会社法の株式会社から設立について学習します。
第2編「株式会社」は、全9章で構成されています。
- 第1章 設立
- 第2章 株式
- 第3章 新株予約権
- 第4章 機関
- 第5章 計算等
- 第6章 定款の変更
- 第7章 事業の譲渡等
- 第8章 解散
- 第9章 清算
第2編は、株式会社を設立するところから清算するところまで会社の一生の流れがわかります。
第1章「設立」は、全9節で構成されています。
- 第1節 総則
- 第2節 定款の作成
- 第3節 出資
- 第4節 設立時役員等の選任及び解任
- 第5節 設立時取締役等による調査
- 第6節 設立時代表取締役等の選定等
- 第7節 株式会社の成立
- 第8節 発起人等の責任等
- 第9節 募集による設立
今回は、第1節から第8節までをみていきます。
第1節 総則
株式会社は、次に掲げるいずれかの方法により設立することができる(25条)。
① 次節から第8節までに規定するところにより、発起人が設立時発行株式(株式会社の設立に際して発行する株式をいう。以下同じ。)の全部を引き受ける方法
② 次節、第3節、第39条及び第6節から第9節までに規定するところにより、発起人が設立時発行株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法
各発起人は、株式会社の設立に際し、設立時発行株式を1株以上引き受けなければならない(同条2項)。
株式会社は、2つの方法により設立することができます。
1号について、発起人とは、法人の設立を発起する(起こす)者のことをいいます。この発起人が株式会社の設立に際して発行する株式である設立時発行株式の全部を引き受ける方法によって設立することを発起設立といいます。
2号について、発起人が設立時発行株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法によって設立することを募集設立といいます。募集設立は、次節(2節)、第3節、第6節から第9節までの規定するところによります。なお、39条は、「設立しようとする株式会社が取締役会設置会社である場合」について定めた条文です。
今の段階では、細かいことは置いておき、株式会社を設立するには、発起設立と募集設立のふたつがあるという点をおさえておきましょう。そして、条文の基本的な構造は発起設立を中心としており、その一部と第9節を使って、募集設立について規定しています。そのため、今回は、まず基本となる発起設立について学習し、次に、それを応用する形で募集設立について学習することにします。
発起人は、株式会社の設立に際し、設立時発行株式を1株以上引き受けなければなりません。
第2節 定款の作成
定款の作成
株式会社を設立するには、発起人が定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印しなければならない(26条1項)。
前項の定款は、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものとして法務省令で定めるものをいう。以下同じ。)をもって作成することができる。この場合において、当該電磁的記録に記録された情報については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない(26条2項)。
定款とは、法人等の目的、組織、業務執行等に関する根本規則のことをいいます。株式会社を設立するには、発起人が定款を作成し、署名又は記名押印しなければなりません。
定款の記載又は記録事項
① 目的
② 商号
③ 本店の所在地
④ 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
⑤ 発起人の氏名又は名称及び住所
これらの項目を絶対的記載事項といいます。
「記載し、又は記録し」という表現について、定款を書面で作成するときは「記載」、電磁的記録で作成するときは「記録」という言葉が使われます。
発起人の「氏名又は名称」となっているのは、発起人が個人の場合は「氏名」、法人の場合は「名称」になるからです。
株式会社を設立する場合には、次に掲げる事項は、第26条第1項の定款に記載し、又は記録しなければ、その効力を生じない(28条)。
① 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数
② 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称
③ 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称
④ 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)
1号から4号までを変態設立事項といいます。通常とは態様が変わっているという意味です。発起人による目的物の過大評価などによって会社の財産的基礎を危うくし、他の社員や会社債権者を害する危険を避けるため、定款にその記載がなければ効力を生じません。もっとも、4号括弧書きのように、定款の認証の手数料などは会社に損害を与えるおそれがないため、定款に記載しなくても効力を生じます。
法務省令で定めるものをみておきましょう。
① 定款に係る印紙税
② 設立時発行株式と引換えにする金銭の払込みの取扱いをした銀行等に支払うべき手数料及び報酬
③ 検査役の報酬
④ 株式会社の設立の登記の登録免許税
これを任意的記載事項といいます。
定款の認証
第26条第1項の定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じない(30条1項)。
前項の公証人の認証を受けた定款は、株式会社の成立前は、第33条第7項[裁判所による変更の決定]若しくは第9項[変態設立事項の廃止]又は第37条第1項若しくは第2項[発行可能株式総数の定め等]の規定による場合を除き、これを変更することができない(同条2項)。
会社設立にあたって作成した定款は、公証人の認証を受けなければ、その効力を生じません。
公証人とは、当事者その他の関係人の嘱託により法律行為その他私権に関する事実について公正証書を作成し、株式会社等の定款に認証を与える等の権限を有する者です。公証制度がどのようなものか、日本公証人連合会のホームページを一度みておくとイメージしやすくなると思います。
公証人の認証を受けた定款は、一定の場合を除き、変更することができません。もし、変更できてしまうと公証人の認証を受ける趣旨を没却してしまうからです。一定の事項については、条文を読み進める中で確認していきましょう。
定款の備置き及び閲覧等
発起人(株式会社の成立後にあっては、当該株式会社)は、定款を発起人が定めた場所(株式会社の成立後にあっては、その本店及び支店)に備え置かなければならない(31条1項)。
発起人(株式会社の成立後にあっては、その株主及び債権者)は、発起人が定めた時間(株式会社の成立後にあっては、その営業時間)内は、いつでも、閲覧の請求等をすることができる(同条2項本文)。
第3節 出資
設立時発行株式に関する事項の決定
発起人は、株式会社の設立に際して次に掲げる事項(定款に定めがある事項を除く。)を定めようとするときは、その全員の同意を得なければならない(32条1項)。
① 発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数
② 設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額
③ 成立後の株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項
設立において、①発起人が割当てを受ける設立時発行株式の数、②設立時発行株式と引換えに払い込む金銭の額、③株式会社の資本金及び資本準備金の額に関する事項については、発起人全員の同意を得なければなりません。
定款の記載又は記録事項に関する検査役の選任
発起人は、定款に変態設立事項についての記載又は記録があるときは、公証人の認証の後遅滞なく、当該事項を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをしなければならない(33条1項)。
前項の申立てがあった場合には、裁判所は、これを不適法として却下する場合を除き、検査役を選任しなければならない(同条2項)。
検査役は、必要な調査を行い、当該調査の結果を記載し、又は記録した書面又は電磁的記録を裁判所に提供して報告をしなければならない(同条4項)。
裁判所は、報告を受けた場合において、変態設立事項(検査役の調査を経ていないものを除く。)を不当と認めたときは、これを変更する決定をしなければならない(同条7項)。
発起人は、変態設立事項の全部又は一部が変更された場合には、当該決定の確定後1週間以内に限り、その設立時発行株式の引受けに係る意思表示を取り消すことができる(同条8項)。
前項に規定する場合には、発起人は、その全員の同意によって、決定の確定後1週間以内に限り、当該決定により変更された事項についての定めを廃止する定款の変更をすることができる(同条9項)。
定款に変態設立事項についての記載又は記録があるときは、検査役の検査を受けなければなりません。もっとも、以下、例外として検査を受けなくても良い場合が規定されています。
前各項の規定は、次の各号に掲げる場合には、適用しない(同条10項)。
① 現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額の総額が500万円を超えない場合
② 現物出資財産等のうち、市場価格のある有価証券について定款に記載され、又は記録された価額が当該有価証券の市場価格を超えない場合
③ 現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額が相当であることについて弁護士、弁護士法人、弁護士・外国法事務弁護士共同法人、公認会計士、監査法人、税理士又は税理士法人(現物出資財産等が不動産である場合にあっては、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価。)の証明を受けた場合
これらの場合、成立後の会社に損害を与える可能性が低いため、検査役の検査が不要とされています。
出資の履行
発起人は、設立時発行株式の引受け後遅滞なく、その引き受けた設立時発行株式につき、その出資に係る金銭の全額を払い込み、又はその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付しなければならない。ただし、発起人全員の同意があるときは、登記、登録その他権利の設定又は移転を第三者に対抗するために必要な行為は、株式会社の成立後にすることを妨げない(34条1項)。
払込みは、発起人が定めた銀行等の払込みの取扱いの場所においてしなければならない(同条2項)。
発起人は、出資に係る金銭の全額の払い込み等をします。
設立時発行株式の株主となる権利の喪失
発起人のうち出資の履行をしていないものがある場合には、発起人は、当該出資の履行をしていない発起人に対して、期日を定め、その期日までに当該出資の履行をしなければならない旨を通知しなければならない(36条1項)。
通知は、期日の2週間前までにしなければならない(同条2項)。
通知を受けた発起人は、期日までに出資の履行をしないときは、当該出資の履行をすることにより設立時発行株式の株主となる権利を失う(同条3項)。
発起人のうち出資の履行をしていない場合、その発起人に対して、期日を定め、通知をし、期日までに出資の履行をしないときは、株主となる権利を失います。
発行可能株式総数の定め等
発起人は、株式会社が発行することができる株式の総数(以下「発行可能株式総数」という。)を定款で定めていない場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、定款を変更して発行可能株式総数の定めを設けなければならない(37条1項)。
発起人は、発行可能株式総数を定款で定めている場合には、株式会社の成立の時までに、その全員の同意によって、発行可能株式総数についての定款の変更をすることができる(同条2項)。
設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の4分の1を下ることができない。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は、この限りでない(同条3項)。
発起人は、株式会社の成立の時までに、発起人の全員の同意によって、発行可能株式総数を定めることができます。
3項について、既存株主の持株比率が大幅に低下してしまうことを防ぐために、設立時発行株式の総数は、発行可能株式総数の4分の1を下ることができないとされています。たとえば、1万株まで発行できる会社の場合、最低でも2500株は発行しないといけないということです。ただし、設立しようとする株式会社が公開会社でない場合は、株主に大きな変動がないため、この限りでないとされています。公開会社や非公開会社については、改めて学習します。
第4節 設立時役員等の選任及び解任
設立時役員等の選任
発起人は、出資の履行が完了した後、遅滞なく、設立時取締役を選任します。このとき、必要があれば設立時監査役等も選任することになりますが、機関については、改めて学習します。
設立時役員等の選任の方法
設立時役員等の解任
設立時役員等の解任の方法
選任と解任の要件については、会社成立後と同様です。詳しいことは機関のところで学習します。
第5節 設立時取締役等による調査
設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査役設置会社である場合にあっては、設立時取締役及び設立時監査役。以下この条において同じ。)は、その選任後遅滞なく、次に掲げる事項を調査しなければならない(46条1項)。
① 現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額が相当であること。
② 弁護士等の証明が相当であること。
③ 出資の履行が完了していること。
④ 株式会社の設立の手続が法令又は定款に違反していないこと。
設立時取締役は、調査により、法令若しくは定款に違反し、又は不当な事項があると認めるときは、発起人にその旨を通知しなければならない(同条2項)。
設立時取締役は、現物出資財産等について調査をし、違反または不当な事項があると認めるときは、発起人にその旨を通知します。
第6節 設立時代表取締役等の選定等
設立時代表取締役の選定等
設立時取締役は、設立しようとする株式会社が取締役会設置会社(指名委員会等設置会社を除く。)である場合には、設立時取締役(設立しようとする株式会社が監査等委員会設置会社である場合にあっては、設立時監査等委員である設立時取締役を除く。)の中から株式会社の設立に際して代表取締役(株式会社を代表する取締役をいう。以下同じ。)となる者(以下「設立時代表取締役」という。)を選定しなければならない(47条1項)。
設立時取締役は、株式会社の成立の時までの間、設立時代表取締役を解職することができる(同条2項)。
設立時代表取締役の選定及び解職は、設立時取締役の過半数をもって決定する(同条3項)。
取締役会設置会社の場合、設立時代表取締役を選定します。機関について詳しいことは、機関のところで学習しましょう。
第7節 株式会社の成立
株式会社の成立
株式の引受人の権利
ここまでで株式会社が成立します。
第8節 発起人等の責任等
出資された財産等の価額が不足する場合の責任
株式会社の成立の時における現物出資財産等の価額が当該現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額に著しく不足するときは、発起人及び設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して、当該不足額を支払う義務を負う(52条1項)。
前項の規定にかかわらず、次に掲げる場合には、発起人及び設立時取締役は、現物出資財産等について同項の義務を負わない(同条2項)。
① 変態設立事項について検査役の調査を経た場合
② 当該発起人又は設立時取締役がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合
第1項に規定する場合には、証明者は、第1項の義務を負う者と連帯して、同項の不足額を支払う義務を負う。ただし、当該証明者が当該証明をするについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない(同条3項)。
現物出資財産等の価額が著しく不足するときは、発起人と設立時取締役は、連帯して、不足額を支払う義務を負います。もっとも、検査役の調査を経た場合、注意を怠らなかったことを証明した場合は、免責されます。
出資の履行を仮装した場合の責任等
発起人は、次の各号に掲げる場合には、株式会社に対し、当該各号に定める行為をする義務を負う(52条の2第1項)。
① 払込みを仮装した場合 払込みを仮装した出資に係る金銭の全額の支払
② 給付を仮装した場合 給付を仮装した出資に係る金銭以外の財産の全部の給付
前項各号に掲げる場合には、発起人がその出資の履行を仮装することに関与した発起人又は設立時取締役として法務省令で定める者は、株式会社に対し、当該各号に規定する支払をする義務を負う。ただし、その者(当該出資の履行を仮装したものを除く。)がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、この限りでない(同条2項)。
発起人が第1項各号に規定する支払をする義務を負う場合において、前項に規定する者が同項の義務を負うときは、これらの者は、連帯債務者とする(同条3項)。
発起人は、出資の履行を仮装した場合、全額の支払や給付をする義務を負います。
また、仮装することに関与した発起人または設立時取締役も、同様の義務を負います。もっとも、関与した者は、その職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、免責されます。括弧書きにあるように、仮装したものは免責されない点に注意しましょう。
発起人等の損害賠償責任
発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、株式会社の設立についてその任務を怠ったときは、当該株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(53条1項)。
発起人、設立時取締役又は設立時監査役がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う(同条2項)。
発起人等の連帯責任
責任の免除
これらは、反対にいうと、会社の所有者である総株主の同意があれば、責任を免除することができるということです。そして、大切なのは、第三者に生じた損害を賠償する責任は免除されないという点です。
株式会社不成立の場合の責任
株主会社が成立しなかったときは、発起人が責任を負います。
まとめ
会社の発起設立について見てきました。一度で覚えられる人はいないので、まずは、大きな流れである定款の作成→出資→設立時役員の選任→設立時取締役による調査→株式会社の成立をおさえましょう。これらは条文の節の構成と同じです。次に、各節の中で、変態設立事項や検査役の調査などの流れをおさえていきましょう。このとき、原則はどうなっているか、そして例外がどのようになっているのか、なぜ、例外が規定されているのかを考えると、暗記をする量が少なくなります。