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労働者災害補償保険法の保険給付から業務災害に関する保険給付について解説します。業務災害に関する保険給付は、労災法の中でもっとも重要なもののひとつになります。
・業務災害に関する保険給付は、次に掲げる保険給付とする(12条の8第1項)。
① 療養補償給付
② 休業補償給付
③ 障害補償給付
④ 遺族補償給付
⑤ 葬祭料
⑥ 傷病補償年金
⑦ 介護補償給付
以下、ひとつずつ見ていきましょう。
療養補償給付
・療養補償給付は、療養の給付とする(13条1項)。
・療養の給付の範囲は、次の各号(政府が必要と認めるものに限る。)による(13条2項)。
① 診察
② 薬剤又は治療材料の支給
③ 処置、手術その他の治療
④ 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
⑤ 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
⑥ 移送
・政府は、療養の給付をすることが困難な場合その他厚生労働省令で定める場合[療養の給付を受けないことについて労働者に相当の理由がある場合]には、療養の給付に代えて療養の費用を支給することができる(13条3項、規則11条の2)。
→ここが少しわかりにくいかもしれません。療養の給付とは、診察や薬剤、処置など、現金そのものを給付されるのではなく現物(サービス)を給付されるものです。しかし、「療養の給付をすることが困難な場合」には、療養の給付に代えて療養の費用、つまり現金を支給することもできるようになっています。
反対に言うと、指定病院等に該当しないときは、療養の給付は行われません。
療養補償給付たる療養の費用の支給を受けようとする者は、次に掲げる事項を記載した請求書を、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない(規則12条の2第1項)。
① 労働者の氏名、生年月日及び住所
② 事業の名称及び事業場の所在地
③ 負傷又は発病の年月日
④ 災害の原因及び発生状況
⑤ 傷病名及び療養の内容
⑥ 療養に要した費用の額
⑦ 療養の給付を受けなかつた理由
⑧ 労働者が複数事業労働者である場合は、その旨
前項第3号及び第4号に掲げる事項については事業主の証明を、同項第5号及び第6号に掲げる事項については医師その他の診療、薬剤の支給、手当又は診療担当者の証明を受けなければならない(同条2項本文)。
医師が直接の指導を行わない温泉療養については、療養補償費を支給しない。ただし、病院等の附属施設で医師が直接指導のもとに行うものについてはこの限りでない(昭25.10.6基発916号)。
被災労働者が、災害現場で医師の治療を受けず医療機関への搬送中に死亡した場合、死亡に至るまでに要した搬送費用は、療養のためのものと認められるので移送費として支給される(昭30.7.13基収841号)。
遠隔地において死亡した場合の火葬料及び遺骨を移送に必要な費用は療養補償費の範囲には属さない(昭24.7.22基収2303号)。
業務災害の発生直後、救急患者を災害現場から労災病院に移送する場合、社会通念上妥当と認められる場合であれば移送に要した費用全額が支給される(昭37.9.18基発951号ほか)。
休業補償給付
・休業補償給付は、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため労働することができないために賃金を受けない日の第4日目から支給するものとし、その額は、1日につき給付基礎日額の100分の60に相当する額とする(14条1項本文)。
→先ほどの療養補償給付は、負傷や疾病になってすぐの治療について支給されるものでした。休業補償給付は、労働者が業務上の負傷または疾病による療養のため労働することができないために支給されるものです。こちらは生活保障の意味合いがあります。その額は、1日につき給付基礎日額の100分の60に相当する額です。給付基礎日額は、保険給付の通則のところで出てきました。労働基準法の平均賃金に相当する額です(8条1項)。
・ただし、労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のため所定労働時間のうちその一部分についてのみ労働する日若しくは賃金が支払われる休暇(以下この項において「部分算定日」という。)又は複数事業労働者の部分算定日に係る休業補償給付の額は、給付基礎日額から部分算定日に対して支払われる賃金の額を控除して得た額の100分の60に相当する額とする(14条1項但書)。
→所定労働時間のうち一部分について賃金が支払われるときは、休業補償給付の額は、給付基礎日額から支払われる額を控除して得た額の100分の60に相当する額となります。たとえば、給付基礎日額が1万円、支払われる額が4,000円の場合、10,000円から4,000円を控除して得た額(6,000円)の100分の60に相当する額(3,600円)が支給されます。
・休業補償給付を受ける労働者が同一の事由について障害厚生年金又は障害基礎年金を受けることができるときは、当該労働者に支給する休業補償給付の額は、政令で定める率のうち傷病補償年金について定める率を乗じて得た額とする(14条2項、政令2条)。
→今はまだ厚生年金や国民年金を学習していませんが、休業補償給付を受ける労働者が同一の事由について、障害厚生年金または障害基礎年金を受けることができるときは、かんたんにいうともらいすぎになってしまうため、政令で定める率を乗じて得た額を支給します。
- 障害補償年金:0.73
- 遺族補償年金:0.80
- 傷病補償年金:0.73
傷病補償年金の場合は、0.73なので、たとえば1万円が支給される方の場合、10,000円×0.73=7,300円が支給されることになります。政令の額まで覚えるのは少し大変なので、もらいすぎにならないように一定の率をかけて調整する仕組みがあるということをおさえておきましょう。また、本試験では、「同一の事由」という部分を「異なる事由」で引っ掛ける選択肢が出題されます。
・労働者が次の各号のいずれかに該当する場合(厚生労働省令で定める場合に限る。)には、休業補償給付は、行わない(14条の2各号)。
① 刑事施設、労役場その他これらに準ずる施設に拘禁されている場合
② 少年院その他これに準ずる施設に収容されている場合
→これらの施設にいる場合は、生活ができるため、休業補償給付は行われません。「厚生労働省令で定める場合」とは、懲役や禁錮など刑の執行の言渡しを受けて拘置されている場合です。
障害補償給付
・障害補償給付は、厚生労働省令で定める障害等級に応じ、障害補償年金又は障害補償一時金とする(15条1項)。
→ここまで少しおさらいしましょう。療養補償給付は治療等に支給されるものでした。休業補償給付は休業中の生活のために支給されるものでした。障害補償給付は、これらの結果、障害が残ったときに、障害等級に応じて、支給されます。障害の程度が重い方は「年金」、軽い方は「一時金」を受けることになります。
障害補償給付を支給すべき身体障害の障害等級は、別表第一に定めるところによる(規則14条1項)。
別表第一に掲げるもの以外の身体障害については、その障害の程度に応じ、同表に掲げる身体障害に準じてその障害等級を定める(規則14条4項)。
・障害補償年金又は障害補償一時金の額は、それぞれ、別表第一又は別表第二に規定する額とする(15条2項)。
障害補償年金の額
障害等級 | 障害補償年金の額 |
第1級 | 313日分 |
第2級 | 277日分 |
第3級 | 245日分 |
第4級 | 213日分 |
第5級 | 184日分 |
第6級 | 156日分 |
第7級 | 131日分 |
障害補償一時金の額
障害等級 | 障害補償一時金の額 |
第8級 | 503日分 |
第9級 | 391日分 |
第10級 | 302日分 |
第11級 | 223日分 |
第12級 | 156日分 |
第13級 | 101日分 |
第14級 | 56日分 |
→障害補償年金は、第1級をおさえておきましょう。また、障害補償一時金は、第8級と第14級をおさえておきましょう。障害補償年金は、年金なので毎年支給されます。障害補償一時金は、一時金なので一回の支給でおわりです。
障害補償給付に関しては、細かいところまで出題されるので、規則をおさえておきましょう。
・身体障害が2以上ある場合には、重い方の身体障害の該当する障害等級による(規則14条2項)。
・左の各号に掲げる場合には、障害等級をそれぞれ当該各号に掲げる等級だけ繰り上げた障害等級による(規則14条3項本文)。
① 第13級以上に該当する身体障害が2以上あるとき 1級
② 第8級以上に該当する身体障害が2以上あるとき 2級
③ 第5級以上に該当する身体障害が2以上あるとき 3級
→まず、身体障害が2以上ある場合は、重い方の身体障害の該当する障害等級になります。たとえば、14級と7級の場合、7級になります。
次に、第13級以上に該当する身体障害が2以上あるときは1級、第8級以上に該当する身体障害が2以上あるときは2級、第5級以上に該当する身体障害が2以上あるときは3級だけ繰り上げた障害等級になります。たとえば、13級と9級の場合、13級以上が2つあるので、重い方の身体障害に該当する9級を1だけ繰り上げた8級になります。同じように、8級と6級の場合、重い方の身体障害に該当する6級を2だけ繰り上げて4級になります。そして、5級と4級の場合、重い方の身体障害に該当する4級を3だけ繰り上げて1級になります。
既に身体障害のあつた者が、負傷又は疾病により同一の部位について障害の程度を加重した場合における当該事由に係る障害補償給付は、現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付とし、その額は、現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付の額から、既にあつた身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付の額(現在の身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付が障害補償年金であつて、既にあつた身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償給付が障害補償一時金である場合には、その障害補償一時金の額(当該障害補償年金を支給すべき場合において、法第八条の三第二項において準用する法第八条の二第二項各号に掲げる場合に該当するときは、当該各号に定める額を法第八条の四の給付基礎日額として算定した既にあつた身体障害の該当する障害等級に応ずる障害補償一時金の額)を二十五で除して得た額)を差し引いた額による(規則14条5項)。
(令3-5)
・障害補償年金を受ける労働者の当該障害の程度に変更があったため、新たに他の障害等級に該当するに至った場合には、政府は、厚生労働省令で定めるところにより、新たに該当するに至った障害等級に応ずる障害補償年金又は障害補償一時金を支給するものとし、その後は、従前の障害補償年金は、支給しない(15条の2)。
→条文だと難しく感じますが、障害の程度に変更があり、新たに他の障害等級に該当することになった場合は、新しい障害等級に対応した障害補償年金または障害補償一時金が支給されるということです。
同一の負傷又は疾病が再発した場合には、その療養の期間中は、障害補償年金の受給権は消滅する(平27.12.22基補発1222第1号)。
遺族補償給付
・遺族補償給付は、遺族補償年金又は遺族補償一時金とする(16条)。
→次は、業務災害の結果、労働者が亡くなってしまった場合に支給される遺族補償年金等です。
・遺族補償年金を受けることができる遺族は、労働者の配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹であって、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたものとする。ただし、妻(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。以下同じ。)以外の者にあっては、労働者の死亡の当時次の各号に掲げる要件に該当した場合に限るものとする(16条の2第1項各号、規則15条)。
① 夫(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。以下同じ。)、父母又は祖父母については、60歳以上であること。
② 子又は孫については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあること。
③ 兄弟姉妹については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあること又は60歳以上であること。
④ 前三号の要件に該当しない夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、厚生労働省令で定める障害の状態[障害等級の第5級以上に該当する障害がある状態]にあること。
→まず、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹で、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していたものが受給することができることをおさえます。よく「生計を同じく」と「生計を維持」が混ざってしまうことがありますが、遺族補償年金というのは、業務上の事由によって死亡した労働者の遺族の生活を保障するために支給されるものなので、労働者によって生計を維持されていたという結論を導くことができます。字面だけを暗記しないように気をつけましょう。
遺族補償年金は、自分だけでは生活をするのが難しい人に支給されます。このことから、夫や父母、祖父母の場合は60歳以上であることが必要です。配偶者について、夫と妻を分けるのは問題があるという見方もできるかもしれませんが、まだ男女間の賃金格差がある現代社会においては、配偶者のうち夫については年齢条件が課せられているのは許容されています。
また、子や孫については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあることが条件となります。これもまた、18歳以上の場合は自分である程度働くことができると考えられるからです。
兄弟姉妹については難しいところです。まず、子や孫のときと同じく、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間は受給することができる者となります。それ以後は自分で生活をすることができるからです。また、夫や父母、祖父母と同じように、60歳以上も受給することができる者となります。
最後に、これらの要件に該当しない夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、障害等級の第5級以上に該当する障害がある状態だと受給することができる者になります。
(令3-6)
労動者の死亡の当時における遺族の生活水準が年齢、職業等の事情が類似する一般人のそれをいちじるしく上回る場合を除き、当該遺族が死亡労動者の収入によって消費生活の全部又は一部を営んでいた関係(生活依存関係)が認められる限り、当該遺族と死亡労動者との間に「生計維持関係」があったものと認めて差し支えない(昭41.10.22基発1108号)。
労働者が就職後極めて短期間の間に死亡したため、死亡した労働者の収入で生計を維持するに至らなかった遺族でも、労働者が生存していたとすればその収入によって生計を維持する関係がまもなく常態となるに至ったであろうことが明らかな場合は、遺族補償年金の受給資格者である(昭41.10.22基発1108号)。
・労働者の死亡の当時胎児であった子が出生したときは、将来に向かって、その子は、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子とみなす(16条の2第2項)。
→労働者が亡くなったとき、配偶者のお腹の中に赤ちゃんがいて、その後に産まれたときは、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子とみなされます。つまり、受給することができる者となるということです。
・遺族補償年金を受けるべき遺族の順位は、配偶者、子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹の順序とする(16条の2第3項)。
・遺族補償年金の額は、別表第一に規定する額とする(16条の3第1項)。
- 1人:給付基礎日額の153日分
- 2人:給付基礎日額の201日分
- 3人:給付基礎日額の223日分
- 4人:給付基礎日額の245日分
※ただし、55歳以上の妻又は厚生労働省令で定める障害の状態にある妻にあっては、給付基礎日額の175日分とする。
・遺族補償年金を受ける権利を有する者が2人以上あるときは、遺族補償年金の額は、別表第一に規定する額をその人数で除して得た額とする(16条の3第2項)。
→たとえば、遺族補償年金を受ける権利を有する子が3人いる場合、給付基礎日額の223日分を3で除して得た額(74.3日分)が支給されます。
・遺族補償年金の額の算定の基礎となる遺族の数に増減を生じたときは、その増減を生じた月の翌月から、遺族補償年金の額を改定する(16条の3第3項)。
→障害補償年金のときと同じように、変更があったときは、翌月から改定されます。
・遺族補償年金を受ける権利を有する遺族が妻であり、かつ、当該妻と生計を同じくしている遺族補償年金を受けることができる遺族がない場合において、当該妻が次の各号の一に該当するに至ったときは、その該当するに至った月の翌月から、遺族補償年金の額を改定する(16条の3第4項)。
① 55歳に達したとき(別表第一の厚生労働省令で定める障害の状態にあるときを除く。)。
② 別表第一の厚生労働省令で定める障害の状態になり、又はその事情がなくなったとき(55歳以上であるときを除く。)。
→整理しましょう。まず、条件は、妻であり、他に遺族補償年金を受けることができる遺族がいない、つまり1人であるということです。この場合、55歳に達すると、先ほど別表第一で見たように、額が上がるので改定されます。また、障害の状態になったり、反対に障害の状態がなくなったときも額が変わるので改定されます。条文上の表現ではないのであまりおすすめはできませんが、「55歳に達した」または「障害の状態にある」と、175日分になると記憶してしまうのもひとつの手です。
・遺族補償年金を受ける権利は、その権利を有する遺族が次の各号の一に該当するに至ったときは、消滅する。この場合において、同順位者がなくて後順位者があるときは、次順位者に遺族補償年金を支給する(16条の4第1項)。
① 死亡したとき。
② 婚姻をしたとき。
③ 直系血族又は直系姻族以外の者の養子となったとき。
④ 離縁によって、死亡した労働者との親族関係が終了したとき。
⑤ 子、孫又は兄弟姉妹については、18歳に達した日以後の最初の3月31日が終了したとき(労働者の死亡の時から引き続き障害の状態にあるときを除く。)。
⑥ 障害の状態にある夫、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹については、その事情がなくなったとき(夫、父母又は祖父母については、労働者の死亡の当時60歳以上であったとき、子又は孫については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるとき、兄弟姉妹については、18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか又は労働者の死亡の当時60歳以上であったときを除く。)。
→まず、これらに該当するに至ったときは、遺族補償年金は消滅します。
3号の養子については、直系血族または直系姻族以外の者の養子となったときに消滅します。たとえば、祖父母の養子になったときなどは消滅しないので注意しましょう。なお、姻族とは、配偶者の父母や祖父母のことです。
5号については、18歳に達すると基本的に遺族補償年金を受ける権利は消滅します。ただ、障害の状態にあるときは受給することができるので除かれています。
6号については、障害の状態がなくなると遺族補償年金を受ける権利がなくなります。ただ、夫や父母、祖父母は、労働者の死亡の当時60歳以上であったときは遺族補償年金を受けることができるので除かれています。同様に兄弟姉妹についても18歳に達するまで、または60歳以上であったときは遺族補償年金を受けることができるので除かれています。条文だとややこしく感じますが、遺族補償年金を受けることができる遺族(16条の2第1項各号)を理解すれば、対応できるようになります。
そして、重要なのは、遺族補償年金は、同順位者がなくて後順位者があるときは、次順位者に遺族補償年金を支給するということです。いわゆる「転給」と呼ばれるものです。まず、同順位者がいるときは、同順位者に支給されるので問題ありません。同順位者がいない場合、これから学習するさまざまな保険では、基本的に権利が消滅します。しかし、遺族補償年金は、業務上の事由により亡くなっているので、つまり労働者の遺族を保護する必要性が高いため、次順位者に遺族補償年金を支給することになっています。
また、労働基準法79条は、「労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、遺族に対して、平均賃金の1000日分の遺族補償を行わなければならない。」と規定しているため、最低でもこれに達するまでは支給することになります。
・遺族補償年金を受ける権利を有する者の所在が1年以上明らかでない場合には、当該遺族補償年金は、同順位者があるときは同順位者の、同順位者がないときは次順位者の申請によって、その所在が明らかでない間、その支給を停止する。この場合において、同順位者がないときは、その間、次順位者を先順位者とする(16条の5第1項)。
→遺族補償年金を受ける権利がある者の所在が1年以上明らかでない場合は、遺族補償年金は、支給が停止されます。このときも次順位者に支給されます。
・遺族補償年金の支給を停止された遺族は、いつでも、その支給の停止の解除を申請することができる(16条の5第2項)。
→明らかになったときは、停止の解除を申請できるということです。
・遺族補償一時金は、次の場合に支給する(16条の6第1項各号)。
① 労働者の死亡の当時遺族補償年金を受けることができる遺族がないとき。
② 遺族補償年金を受ける権利を有する者の権利が消滅した場合において、他に当該遺族補償年金を受けることができる遺族がなく、かつ、当該労働者の死亡に関し支給された遺族補償年金の額の合計額が当該権利が消滅した日において前号に掲げる場合に該当することとなるものとしたときに支給されることとなる遺族補償一時金の額に満たないとき。
→障害補償給付のときは、障害の程度に応じて、年金か一時金かに分かれました。遺族補償給付は、人の命なので程度に重い軽いはありません。遺族補償一時金が支給されるのは、遺族補償年金を受けることができる遺族がいないときなどです。イメージがわきにくいかもしれませんが、たとえば、夫は60歳以上でないと遺族補償年金が受けられないので、58歳の夫などが該当します。
・遺族補償一時金を受けることができる遺族は、次の各号に掲げる者とする(16条の7第1項各号)。
① 配偶者
② 労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子、父母、孫及び祖父母
③ 前号に該当しない子、父母、孫及び祖父母並びに兄弟姉妹
→基本書などでは、図表で書かれていて暗記をさせられていた部分です。この機会に条文に立ち返って理解をしましょう。まず、配偶者、これはもっとも保護される存在といえます。次に、労働者の死亡の当時その収入によって生計を維持していた子、父母、孫、祖父母が該当します。3号は、該当しないなので、生計を維持していなかった子、父母、孫及び祖父母です。そして、「並びに」兄弟姉妹が入ります。兄弟姉妹は、直系ではなく(傍系です)、保護性が低いため、生計の維持の有無に関係なく、最後になっているのがポイントです。
・遺族補償一時金を受けるべき遺族の順位は、前項各号の順序により、同項第2号及び第3号に掲げる者のうちにあっては、それぞれ、当該各号に掲げる順序による(16条の7第2項)。
→まず、各号の順序になります。そして、同じ号の中では、各号の中で掲げる順序になります。遺族補償年金を受けられる順番と同じなので苦労はしないはずです。
・遺族補償一時金の額は、別表第二に規定する額とする(16条の8第1項)。
- 遺族補償年金を受けることができる遺族がないときの場合:給付基礎日額の1,000日分
- 支給された遺族補償年金の額の合計額が1000日分の額に満たないときの場合:給付基礎日額の1,000日分から遺族補償年金の額の合計額を控除した額
→1号は、最初から遺族補償年金を受けることができる遺族がないときの場合です。2号は、最初は遺族補償年金を受けることができる遺族はいましたが、権利が消滅し、権利が消滅した日において1,000日分の額に満たないときの場合です。ここでも、労働基準法79条の「労働者が業務上死亡した場合においては、使用者は、遺族に対して、平均賃金の1000日分の遺族補償を行わなければならない。」が意識されているのがわかります。
・労働者を故意に死亡させた者は、遺族補償給付を受けることができる遺族としない(16条の9第1項)。
・労働者の死亡前に、当該労働者の死亡によって遺族補償年金を受けることができる先順位又は同順位の遺族となるべき者を故意に死亡させた者は、遺族補償年金を受けることができる遺族としない(16条の9第2項)。
・遺族補償年金を受けることができる遺族を故意に死亡させた者は、遺族補償一時金を受けることができる遺族としない。労働者の死亡前に、当該労働者の死亡によって遺族補償年金を受けることができる遺族となるべき者を故意に死亡させた者も、同様とする(16条の9第3項)。
・遺族補償年金を受けることができる遺族が、遺族補償年金を受けることができる先順位又は同順位の他の遺族を故意に死亡させたときは、その者は、遺族補償年金を受けることができる遺族でなくなる。この場合において、その者が遺族補償年金を受ける権利を有する者であるときは、その権利は、消滅する(16条の9第4項)。
→これらのような場合、遺族補償給付を受ける遺族としません。
遺族補償年金について、選択式で出題された判例を確認しておきましょう。
最高裁判所は、遺族補償年金に関して次のように判示した。
「労災保険法に基づく保険給付は、その制度の趣旨目的に従い、特定の損害について必要額を塡補するために支給されるものであり、遺族補償年金は、労働者の死亡による遺族の被扶養利益の喪失を塡補することを目的とするものであって(労災保険法1条、16条の2から16条の4まで)、その塡補の対象とする損害は、被害者の死亡による逸失利益等の消極損害と同性質であり、かつ、相互補完性があるものと解される。〔…(略)…〕
したがって、被害者が不法行為によって死亡した場合において、その損害賠償請求権を取得した相続人が遺族補償年金の支給を受け、又は支給を受けることが確定したときは、損害賠償額を算定するに当たり、上記の遺族補償年金につき、その塡補の対象となる被扶養利益の喪失による損害と同性質であり、かつ、相互補完性を有する逸失利益等の消極損害の元本との間で、損益相殺的な調整を行うべきものと解するのが相当である。」
(最判平27.3.4)
葬祭料
・葬祭料は、通常葬祭に要する費用を考慮して厚生労働大臣が定める金額とする(17条)。
・葬祭料の額は、315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額(その額が給付基礎日額の60日分に満たない場合には、給付基礎日額の60日分)とする(規則17条)。
→具体的な金額について問われることは少ないですが、たとえば給付基礎日額が1万円の場合、315,000円に300,000円を足した615,000円になります。また、給付基礎日額が15,000円の場合、315,000円に450,000円を足した765,000円になりますが、給付基礎日額の60日分である900,000円に満たないので、900,000円が葬祭料となります。
傷病補償年金
・傷病補償年金は、業務上負傷し、又は疾病にかかった労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後1年6箇月を経過した日において次の各号のいずれにも該当するとき、又は同日後次の各号のいずれにも該当することとなったときに、その状態が継続している間、当該労働者に対して支給する(12条の8第3項、規則18条1項、同2項)。
① 当該負傷又は疾病が治っていないこと。
② 当該負傷又は疾病による障害の程度[6箇月以上の期間にわたつて存する障害の状態により認定するもの]が厚生労働省令で定める傷病等級に該当すること。
ーー
業務上の事由により負傷し、又は疾病にかかつた労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後1年6箇月を経過した日において法第12条の8第3項各号のいずれにも該当するとき、又は同日後同項各号のいずれにも該当することとなつたときは、所轄労働基準監督署長は、当該労働者について傷病補償年金の支給の決定をしなければならない(規則18条の2第1項)。
所轄労働基準監督署長は、法第十八条の二に規定する場合には、当該労働者について傷病等級の変更による傷病補償年金の変更に関する決定をしなければならない(規則18条の3)。
ーー
別表
→傷病補償年金は、負傷や疾病に係る療養を開始後1年6箇月を経過した日において①治っていないこと、②障害の程度が厚生労働省令で定める傷病等級に該当するときに支給されます。本試験対策上、具体的な傷病等級については割愛します。
業務災害に関する保険給付の全体像が見えにくくなってきたと思うので、整理しましょう。まず、業務上の事由によって負傷等をした場合、治療をする必要があります。ここで支給されるのが療養補償給付です。次に、負傷等をして会社をお休みしないといけないときに4日目から支給されるのが休業補償給付です。これは休業中の生活保障の意味合いがありました。
そして、障害が残った場合は、障害補償給付が支給されます。障害補償給付は、負傷または疾病が「治った」ことが条件になります。ここでいう「治った」とは、完治したという意味ではなく、「その症状が安定し、長期にわたってその疾病の固定性が認められ、医療効果が期待し得ない状態に至った場合」のことをいいます。いわゆる「症状固定」と呼ばれるものです。
一方、今回の傷病補償年金は、「当該負傷又は疾病が治っていないこと」が条件のひとつです。つまり、まだ治療中であるといえます。療養の開始後、1年6箇月を経過した日において、負傷または疾病が治っていないときは、傷病補償年金が支給されるようになります。
参考:厚生労働省「年金制度の仕組みと考え方 第12 障害年金」
・傷病補償年金は、厚生労働省令で定める傷病等級に応じ、別表第一に規定する額とする(18条1項)。
- 傷病等級第1級に該当する障害の状態にある者 給付基礎日額の313日分
- 傷病等級第2級に該当する障害の状態にある者 給付基礎日額の277日分
- 傷病等級第3級に該当する障害の状態にある者 給付基礎日額の245日分
→この額は、障害補償年金の第1級から第3級と同じです。
・傷病補償年金を受ける者には、休業補償給付は、行わない(18条2項)。
→先ほど、療養の開始後、1年6箇月を経過した日において、負傷または疾病が治っていないときは、傷病補償年金が支給されると聞いて、休業補償給付との関係について疑問に思った方もいると思います。休業補償給付は、賃金を受けない第4日目から支給が開始され、日ごとに計算されます。ただ、1年6箇月を経過しても治っていない場合は、日ごとではなく、年金として支給しようということで、傷病補償年金が支給がされるようになります。この場合、生活の保障という目的は同じなので、傷病補償年金を受ける者には、休業補償給付は行わないことになっています。
今度は、療養補償給付との関係について疑問に感じる方もいると思います。療養補償給付は、治療を目的としたものなので、療養補償給付が支給されていても傷病補償年金は支給されます。もちろん、療養補償給付と休業補償給付の場合も同時に支給されます。これは一般的な労災でお休みしている人を想像するとわかりやすいと思います。
・傷病補償年金を受ける労働者の当該障害の程度に変更があったため、新たに他の傷病等級に該当するに至った場合には、政府は、新たに該当するに至った傷病等級に応ずる傷病補償年金を支給するものとし、その後は、従前の傷病補償年金は、支給しない(18条の2)。
→障害補償年金のときと同じように、程度に変更があったときは、新たな傷病等級に応ずる傷病補償年金を支給します。
・業務上負傷し、又は疾病にかかった労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合又は同日後において傷病補償年金を受けることとなった場合には、労働基準法第19条第1項[解雇制限]の規定の適用については、当該使用者は、それぞれ、当該3年を経過した日又は傷病補償年金を受けることとなった日において、打切補償を支払ったものとみなす(19条)。
→今度は、療養の開始後3年を経過した日についてです。このとき、傷病補償年金を受けている場合、または傷病補償年金を受けることとなった場合、打切補償を支払ったものとみなされます。
整理しましょう。まず、労働基準法19条1項本文は、「使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間並びに産前産後の女性が休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない」と規定しています。そして、「ただし、使用者が、打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合においては、この限りでない」として例外について定めています(19条1項但書)。
つまり、原則として、労働者が業務上の事由により負傷または疾病にかかり療養のために休業をする期間及びその後30日間は労働者の生活を保障するために解雇していはいけないけれど、使用者が打切補償を支払う場合は、労働者は生活の保障がされるから解雇してもいいということです。
そして、業務上負傷し、又は疾病にかかった労働者が、当該負傷又は疾病に係る療養の開始後3年を経過した日において傷病補償年金を受けている場合や傷病補償年金を受けることとなった場合は、労災側から打切補償を支払ってもらうのと同視できるので、解雇制限はなくなりますということです。
介護補償給付
・介護補償給付は、障害補償年金又は傷病補償年金を受ける権利を有する労働者が、その受ける権利を有する障害補償年金又は傷病補償年金の支給事由となる障害であって厚生労働省令で定める程度のものにより、常時又は随時介護を要する状態にあり、かつ、常時又は随時介護を受けているときに、当該介護を受けている間(次に掲げる間を除く。)、当該労働者に対し、その請求に基づいて行う(12条の8第4項各号)。
① 障害者支援施設に入所している間
② 障害者支援施設に準ずる施設として厚生労働大臣が定めるものに入所している間
③ 病院又は診療所に入院している間
→最後は、介護補償給付です。介護補償給付は、障害補償年金または傷病補償年金を受ける権利を有する労働者で介護を要する状態にあり、かつ、介護を受けている者が対象です。厚生労働省令で定める程度の障害としては、「神経系統の機能若しくは精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの(身体障害)又は神経系統の機能若しくは精神に著しい障害を有し、常に介護を要するもの」などが該当します(規則18条の3の2)。これらの方は、障害補償年金や傷病補償年金で生活保障をされている以上に、介護の費用もかかるので、介護補償給付が支給されるようになっています。
括弧書きの「(次に掲げる間を除く。)」については、これらの施設にいるときは、介護を受けているので、介護補償給付は行われないということです。
・介護補償給付は、月を単位として支給するものとし、その月額は、常時又は随時介護を受ける場合に通常要する費用を考慮して厚生労働大臣が定める額とする(19条の2)。
→介護補償給付は、月を単位として支給されます。試験対策上、月額については割愛します。
参考:労災補償 |厚生労働省