社会保険に関する一般常識(社一)から国民健康保険法について学習します。今回から、社一に入ります。社一も労一と同じように、ひとつの科目に多くの法律が含まれます。もっとも、可処分時間を考慮すると、ある程度範囲を絞った学習が求められます。そこで、今回は、ほぼ毎年のように出題される国民健康保険法についてみていきましょう。
目次
第1章 総則
この法律の目的
私たちは、これまで労働者の健康保険に関する「健康保険法」を学習しました。また、年金では、国民を対象にした「国民年金法」、労働者を対象にした「厚生年金保険法」を学習しました。今回学習する「国民健康保険法」は、かんたんにいうと国民を対象にした健康保険です。まったく新しいことを学習すると思うと大変なので、健康保険法とどのように違うかを意識しながら進めていきましょう。
健康保険 | 年金 | |
国民 | 国民健康保険法 | 国民年金法 |
労働者 | 健康保険法 | 厚生年金保険法 |
国民健康保険
保険者
都道府県は、市町村(特別区を含む。以下同じ。)とともに、国民健康保険を行うものとする(3条1項)。
国民健康保険組合は、国民健康保険を行うことができる(3条2項)。
国民健康保険組合については、後述します。
国、都道府県及び市町村の責務
国は、国民健康保険事業の運営が健全に行われるよう必要な各般の措置を講ずるとともに、目的の達成に資するため、保健、医療及び福祉に関する施策その他の関連施策を積極的に推進するものとする(4条1項)。
都道府県は、安定的な財政運営、市町村の国民健康保険事業の効率的な実施の確保その他の都道府県及び当該都道府県内の市町村の国民健康保険事業の健全な運営について中心的な役割を果たすものとする(4条2項)。
市町村は、被保険者の資格の取得及び喪失に関する事項、国民健康保険の保険料の徴収、保健事業の実施その他の国民健康保険事業を適切に実施するものとする(4条3項)。
都道府県及び市町村は、責務を果たすため、保健医療サービス及び福祉サービスに関する施策その他の関連施策との有機的な連携を図るものとする(4条4項)。
都道府県は、国民健康保険事業の運営が適切かつ円滑に行われるよう、国民健康保険組合その他の関係者に対し、必要な指導及び助言を行うものとする(4条5項)。
国民健康保険法では、国が「必要な各般の措置」を講じ、都道府県が「中心的な役割」をし、市町村が「国民健康保険事業を適切に実施」します。
第2章 都道府県及び市町村
被保険者
適用除外
次の各号のいずれかに該当する者は、都道府県等が行う国民健康保険の被保険者としない(6条)。
① 健康保険法の規定による被保険者。ただし、日雇特例被保険者を除く。
② 船員保険法の規定による被保険者
③ 共済組合の組合員
④ 私立学校教職員共済制度の加入者
⑤ 健康保険法の規定による被扶養者。ただし、日雇特例被保険者の同法の規定による被扶養者を除く。
⑥ 船員保険法、国家公務員共済組合法又は地方公務員等共済組合法の規定による被扶養者
⑦ 日雇特例被保険者手帳の交付を受け、その手帳に健康保険印紙をはり付けるべき余白がなくなるに至るまでの間にある者及びその者の被扶養者。
⑧ 高齢者の医療の確保に関する法律の規定による被保険者
⑨ 生活保護法による保護を受けている世帯に属する者
⑩ 国民健康保険組合の被保険者
⑪ その他特別の理由がある者で厚生労働省令で定めるもの
都道府県の区域内に住所を有する者を国民健康保険の被保険者とします。もっとも、健康保険法や船員保険法の被保険者は適用除外となります。このことから、国民健康保険法は、自営業者や無職の方などを対象としていることがわかります。
資格取得の時期
資格喪失の時期
都道府県等が行う国民健康保険の被保険者は、都道府県の区域内に住所を有しなくなった日の翌日又は第6条各号(第9号及び第10号を除く。)のいずれかに該当するに至った日の翌日から、その資格を喪失する。ただし、都道府県の区域内に住所を有しなくなった日に他の都道府県の区域内に住所を有するに至ったときは、その日から、その資格を喪失する(8条1項)。
都道府県等が行う国民健康保険の被保険者は、第6条第9号[生活保護]又は第10号[国民健康保険組合の被保険者]に該当するに至った日から、その資格を喪失する(8条2項)。
資格取得や喪失の時期は、健康保険法と同じように考えることができます。
届出等
届出等の提出期限は規則で定められており、原則14日以内とおさえておきましょう。これは、国民を対象としている国民年金法と同じです。労働者等を対象としている健康保険法や厚生年金保険法は、原則10日以内であった点と比較しておきましょう。週5日勤務して約2週間分と考えることができます。
国民健康保険事業の運営に関する協議会
国民健康保険事業の運営に関する事項を審議させるため、都道府県に都道府県の国民健康保険事業の運営に関する協議会を置く(11条1項)。
国民健康保険事業の運営に関する事項を審議させるため、市町村に市町村の国民健康保険事業の運営に関する協議会を置く(11条2項)。
国民健康保険事業の運営に関する事項を審議させるため、都道府県と市町村にそれぞれ協議会を置きます。
第3章 国民健康保険組合
組織
設立
組合を設立しようとするときは、主たる事務所の所在地の都道府県知事の認可を受けなければならない(17条1項)。
認可の申請は、15人以上の発起人が規約を作成し、組合員となるべき者300人以上の同意を得て行うものとする(17条2項)。
前述のように、この国民健康保険組合は、国民健康保険を行うことができます。
被保険者
組合員及び組合員の世帯に属する者は、当該組合が行う国民健康保険の被保険者とする。ただし、第6条各号[適用除外](第10号を除く。[国民健康保険組合の被保険者])のいずれかに該当する者及び他の組合が行う国民健康保険の被保険者は、この限りでない(19条1項)。
組合は、規約の定めるところにより、組合員の世帯に属する者を包括して被保険者としないことができる(同条2項)。
第4章 保険給付
療養の給付
市町村及び組合は、被保険者の疾病及び負傷に関しては、次の各号に掲げる療養の給付を行う。ただし、当該被保険者の属する世帯の世帯主又は組合員が当該被保険者について特別療養費の適用を受けている間は、この限りでない(36条1項)。
① 診察
② 薬剤又は治療材料の支給
③ 処置、手術その他の治療
④ 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
⑤ 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護
健康保険法の療養の給付と同じように考えることができます。このほか、入院時食事療養費(52条)、入院時生活療養費(52条の2)、保険外併用療養費(53条)、療養費(54条)、訪問看護療養費(54条の2)、移送費(54条の4)、高額療養費(57条の2)、高額介護合算療養費(57条の3)もあります。
ただし書きの特別療養費については、後述します。
療養の給付を受ける場合の一部負担金
① 6歳に達する日以後の最初の3月31日の翌日以後であって70歳に達する日の属する月以前である場合 10分の3
② 6歳に達する日以後の最初の3月31日以前である場合 10分の2
③ 70歳に達する日の属する月の翌月以後である場合(次号に掲げる場合を除く。) 10分の2
④ 70歳に達する日の属する月の翌月以後である場合であって、療養の給付を受ける者の属する世帯に属する被保険者について所得の額が政令で定める額[145万円]以上であるとき 10分の3
一部負担金の割合は、健康保険法と同じように考えることができます。
特別療養費
保険料を滞納している世帯主が、保険料納付の勧奨等を行っても保険料を納付しない場合、療養を受けたとき、後述するように保険給付の全部又は一部の支払を一時差し止めます(63条の2第1項)。つまり、一旦全額負担になるということです。その後、申請により保険給付分の払い戻しを受けることになります。これを特別療養費といいます。
その他の給付
市町村及び組合は、被保険者の出産及び死亡に関しては、条例又は規約の定めるところにより、出産育児一時金の支給又は葬祭費の支給若しくは葬祭の給付を行うものとする。ただし、特別の理由があるときは、その全部又は一部を行わないことができる(58条1項)。
市町村及び組合は、保険給付のほか、条例又は規約の定めるところにより、傷病手当金の支給その他の保険給付を行うことができる(58条2項)。
これまで見てきた療養の給付等は、法で定められている給付です。一方、出産育児一時金、葬祭料は、原則として行いますが、特別の理由があるときは、その全部または一部を行わないことができる給付です。また、傷病手当金は、任意で給付することができます。この3段階をおさえておきましょう。
保険給付の制限
被保険者又は被保険者であった者が、次の各号のいずれかに該当する場合には、その期間に係る療養の給付等は、行わない(59条)。
① 少年院その他これに準ずる施設に収容されたとき。
② 刑事施設、労役場その他これらに準ずる施設に拘禁されたとき。
被保険者が、自己の故意の犯罪行為により、又は故意に疾病にかかり、又は負傷したときは、当該疾病又は負傷に係る療養の給付等は、行わない(60条)。
被保険者が闘争、泥酔又は著しい不行跡によって疾病にかかり、又は負傷したときは、当該疾病又は負傷に係る療養の給付等は、その全部又は一部を行わないことができる(61条)。
市町村及び組合は、被保険者又は被保険者であった者が、正当な理由なしに療養に関する指示に従わないときは、療養の給付等の一部を行わないことができる(62条)。
市町村及び組合は、被保険者若しくは被保険者であった者又は保険給付を受ける者が、正当な理由なしに、命令に従わず、又は答弁若しくは受診を拒んだときは、療養の給付等の全部又は一部を行わないことができる(63条)。
市町村及び組合は、保険給付を受けることができる世帯主又は組合員が保険料を滞納しており、かつ、当該保険料の納期限から厚生労働省令で定める期間[1年6月間]が経過するまでの間に、当該市町村又は組合が保険料納付の勧奨等を行ってもなお当該保険料を納付しない場合においては、当該保険料の滞納につき災害その他の政令で定める特別の事情があると認められる場合を除き、保険給付の全部又は一部の支払を一時差し止めるものとする(63条の2第1項、規則32条の2)。
受給権の保護
租税その他の公課の禁止
このあたりは、他の法律と同じです。
第5章 費用の負担
国の負担
国は、組合に対して国民健康保険の事務に要する費用を負担する(69条)。
国は、都道府県等が行う国民健康保険の財政の安定化を図るため、都道府県に対し、当該都道府県内の市町村による療養の給付等に要する費用並びに当該都道府県による前期高齢者納付金及び後期高齢者支援金並びに介護納付金の納付に要する費用について、一定の額の合算額の100分の32を負担する(70条)。
調整交付金等
国は、都道府県等が行う国民健康保険について、都道府県及び当該都道府県内の市町村の財政の状況その他の事情に応じた財政の調整を行うため、都道府県に対して調整交付金を交付する(72条1項)。
国は、都道府県に対し、一定の額の合算額の100分の32を負担します。また、都道府県に対して調整交付金を交付します。数字を覚えるのは大変だと思うので、まずは大きな流れとして、国は都道府県に対して一定の負担をすること、調整交付金を交付することをおさえておきましょう。
国民健康保険保険給付費等交付金
国民健康保険事業費納付金の徴収及び納付義務
都道府県は、市町村の財政の調整を行うため、市町村に対し、交付金を交付します。また、国民健康保険事業に要する費用に充てるため、市町村から、納付金を徴収します。市町村から納付金を徴収し、市町村に交付金を交付する、かんたんにいうと再分配するイメージを持っておきましょう。
保険料
市町村は、国民健康保険事業に要する費用に充てるため、被保険者の属する世帯の世帯主から保険料を徴収しなければならない。ただし、地方税法の規定により国民健康保険税を課するときは、この限りでない(76条1項)。
組合は、国民健康保険事業に要する費用に充てるため、組合員から保険料を徴収しなければならない(76条2項)。
保険料の徴収の方法
第6章 保健事業
※省略
第6章の2 国民健康保険運営方針等
※省略
第7章 国民健康保険団体連合会
設立、人格及び名称
都道府県若しくは市町村又は組合は、共同してその目的を達成するため、国民健康保険団体連合会を設立することができる(83条1項)。
連合会は、法人とする(83条2項)。
設立の認可等
連合会を設立しようとするときは、都道府県知事の認可を受けなければならない(84条1項)。
業務
都道府県、市町村、組合は、国民健康保険団体連合会を設立することができます。連合会は、療養の給付に要する費用の請求に関する審査や支払いの業務などを行います。
第8章 診療報酬審査委員会
※省略
第9章 審査請求
審査請求
保険給付に関する処分又は保険料その他徴収金に関する処分に不服がある者は、国民健康保険審査会に審査請求をすることができる(91条1項)。
審査請求は、時効の完成猶予及び更新に関しては、裁判上の請求とみなす(91条2項)。
処分に不服がある者は、国民健康保険審査会に審査請求をすることができます。健康保険や国民年金が、社会保険審査官に対して審査請求をすることと比較しておきましょう。
審査会の設置
審査請求と訴訟との関係
他の法律と同じです。
第9章の2 保健事業等に関する援護
※省略
第10章 監督
※省略
第11章 雑則
時効
保険料その他徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、これらを行使することができる時から2年を経過したときは、時効によって消滅する(110条1項)。
保険料その他徴収金の徴収の告知又は督促は、時効の更新の効力を生ずる(110条2項)。
徴収金の徴収や還付を受ける権利等は、これらを行使することができる時から2年を経過したときは、時効によって消滅します。健康保険法と同じように考えることができます。
第12章 罰則