会社設立時における発起人等の責任等についてまとめています。表などで丸暗記しようとするのではなく、「なぜ責任を負うのか?」を考えて理解すると、記憶が定着しやすくなります。
何かをやった本人は責任を負う、関与した人は責任を負うけれど、注意を怠らなかったことを証明したときは責任を負わない、総株主が同意したら免除される、第三者への責任は免除できないが基本です。
現物出資財産等の責任
株式会社設立時における現物出資や財産引受けの価額が、定款に記載されている価額に著しく不足するときは、発起人と設立時取締役は、会社に対して連帯して、不足額を支払う義務を負います(会社法52条1項)。
まず、現物出資者または財産引受けをした発起人は無過失で責任を負います(52条1項かっこ書)。設立時取締役の名前がないのは、現物出資や財産引受けができるのが発起人のみだからです。
次に、関与した人は、①検査役の調査を経た場合、②発起設立において、発起人と設立時取締役が職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、責任を負いません(52条2項、103条1項)。募集設立が無過失責任であることに注意が必要です(←ここが山場です)。
また、価額が相当であることについて証明した弁護士等の証明者は、連帯して不足額を支払う義務を負います(52条3項本文)。ただし、証明をするについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、責任を負いません(52条3項但書)。証明者が責任を負うのは、この場面のみです。
まとめると、次のようになります。条文では、「現物出資者または財産引受けをした人」と書かれていますが、ここでは理解しやすさを考慮して「本人」、「関与した人」としています。もっとも、最終的には条文での表現に慣れておきましょう。
発起設立 | 募集設立 | |
本人 | 責任を負う | 責任を負う |
関与した人 | 【原則】 責任を負う 【例外】 検査役 注意を怠らなかった〜 |
【原則】 責任を負う 【例外】 検査役 |
証明者 | 【原則】 責任を負う 【例外】 注意を怠らなかった〜 |
【原則】 責任を負う 【例外】 注意を怠らなかった〜 |
出資の履行を仮装した場合の責任
払込みや現物出資の給付を仮装した発起人、設立時募集株式の引受人は、払込み金額の全額、現物出資財産の全部の給付をする義務を負います(52条の2第1項各号、102条の2第1項)。
出資の履行を仮装することに関与した発起人、設立時取締役は、会社に対して、連帯して支払いをする義務を負います(52条の2第2項本文、3項、103条2項本文)。ただし、職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合は、責任を免れます(52条の2第2項但書、103条2項但書)。
発起設立と募集設立共通しているので、理解しやすいと思います。先ほどとは異なり、検査役は登場しないので、どちらに検査役がいるのか迷ってしまうときは、「検査役は、価額を調査するために裁判所から選任される人」ということを理解すると記憶しやすいと思います。
まとめると、次のようになります。
発起設立 | 募集設立 | |
本人 | 責任を負う | 責任を負う |
関与した人 | 【原則】 責任を負う 【例外】 注意を怠らなかった〜 |
【原則】 責任を負う 【例外】 注意を怠らなかった〜 |
任務懈怠責任
発起人・設立時取締役・設立時監査役は、株式会社の設立について任務を怠ったときは、会社に対し、連帯して、損害賠償責任を負います(53条1項、54条)。
発起人・設立時取締役・設立時監査役は、その職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、第三者に生じた損害賠償責任を連帯して負います(53条2項、54条)。
設立時監査役が責任を負うのは、任務懈怠責任の場面のみです。
会社不成立の場合の責任
株式会社が成立しなかったときは、発起人は、連帯して、会社の設立に関して責任を負い、会社の設立に関して支出した費用を負担します(56条)。
会社を設立しようとしたのは発起人なので、発起人が責任を負います。
責任の免除
発起人・設立時取締役・設立時監査役の責任のうち、会社に対する責任は、総株主の同意があれば、免除することができます(55条)。会社は株主(出資した人)のものです。その株主の全員が「いいよ」と言っているのなら、責任を免除できるということです。もっと噛み砕いて言うと、子どもが悪いことをしても、親が「いいよ」と言ったのなら、許してもらえるということです。
ただし、第三者への責任となると話は別です。株主全員が許してくれるといっていても、被害にあったのは第三者です。仮に第三者が許してくれたら話は別ですが、子どもが第三者をいじめた場合、親が許してくれたからといって、第三者が許したことにはならないのと同じです。
責任の免除についてまとめると、
- 現物出資財産等の責任
- 出資の履行を仮装した場合の責任
- 任務懈怠責任(会社に対するもの)
について、総株主の同意があれば、責任が免除されます。
まとめ
最後に、会社設立時における責任について、登場人物ごとにまとめておきます。
- 発起人はすべてのことに責任を負う
- 設立時取締役は「会社の不成立の場合」以外責任を負う
- 設立時監査役は「任務懈怠責任」のみ責任を負う
- 証明者は「証明をした場合」のみ責任を負う