りようとした時に、足が滑り転倒して負傷した場合、通勤災害に当たる(昭49.4.9基収314号)。
外回りの営業担当の労働者が、夕方、得意先に物品を届けて直接帰宅する場合、その得意先が就業の場所に当たる(昭48.11.22基発644号ほか)。
労働者が、長期入院中の夫の看護のために病院に1か月間継続して宿泊した場合、当該病院は就業のための拠点としての性格を有する住居と認められる(昭52.12.23基収981号)。
労働者が上司の命により、同じ社員寮に住む病気欠勤中の同僚の容体を確認するため、出勤してすぐに社員寮に戻る途中で、電車にはねられ死亡した場合、通勤災害と認められる(昭24.12.15基収)。
マイカー通勤の労働者が、経路上の道路工事のためにやむを得ず通常の経路を迂回して取った経路は、ふだんの通勤経路を外れた部分についても、通勤災害における合理的な経路と認められる(昭48.11.22基発644号ほか)。
他に子供を監護する者がいない共稼ぎ労働者が、いつもどおり親戚に子供を預けるために、自宅から徒歩10分ほどの勤務先会社の前を通り過ぎて100メートルのところにある親戚の家まで、子供とともに歩き、子供を預けた後に勤務先会社まで歩いて戻る経路のうち、勤務先会社と親戚の家との間の往復は、通勤災害における合理的な経路とは認められる(昭48.11.22基発644号ほか)。
マイカー通勤をしている労働者が、同一方向にある配偶者の勤務先を経由するため、通常通り自分の勤務先を通り越して通常の通勤経路を450メートル走行し、配偶者の勤務先で配偶者を下車させて自分の勤務先に向かって走行中、踏切で鉄道車両と衝突して負傷した場合、通勤災害とは認められない(昭49.3.4基収289号)。
頸椎を手術した配偶者の看護のため、手術後1か月ほど姑と交替で1日おきに病院に寝泊まりしていた労働者が、当該病院から徒歩で出勤する途中、横断歩道で軽自動車にはねられ負傷した場合、当該病院から勤務先に向かうとすれば合理的である経路・方法をとり逸脱・中断することなく出勤していたとしても、通勤災害とは認められない(昭52.12.25基収981号)。
勤務を終えてバスで退勤すべくバス停に向かった際、親しい同僚と一緒になったので、お互いによく利用している会社の隣の喫茶店に立ち寄り、コーヒーを飲みながら雑談し、40分程度過ごした後、同僚の乗用車で合理的な経路を通って自宅まで送られた労働者が、車を降りようとした際に乗用車に追突され負傷した場合、通勤災害と認められない(昭49.11.15基収1867号)。
従業員が業務終了後に通勤経路の駅に近い自動車教習所で教習を受けて駅から自宅に帰る途中で交通事故に遭い負傷した。この従業員の勤める会社では、従業員が免許取得のため自動車教習所に通う場合、奨励金として費用の一部を負担している。この場合は、通勤災害と認められない(昭48.11.22基発644号ほか)。
配偶者と小学生の子と別居して単身赴任し、月に1~2回、家族の住む自宅に帰っている労働者が、1週間の夏季休暇の1日目は交通機関の状況等は特段の問題はなかったが単身赴任先で洗濯や買い物等の家事をし、2日目に家族の住む自宅へ帰る途中に交通事故に遭い負傷した。この場合は、通勤災害と認められない(昭48.11.22基発644号ほか)。
一戸建ての家に居住している労働者が、いつも退社する時刻に仕事を終えて自宅に向かってふだんの通勤経路を歩き、自宅の門をくぐって玄関先の石段で転倒し負傷した場合、通勤災害に当たらない(昭49.7.15基収2110号)。
→一戸建ての玄関先は、住居内のため、住居と就業場所との間とは言えないため、通勤災害にあたらないとされています。
長年営業に従事している労働者が、通常通りの時刻に通常通りの経路を徒歩で勤務先に向かっている途中に突然倒れ、急性心不全で死亡した場合、通勤災害と認められない(昭50.69基収4039号)。
業務終了後に、労働組合の執行委員である労働者が、事業場内で開催された賃金引上げのための労使協議会に6時間ほど出席した後、帰宅途上で交通事故にあった場合、通勤災害とは認められない(昭50.11.4基収2043号)。
派遣労働者に係る通勤災害の認定に当たっては、派遣元事業主又は派遣先事業主の指揮命令により業務を開始し、又は終了する場所が「就業の場所」となるため、派遣労働者の住居と派遣元事業場又は派遣先事業場との間の往復の行為は、一般に「通勤」となるものとして取り扱う(昭61.6.30基発383号)。
・給付基礎日額は、労働基準法の平均賃金に相当する額とする。この場合において、平均賃金を算定すべき事由の発生した日は、負傷若しくは死亡の原因である事故が発生した日又は診断によって疾病の発生が確定した日(以下「算定事由発生日」という。)とする(8条1項)。
・労働基準法の平均賃金に相当する額を給付基礎日額とすることが適当でないと認められるときは、厚生労働省令で定めるところによって政府が算定する額を給付基礎日額とする(8条2項)。
・複数事業労働者の負傷、疾病、障害又は死亡により、当該複数事業労働者、その遺族その他厚生労働省令で定める者に対して保険給付を行う場合における給付基礎日額は、当該複数事業労働者を使用する事業ごとに算定した給付基礎日額に相当する額を合算した額を基礎として、厚生労働省令で定めるところによって政府が算定する額とする(8条3項)。
→条文だと難しく感じますが、複数のところで働いている労働者の場合は、A社、B社それぞれで算定した給付基礎日額に相当する額を合算した額を基礎とするということです。
・休業補償給付の額の算定の基礎として用いる休業給付基礎日額については、次に定めるところによる(8条の2第1項各号)。
① 給付基礎日額として算定した額を休業給付基礎日額とする。
② 四半期ごとの平均給与額が、算定事由発生日の属する四半期の平均給与額の100分の110を超え、又は100分の90を下るに至った場合において、その上昇し、又は低下するに至った四半期の翌々四半期に属する最初の日以後に支給すべき事由が生じた休業補償給付等については、その上昇し、又は低下した比率を基準として厚生労働大臣が定める率を給付基礎日額として算定した額に乗じて得た額を休業給付基礎日額とする。
→原則は、給付基礎日額として算定した額、つまり労働基準法の平均賃金に相当する額が休業給付基礎日額となります。
そして、2号は、四半期ごとの平均給与額が100分の110を超え、または100分の90を下回るに至った場合、つまり10%を超えて変動した場合について定めています。その場合は、変動があった四半期の翌々四半期に属する最初の日以後の休業補償給付等については、変動があった比率を給付基礎日額として算定した額に乗じて得た額を休業給付基礎日額とします。
「翌々四半期」という言葉がややこしく感じてしまうかもしれません。まず、労働基準法の平均賃金は、「平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3箇月間にその労働者に対し支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で除した金額」です(労働基準法12条1項)本文。3か月というのは、四半期分です。休業給付基礎日額は、四半期を単位として決めていると考えましょう。
そして、四半期ごとの平均給与額が10%を超えて変動した場合は、休業給付基礎日額も変動させます。ただ、このとき、たとえば4月から6月までの平均給与額が10%を超えて変動した場合、それがわかるのは、7月に入ってから、つまり次の四半期に入ってからです。変更する事務手続などを考えると、変動があったことがわかった四半期にすぐ変更をするというのは困難といえます。そのため、10%を超えて変動があったときは、次の四半期はワンクッションおいて、翌々四半期から変わると考えると、理解しやすいと思います。
・休業補償給付等を支給すべき事由が生じた日が当該休業補償給付等に係る療養を開始した日から起算して1年6箇月を経過した日以後の日である場合において、次の各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に定める額を休業給付基礎日額とする(8条の2第2項各号)。
① 休業給付基礎日額として算定した額が、厚生労働省令で定める年齢階層ごとに休業給付基礎日額の最低限度額として厚生労働大臣が定める額のうち、当該休業補償給付等を受けるべき労働者の当該休業補償給付等を支給すべき事由が生じた日の属する四半期の初日(次号において「基準日」という。)における年齢の属する年齢階層に係る額に満たない場合 当該年齢階層に係る額
② 休業給付基礎日額として算定した額が、年齢階層ごとに休業給付基礎日額の最高限度額として厚生労働大臣が定める額のうち、当該休業補償給付等を受けるべき労働者の基準日における年齢の属する年齢階層に係る額を超える場合 当該年齢階層に係る額
→休業給付基礎日額は、年齢階層ごとに最低限度額と最高限度額が定められています。1号では、その最低限度額を下回ったときは最低限度額に、2号では、その最高限度額を上回ったときは最高限度額になると定めています。
・年金たる保険給付の額の算定の基礎として用いる給付基礎日額(以下この条において「年金給付基礎日額」という。)については、次に定めるところによる(8条の3第1項)。
① 算定事由発生日の属する年度(4月1日から翌年3月31日までをいう。以下同じ。)の翌々年度の7月以前の分として支給する年金たる保険給付については、給付基礎日額として算定した額を年金給付基礎日額とする。
② 算定事由発生日の属する年度の翌々年度の8月以後の分として支給する年金たる保険給付については、給付基礎日額として算定した額に当該年金たる保険給付を支給すべき月の属する年度の前年度(当該月が4月から7月までの月に該当する場合にあっては、前々年度)の平均給与額を算定事由発生日の属する年度の平均給与額で除して得た率を基準として厚生労働大臣が定める率を乗じて得た額を年金給付基礎日額とする。
→これまで見てきたのは、「休業給付基礎日額」という日額についてです。業務災害等でお休みしたとき、1日あたりに給付される額ということです。今回は、「年金たる保険給付の額」についてです。「たる」というと古臭く感じますが、「学生たるもの」の「たる」です。年金タイプでもらう保険給付の額についてということです。たとえば、障害年金のようなものを想像しましょう。
年金給付基礎日額は、まず、翌々年度の7月以前の分として支給する年金たる保険給付については、給付基礎日額として算定した額、つまり平均賃金の額を年金給付基礎日額とします。
次に、算定事由発生日の属する年度の翌々年度の8月以後の分として支給する年金たる保険給付については、読みにくいので、具体的な数字を当てはめながら見てみましょう。
給付基礎日額として算定した額(1万円)に当該年金たる保険給付を支給すべき月の属する年度の前年度の平均給与額(33万円)を算定事由発生日の属する年度の平均給与額(30万円)で除して得た率(1.1)を乗じて得た額を年金給付基礎日額とする。
1万円×(33万円÷30万円)=1.1万円
休業給付基礎日額は、四半期ごとの平均給与額に10%を超えた変動があったときに変更するのに対し、年金給付基礎日額は、平均給与額に10%を超えた変動がなくても翌々年の8月以後は、前年度の平均給与額に対して変動するのがポイントです。
とてもややこしく感じますが、1号と2号をかんたんにいうと、まず、算定事由発生日の属する年度の翌々年度の7月以前の分として支給する年金たる保険給付は、給付基礎日額として算定した額を年金給付基礎日額とします、つまり翌々年度の7月までは給付基礎日額をそのまま使うということです。そして、翌々年度の8月以後は、前年度の平均給与額の変動幅に合わせて変動させるということです。
実際、問われることはほとんどなく、またここで詰まってしまって先に進めなくなると困るので、お給料に変動があったときは給付基礎日額を変動させる仕組みがある程度にとどめておき、ひととおり学習を終えて余裕があったら、また条文を読み込むなどして確認してみましょう。
・給付基礎日額に1円未満の端数があるときは、これを1円に切り上げるものとする(8条の5)。
→これから学んでいく多くの年金等では、切り下げと切り上げが定められています。労災保険の場合は、1円未満の端数は、1円に切り上げるとしています。業務災害で補償の意味合いがあるから手厚くなっていると考えると理解しやすいと思います(業務災害以外の通勤災害でも切り上げます)。
労災保険法による保険給付は、同法所定の手続により行政機関が保険給付の決定をすることにより給付の内容が具体的に定まり、受給者は、それ以前においては政府に対し具体的な一定の保険給付請求権を有しない(最判昭29.11.26)。
① 年金証書の番号
② 受給権者の氏名及び生年月日
③ 年金たる保険給付の種類
④ 支給事由が生じた年月日
派遣労働者の保険給付の請求に当たっては、保険給付請求書の事業主の証明は派遣元事業主が行うこととされている(昭61.6.30基発383号)。
派遣労働者の保険給付の請求に当たっては、当該派遣労働者に係る労働者派遣契約の内容等を把握するため、当該派遣労働者に係る「派遣元管理台帳」の写しを保険給付請求書に添付することとされている(昭61.6.30基発383号)。
・年金たる保険給付の支給は、支給すべき事由が生じた月の翌月から始め、支給を受ける権利が消滅した月で終わるものとする(9条1項)。
→今後、年金が多く登場しますが、基本的にはこの月をベースにした考え方になります。たとえば、10月に支給すべき事由が生じた場合、翌月の11月から支給が始まります。
・年金たる保険給付は、その支給を停止すべき事由が生じたときは、その事由が生じた月の翌月からその事由が消滅した月までの間は、支給しない(9条2項)。
・年金たる保険給付は、毎年2月、4月、6月、8月、10月及び12月の6期に、それぞれその前月分までを支払う。ただし、支給を受ける権利が消滅した場合におけるその期の年金たる保険給付は、支払期月でない月であっても、支払うものとする(9条3項)。
→たとえば、10月に8月分と9月分が支払われるということです。
・船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となった際現にその船舶に乗っていた労働者若しくは船舶に乗っていてその船舶の航行中に行方不明となった労働者の生死が3箇月間わからない場合又はこれらの労働者の死亡が3箇月以内に明らかとなり、かつ、その死亡の時期がわからない場合には、遺族補償給付、葬祭料、遺族給付及び葬祭給付の支給に関する規定の適用については、その船舶が沈没し、転覆し、滅失し、若しくは行方不明となった日又は労働者が行方不明となった日に、当該労働者は、死亡したものと推定する。航空機が墜落し、滅失し、若しくは行方不明となった際現にその航空機に乗っていた労働者若しくは航空機に乗っていてその航空機の航行中行方不明となった労働者の生死が3箇月間わからない場合又はこれらの労働者の死亡が3箇月以内に明らかとなり、かつ、その死亡の時期がわからない場合にも、同様とする(10条)。
→まず、本条が定められる必要性を理解するため、民法の「失踪の宣告」について見てみます。民法では、「戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止やんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。」としています(民法29条2項)。そして、「失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす」と定められています(民法31条後段)。
民法の規定だと、船舶が沈没した後1年間明らかでないときではないと、死亡したものとみなされません。これだと、労災法1条の「労働者の死亡等に対して迅速かつ公正な保護をするため」という目的が果たせなくなってしまいます。そこで、労災法では、船舶と航空機に限定して、沈没や墜落等があり、労働者の生死が3箇月間わからない等の場合は、船舶や航空機が沈没や墜落等した日に、当該労働者が死亡したものと推定するとしています。これにより、遺族の方は、迅速な保護が受けられるようになります。ポイントは、死亡の推定は、船舶と航空機に限定していることです。このふたつは、事故が起きたとき、生存確率が低いことが理由として考えられます。
・労働者災害補償保険法に基づく保険給付を受ける権利を有する者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に支給しなかったものがあるときは、その者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。以下同じ。)、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であって、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の保険給付の支給を請求することができる(11条1項)。
・死亡した者が死亡前にその保険給付を請求していなかったときは、同項に規定する者は、自己の名で、その保険給付を請求することができる(11条2項)。
・未支給の保険給付を受けるべき者の順位は、第1項に規定する順序による(11条3項)。
→先ほどの、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順番になるということです。この順番は、「は・い・し・ふ・そん・そ・けい」とリズムで覚えることがあります。
・未支給の保険給付を受けるべき同順位者が2人以上あるときは、その1人がした請求は、全員のためその全額につきしたものとみなし、その1人に対してした支給は、全員に対してしたものとみなす(11条4項)。
・年金たる保険給付の支給を停止すべき事由が生じたにもかかわらず、その停止すべき期間の分として年金たる保険給付が支払われたときは、その支払われた年金たる保険給付は、その後に支払うべき年金たる保険給付の内払とみなすことができる。年金たる保険給付を減額して改定すべき事由が生じたにもかかわらず、その事由が生じた月の翌月以後の分として減額しない額の年金たる保険給付が支払われた場合における当該年金たる保険給付の当該減額すべきであった部分についても、同様とする(12条1項)。
→条文だと読みにくいですが、本来停止すべきであったのに年金を支払ってしまったときは、次に支払うべき年金を払ったとみなすことができるということです。
・年金たる保険給付を受ける権利を有する者が死亡したためその支給を受ける権利が消滅したにもかかわらず、その死亡の日の属する月の翌月以後の分として当該年金たる保険給付の過誤払が行われた場合において、当該過誤払による返還金に係る債権(以下この条において「返還金債権」という。)に係る債務の弁済をすべき者に支払うべき保険給付があるときは、厚生労働省令で定めるところにより、当該保険給付の支払金の金額を当該過誤払による返還金債権の金額に充当することができる(12条の2)。
→また読みにくいですが、年金を受ける権利を有するAさんが死亡したため、年金の支給を受ける権利が消滅したにもかかわらず、年金の過誤払が行われた場合において、この過誤払したお金を返すべきBさん(たとえば相続人です)に支払うべき他の保険給付があるときは、保険給付の金額を過誤払した金額に充当することができます。かんたんにいうと、相殺するイメージです。
・労働者が、故意に負傷、疾病、障害若しくは死亡又はその直接の原因となった事故を生じさせたときは、政府は、保険給付を行わない(12条の2の2第1項)。
・労働者が故意の犯罪行為若しくは重大な過失により、又は正当な理由がなくて療養に関する指示に従わないことにより、負傷、疾病、障害若しくは死亡若しくはこれらの原因となった事故を生じさせ、又は負傷、疾病若しくは障害の程度を増進させ、若しくはその回復を妨げたときは、政府は、保険給付の全部又は一部を行わないことができる(12条の2の2第2項)。
・偽りその他不正の手段により保険給付を受けた者があるときは、政府は、その保険給付に要した費用に相当する金額の全部又は一部をその者から徴収することができる(12条の3第1項)。
・事業主が虚偽の報告又は証明をしたためその保険給付が行なわれたものであるときは、政府は、その事業主に対し、保険給付を受けた者と連帯して前項の徴収金を納付すべきことを命ずることができる(12条の3第2項)。
・政府は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じた場合において、保険給付をしたときは、その給付の価額の限度で、保険給付を受けた者が第三者に対して有する損害賠償の請求権を取得する(12条の4第1項)。
→第三者の行為によって事故が生じた場合において、政府が先に保険給付をしたときは、政府は第三者に対して損害賠償の請求権を取得します。
・保険給付を受けるべき者が当該第三者から同一の事由について損害賠償を受けたときは、政府は、その価額の限度で保険給付をしないことができる(12条の4第2項)。
→先ほどとは反対に、先に被害者が第三者から損害賠償を受けたときは、補償がされているので、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができます。1項と2項の場面の違いについて、おさえておきましょう。
保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない(規則23条1項)。
事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない(同条2項)。
政府が被災労働者に対し労災保険法に基づく保険給付をしたときは、当該労働者の使用者に対する損害賠償請求権は、その保険給付と同一の事由については損害の填補がされたものとしてその給付の価額の限度において減縮するが、同一の事由の関係にあることを肯定できるのは、財産的損害のうちの消極損害(いわゆる逸失利益)のみであり、保険給付が消極損害の額を上回るとしても、当該超過分を、財産的損害のうちの積極損害(入院雑費、付添看護費を含む。)及び精神的損害(慰謝料)を填補するものとして、これらとの関係で控除することは許されない(最判昭62.7.10)。
労働者が使用者の不法行為によって死亡し、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するにあたり、当該遺族補償年金の填補の対象となる損害は、特段の事情のない限り、不法行為の時に填補されたものと法的に評価して、損益相殺的な調整をすることが相当である(最判平27.3.4)。
労災保険法に基づく保険給付の原因となった事故が第三者の行為により惹起され、第三者が当該行為によって生じた損害につき賠償責任を負う場合において、当該事故により被害を受けた労働者に過失があるため損害賠償額を定めるにつきこれを一定の割合で斟酌すべきときは、保険給付の原因となった事由と同一の事由による損害の賠償額を算定するには、当該損害の額から過失割合による減額をし、その残額から当該保険給付の価額を控除する方法によるのが相当である(最判平元4.11)。
政府が被災労働者に支給する特別支給金は、社会復帰促進等事業の一環として、被災労働者の療養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり、被災労働者の損害を填補する性質を有するということはできず、したがって、被災労働者の受領した特別支給金を、使用者又は第三者が被災労働者に対し損害賠償すべき損害額から控除することはできない(最判平8.2.23)。
労災保険法に基づく保険給付の原因となった事故が第三者の行為により惹起された場合において、被災労働者が、示談により当該第三者の負担する損害賠償債務を免除した場合には、その限度において損害賠償請求権は消滅するのであるから、政府がその後保険給付をしても、その請求権がなお存することを前提とする労災保険法第12条の4第2項による法定代位権の発生する余地のないことは明らかである(最昭38.6.4)。
選択式で出題された判例をみておきましょう。
最高裁判所は、労災保険法第12条の4について、同条は、保険給付の原因である事故が第三者の行為によって生じた場合において、受給権者に対し、政府が先に保険給付をしたときは、受給権者の第三者に対する損害賠償請求権はその給付の価額の限度で当然国に移転し、第三者が先に損害賠償をしたときは、政府はその価額の限度で保険給付をしないことができると定め、受給権者に対する第三者の損害賠償義務と政府の保険給付義務とが相互補完の関係にあり、同一の事由による損害の二重填補を認めるものではない趣旨を明らかにしているものである旨を判示している。
(最判平元4.11)
・保険給付を受ける権利は、労働者の退職によって変更されることはない(12条の5第1項)。
→たとえば、業務上の事由によって負傷した労働者が、退職したからといって、保険給付がされなくなるといったことはないということです。
・保険給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差しおさえることができない(12条の5第2項)。
・租税その他の公課は、保険給付として支給を受けた金品を標準として課することはできない(12条の6)。
→労災保険は、業務上の事由等によって負傷や疾病にかかった労働者を保護することが目的なので、保険給付を受ける権利を差しおさえたり、保険給付として支給を受けた金品に税金をかけたりすることはできないということです。