会社法の株式会社から募集設立について学習します。
前回学習した発起設立とどのような部分が異なるのかみていきましょう。
第1章「設立」は、全9節で構成されています。
- 第1節 総則
- 第2節 定款の作成
- 第3節 出資
- 第4節 設立時役員等の選任及び解任
- 第5節 設立時取締役等による調査
- 第6節 設立時代表取締役等の選定等
- 第7節 株式会社の成立
- 第8節 発起人等の責任等
- 第9節 募集による設立
このうち、第1節から第8節は発起設立を中心に進められます。
そして、募集設立については、第9節をさらに区切る形で構成されています。
- 第1款 設立時発行株式を引き受ける者の募集
- 第2款 創立総会等
- 第3款 設立に関する事項の報告
- 第4款 設立時取締役等の選任及び解任
- 第5款 設立時取締役等による調査
- 第6款 定款の変更
- 第7款 設立手続等の特則等
具体的な内容はことあとみていきますが、今の時点では、募集設立は第9節で完結するものではなく、第1節から第8節の発起設立の中に「募集設立の場合はこうする」といったように付随して入っていくイメージを持っておくと理解しやすいと思います。そのため、まずは基本となる発起設立を中心に設立の流れを学習し、そのあと、募集設立について学習する形式をとっています。
それでは、募集設立についてみていきましょう。
目次
第1款 設立時発行株式を引き受ける者の募集
設立時発行株式を引き受ける者の募集
発起人は、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする旨を定めることができる(57条1項)。
発起人は、前項の募集をする旨を定めようとするときは、その全員の同意を得なければならない(同条2項)。
まず、おさらいをすると、株式会社は、①発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける方法(発起設立)、②発起人が設立時発行株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法(募集設立)の2つの方法で設立することができます(25条)。
募集設立は、発起人だけでなく、株式を引き受ける者の募集をするため、より多くの資金を集めることができます。一方、発起人だけで決めることはできず、株式を引き受ける者、つまり金銭を出資した人の意見を聞く必要があります。この違いを意識しながら条文を読み進めましょう。
設立時募集株式に関する事項の決定
発起人は、募集をしようとするときは、その都度、設立時募集株式(募集に応じて設立時発行株式の引受けの申込みをした者に対して割り当てる設立時発行株式をいう。以下この節において同じ。)について次に掲げる事項を定めなければならない(58条1項)。
① 設立時募集株式の数(設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合にあっては、その種類及び種類ごとの数。以下この款において同じ。)
② 設立時募集株式の払込金額(設立時募集株式1株と引換えに払い込む金銭の額をいう。以下この款において同じ。)
③ 設立時募集株式と引換えにする金銭の払込みの期日又はその期間
④ 一定の日までに設立の登記がされない場合において、設立時募集株式の引受けの取消しをすることができることとするときは、その旨及びその一定の日
発起人は、前項各号に掲げる事項を定めようとするときは、その全員の同意を得なければならない(同条2項)。
設立時募集株式の払込金額その他の募集の条件は、当該募集(設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合にあっては、種類及び当該募集)ごとに、均等に定めなければならない(同条3項)。
発起人は、①設立時募集株式の数、②設立時募集株式の払込金額、③設立時募集株式と引換えにする金銭の払込みの期日又はその期間を決めます。
2号で、「払込金額」となっていることからわかるように、現物出資等ができるのは発起人だけで、設立時募集株式の引受人は現物出資等はできません。
設立時募集株式の割当て
発起人は、申込者の中から設立時募集株式の割当てを受ける者を定め、かつ、その者に割り当てる設立時募集株式の数を定めなければならない。この場合において、発起人は、当該申込者に割り当てる設立時募集株式の数を、引き受けようとする設立時募集株式の数よりも減少することができる(60条1項)。
発起人は、期日(同号の期間を定めた場合にあっては、その期間の初日)の前日までに、申込者に対し、当該申込者に割り当てる設立時募集株式の数を通知しなければならない(同条2項)。
設立時募集株式の払込金額の払込み
設立時募集株式の引受人は、期日又は期間内に、発起人が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所において、それぞれの設立時募集株式の払込金額の全額の払込みを行わなければならない(63条1項)。
設立時募集株式の引受人は、払込みをしないときは、当該払込みをすることにより設立時募集株式の株主となる権利を失う(同条3項)。
設立時募集株式の引受人は、期日または期間内に、払込金額の全額の払込みを行います。発起人は、現物出資等もできるので「出資の履行」という言葉が使われているのに対して、設立時募集株式の引受人は、金銭出資の履行のため、「払込み」という言葉が使われます。
発起人の出資の履行の場合、出資の履行をしていない発起人に対して、期日を定め、通知をし、期日までに出資の履行をしないときは、株主となる権利を失う点と比較しましょう(36条)。発起人は、法人の設立を発起する者なので、一度チャンスが与えられますが、設立時募集株式の引受人は発起人と比べると会社との関係性が希薄のため、株主となる権利を当然に失うと考えると理解しやすいと思います。
払込金の保管証明
募集設立では、払込みの事実を確認するために、払込金保管証明書を請求することができます。
第2款 創立総会等
創立総会の招集
募集をする場合には、発起人は、期日又は期間の末日のうち最も遅い日以後、遅滞なく、設立時株主の創立総会を招集しなければならない(65条1項)。
発起人は、前項に規定する場合において、必要があると認めるときは、いつでも、創立総会を招集することができる(同条2項)。
発起設立ともっとも大きな違いのひとつが創立総会です。募集設立では、設立時募集株式を引き受けた人の意見を聞くために創立総会を招集します。
創立総会の権限
創立総会の決議
株主総会の決議方法を学習するとわかりますが、創立総会の決議方法は要件が加重されています。株主総会の決議について学習したあと、改めて要件を確認しましょう。
前項の規定にかかわらず、その発行する全部の株式の内容として譲渡による当該株式の取得について当該株式会社の承認を要する旨の定款の定めを設ける定款の変更を行う場合(設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合を除く。)には、当該定款の変更についての創立総会の決議は、当該創立総会において議決権を行使することができる設立時株主の半数以上であって、当該設立時株主の議決権の3分の2以上に当たる多数をもって行わなければならない(同条2項)。
定款を変更してその発行する全部の株式の内容として取得条項付株式についての定款の定めを設け、又は当該事項についての定款の変更(当該事項についての定款の定めを廃止するものを除く。)をしようとする場合(設立しようとする株式会社が種類株式発行会社である場合を除く。)には、設立時株主全員の同意を得なければならない(同条3項)。
発行する全部の株式の内容として譲渡制限や取得条項の定めを設けるときは、さらに決議要件が加重されます。これは会社成立後の株主総会の決議要件と同様です。今の時点では、概要だけおさえておきましょう。
第3款 設立に関する事項の報告
※省略
第4款 設立時取締役等の選任及び解任
設立時取締役等の選任
機関について学習していない今の時点では、設立時取締役等は、創立総会の決議によって行うという点をおさえておきましょう。募集設立では、設立時株主の意見を聞くことが必要になります。発起設立では、発起人の議決権の過半数で選任したことと比較しましょう。
設立時取締役等の解任
第5款 設立時取締役等による調査
設立時取締役等による調査
設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査役設置会社である場合にあっては、設立時取締役及び設立時監査役。以下この条において同じ。)は、その選任後遅滞なく、次に掲げる事項を調査しなければならない(93条1項)。
① 現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額が相当であること。
② 弁護士等による証明が相当であること。
③ 発起人による出資の履行及び払込みが完了していること。
④ 前3号に掲げる事項のほか、株式会社の設立の手続が法令又は定款に違反していないこと。
設立時取締役は、前項の規定による調査の結果を創立総会に報告しなければならない(同条2項)。
設立時取締役は、現物出資財産等についての事項の調査の結果を創立総会に報告します。発起設立の場合、違反または不当な事項があると認めるとき、発起人にその旨を通知するのと比較しましょう(46条)。募集設立では設立時株主に説明する必要があるため、違反があってもなくても、報告することとされています。
第6款 定款の変更
発起人による定款の変更の禁止
募集設立では、設立時株主の意見を聞くことが必要になります。そのため、払込期日または期間の早い日以後は、発起人だけで定款の変更をすることはできないとされています。
創立総会における定款の変更
創立総会の決議による発行可能株式総数の定め
発行可能株式総数は、定款の絶対的記載事項です。そのため、発行可能株式総数を定款で定めていないときは、株式会社の成立の時、つまり、設立の登記をするまでに、創立総会の決議によって、発行可能株式総数の定めを設けなければなりません。発起設立では、発起人の全員の同意によって決めたことと比較しましょう(37条)。
第7款 設立手続等の特則等
設立手続等の特則
設立時募集株式の引受人は、発起人が定めた時間内は、いつでも、定款の閲覧等の請求をすることができる(102条1項本文)。
設立時募集株式の引受人は、株式会社の成立の時に、払込みを行った設立時発行株式の株主となる(同条2項)。
設立時募集株式の引受人は、払込みを仮装した場合には、支払がされた後でなければ、払込みを仮装した設立時発行株式について、設立時株主及び株主の権利を行使することができない(同条3項)。
前項の設立時発行株式又はその株主となる権利を譲り受けた者は、当該設立時発行株式についての設立時株主及び株主の権利を行使することができる。ただし、その者に悪意又は重大な過失があるときは、この限りでない(同条4項)。
設立時募集株式の引受人は、株式会社の成立後又は創立総会若しくは種類創立総会においてその議決権を行使した後は、錯誤、詐欺又は強迫を理由として設立時発行株式の引受けの取消しをすることができない(同条6項)。
6項について、議決権を行使したということは、認めたと考えることができるため、取消しをすることはできなくなります。このあたりは、民法と同じように考えることができます。
払込みを仮装した設立時募集株式の引受人の責任
設立時募集株式の引受人は、払込みを仮装した場合には、株式会社に対し、払込みを仮装した払込金額の全額の支払をする義務を負う(102条の2第1項)。
前項の規定により設立時募集株式の引受人の負う義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない(同条2項)。
発起人の責任等
募集をした場合における第52条第2項の規定[出資された財産等の価額が不足する場合の責任]の適用については、同項中「次に」とあるのは、「第1号に」とする(103条1項)。
出資された財産等の価額が不足する場合の責任の適用について、発起設立では、①検査役の調査を経た場合、②発起人又は設立時取締役がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は免責されますが、募集設立では、「第1号に」と読み替えるため、①検査役の調査を経た場合のみ免責されます。つまり、無過失責任であるということです。
いきなり読み替えといってもわかりにくいので、52条をみてみましょう。
株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が当該現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額に著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して、当該不足額を支払う義務を負う(52条1項)。
前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、発起人及び設立時取締役は、現物出資財産等について同項の義務を負わない(同条2項)。
① 変態設立事項について検査役の調査を経た場合
② 当該発起人又は設立時取締役がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合
この「次に」とあるのを、「第1号に」と読み替えます。
払込みを仮装した場合には、払込みを仮装することに関与した発起人又は設立時取締役として法務省令で定める者は、株式会社に対し、前条第1項の引受人と連帯して、支払をする義務を負う。ただし、その者(当該払込みを仮装したものを除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない(同条2項)。
発起人又は設立時取締役の負う義務は、総株主の同意がなければ、免除することができない(同条3項)。
設立時募集株式の引受人が払込を仮装した場合について、関与した発起人等は、注意を怠らなかったことを証明した場合は、免責されます。先ほどは、発起人側で出資された財産等の価額が不足する場合の責任は無過失責任だったことと比較しましょう。
募集設立の場合、発起人でなくても、募集の広告等に氏名等と株式会社の設立を賛助する旨を記載等をすることを承諾した者は、発起人とみなします。
まとめ
株式会社の募集設立について見てきました。募集設立を理解するためには、発起人だけで決めることはできず、設立時株主の意見を聞く必要があるということをおさえることが重要です。
ここで、改めて発起設立の構成をみてみましょう。
- 第1節 総則
- 第2節 定款の作成
- 第3節 出資
- 第4節 設立時役員等の選任及び解任
- 第5節 設立時取締役等による調査
- 第6節 設立時代表取締役等の選定等
- 第7節 株式会社の成立
- 第8節 発起人等の責任等
- 第9節 募集による設立
このうち、定款の作成、出資までは発起設立と募集設立は同じです。このあと、募集設立では、設立時発行株式を引き受ける者の募集をして、創立総会を招集し、そこで設立時取締役等を選任し、設立時取締役等が調査をします。つまり、第4節と第5節の部分が異なることがわかります。なお、設立時代表取締役については、設立時取締役が設立時取締役の中から選定します(47条)。
発起人等の責任等については、募集設立も同じです。これに加えて、募集設立では、設立時募集株式の引受人が払込みを仮装する場合、発起人等が払込みを仮装することに関与する場合があるので、それらについて「設立手続等の特則等」で規定しています。
株式会社の設立は、まず、発起設立で設立の全体の流れをおさえる、次に、募集設立はどのような違いがあるのかをおさえると理解しやすくなると思います。