民法における無権代理についてまとめています。無権代理は、代理権がないので、原則として無効です。ただ、法的安定の面から、一定の場合には効力が生じるなどの調整されています。無権代理の場面において、本人や相手方はどのようなことができるのか、条文をおさえていきましょう。
※無権代理と相続については、別途コンテンツを制作します。
無権代理人
代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない(113条1項)。
追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない(113条2項)。
無権代理は、代理権がないにもかかわらず、代理行為をすることをいいます。
代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じません。本人にとって、自分が関係していないところで契約がされているので、本人に対して効力を生じないということです。反対に言うと、本人が「わかりました、いいですよ」と追認をすれば、本人に対して効力を生じます。
追認または拒絶は、相手方にしなければ、相手方に対抗することができません。無権代理がされた場合、中には無権代理があるようなところとは関わりたくないと考える人もいます。そのため、追認等は、相手方に対してしなければ、相手方に対抗することはできないとされています。ただし、相手方が追認等を知ったときは、この限りでない、つまり対抗できるということです。
無権代理の相手方の催告権
無権代理の場合、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、追認をするかどうか催告をすることができます。この場合において、本人が期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなします。本人にとっては、自分の知らないところで契約されているのですから、返事をしなくても当然と考えることができます。結論を迷ってしまうときは、どちらが合理的か考えてみましょう。
無権代理の相手方の取消権
このあたりから利益衡量が出てきます。まず、無権代理による契約は、本人が追認をしない間は、相手方は取り消すことができます。相手方にとったら、無権代理が起きるようなところとは関わりたくないと考えることができます。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない、つまり取り消すことができないということです。
契約の取消しは、無権代理があるようなところと関わりたくないと考える相手方を保護するためのものでした。このことから、契約の時点で無権代理であるということを知っていた相手方を保護する必要はないので、契約の時に無権代理であることを相手方が知っていたときは、取消しができないようになっています。
無権代理行為の追認
追認をすると、契約の時にさかのぼって効力を生じます。仮に、今から契約の効力が生じるとなるなら、本人が新たに契約をすればよくなり、追認の意味がなくなってしまうからです。ただし、これによって、第三者の権利を害することはできません。
無権代理人の責任
他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う(117条1項)。
前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない(117条2項)。
① 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
② 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
③ 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。
無権代理人の責任は、無権代理の山場となります。ひとつずつ整理しましょう。
無権代理をした者は、代理権があることを証明したとき、または本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、履行または損害賠償の責任を負います。これが原則です。
ただ、責任を負わなくてもよい場合が、2項に規定されています。
1号について、代理権を有しないことを相手方が知っていたとき、相手方も無権代理であることを知って契約しているので、相手方を保護する必要はないからです。
2号について、相手方が過失によって知らなかったとき、ちょっと調べればわかるのにそれをしなかったなど、相手方に過失があるときも相手方を保護する必要性は低くなります。ただし、悪意のときよりは帰責性が低くなるので、無権代理をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない、つまり相手方は責任を問えるということです。ここでは、無権代理をした者と相手方との利益がち密に衡量されていることがわかります。
3号について、 無権代理をした者が行為能力の制限を受けていたとき、制限行為能力者を保護する必要性が高いため、相手方は責任を問うことはできないとされています。
117項2項、特に2号については、無権代理の山場であり、各資格試験において頻出なので、もう一度整理しましょう。
まず、無権代理をした者は、責任を負うのが原則です。そして、2項では、責任を負わない場合が規定されています。1号は、相手方が悪意であったときです。相手方を保護する必要はないので、相手方は無権代理の責任を問うことはできません。2号は、相手方が善意有過失であったときです。相手方を保護する必要性は低いですが、無権代理をした者が、自己に代理権がないことを知っていたときは、相手方は責任を問うことができます。3号の、制限行為能力者の場合はわかりやすいと思います。
まとめ
無権代理は、本人ができること、相手方ができることをおさえましょう。
- 本人ができること :追認(113条)
- 相手方ができること:催告(114条)、取消(115条)、責任追及(117条)
そして、責任追及については、無権代理の責任追及の山場になるので、整理しておきましょう。
善意 | 悪意 | |
催告権 | ◯ | ◯ |
取消権 | ◯ | – |
責任追及 | ◯ (※有過失△) |
– |
※原則責任追及できない。ただし、無権代理人が自己に代理権がないことを知っているときは、責任追及することができる。