【会社法】役員等の損害賠償責任・免除・責任限定契約などまとめ

商法・会社法
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会社法における役員等の損害賠償責任について整理します。①取締役などの役員等は任務懈怠があったときは損害賠償責任を負う、②競業取引や利益相反取引ではどのようなことが推定されるか、③損害賠償責任はどうすると免除されるかをおさえると理解しやすいと思います。



役員等の株式会社に対する損害賠償責任(423条)

役員等の株式会社に対する損害賠償責任(423条)

取締役、会計参与、監査役、執行役、会計監査人(役員等)は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負います(423条1項)。また、複数の役員等が損害を賠償する責任を負う場合は、連帯債務者となります(430条)。

まずは、423条がスタートになります。だけれど、損害賠償責任では訴える側がすべてを立証するのは大変なので、競業取引や利益相反取引では一定のことが推定される(訴えられた側に立証責任がある)ようになっています。その上で、次にどのようなとき免除されるかを見ていきましょう。

競業取引に関する特則

取締役または執行役が会社の承認を得ないで競業取引をしたときは、当該取引によって取締役、執行役または第三者が得た利益の額は、損害の額と推定されます(423条2項)。

利益相反取引に関する特則

利益相反取引によって会社に損害が生じたときは、次に掲げる取締役または執行役は、その任務を怠ったものと推定されます(423条3項)。

  1. 取引をした取締役または執行役
  2. 当該取引をすることを決定した取締役または執行役
  3. 当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役

監査等委員会の承認を受けたときは、任務懈怠は推定されません(423条4項)。監査等委員会設置会社では、監査等委員である取締役による監査があったことが重視されるためです。

気をつけなければいけないのは、利益相反取引で任務を怠ったものと推定されるのは、利益相反取引の承認(356条2項、3項)を受けていた場合も含むということです。承認を受けていなければその時点で任務懈怠があり、承認を受けていても損害が生じたら任務懈怠が推定されるということです。

利益相反取引は、「直接取引」と「間接取引」に分けられます。直接取引は会社と直接取締役・執行役が取引をするものです。間接取引は会社と第三者(取締役・執行役が代表)が取引をするものです。たとえば、A社(取締役aがいる)とB社(取締役aが代表)のような取引です。

直接取引の場合、取締役・執行役の責任は無過失責任となります(428条)。つまり、取締役・執行役の責めに帰することができない事由によるものであっても免れることができないということです。もう少しわかりやすくいうと、自己のために取引をした人は責任を負うということです。

競業取引と利益相反取引の試験対策

各種試験では、競業取引と利益相反取引の推定で引っ掛けてくることが多くあります。

競業取引 利益相反取引
損害の額 推定される
任務懈怠 推定される

逆にならないように押さえておきましょう。競業取引では損害の額を立証することが難しいため、損害の額が推定されるということを覚えておくと理解しやすいと思います。

総株主の同意による免除(424条)

総株主の同意による免除(424条)

役員等の会社に対する任務懈怠責任は、総株主の同意があれば、免除することができます(424条)。

会社の持ち主である株主全員が許してくれるなら免除されるということです。ただし、あくまでこれは「会社」に対する任務懈怠責任です。「第三者」に対する任務懈怠責任は、株主全員が許してくれても免除されるわけではありません(後述)。

株主総会決議による一部免除(425条)

株主総会決議による一部免除(425条)

株主総会の特別決議(309条2項8号)によって、任務を行うにあたって善意無重過失の役員等の責任を一部免除することができます(425条)。

「免除」と「一部免除」は、成立しやすさを考えると理解しやすいと思います。

  • 総株主の同意:免除
  • 株主総会の特別決議:一部免除

また、監査役設置会社・監査等委員会設置会社・指名委員会等設置会社においては、取締役は、責任の一部免除に関する議案を株主総会に提出するには、それぞれ監査役全員の同意、監査等委員全員の同意、監査委員全員の同意を得る必要があります(425条3項)。

なお、直接取引をした取締役・執行役は株主総会決議による一部免除は適用されません(428条)。

取締役会等による一部免除(426条)

取締役会等による一部免除(426条)

次の場合、取締役の過半数の同意(取締役会設置会社は取締役会決議)によって、任務を行うにあたって善意無重過失の役員等の責任を一部免除することができます(426条)。

  1. 取締役が2人以上ある監査役設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社であること
  2. 役員等の責任を一部免除することができる旨の定款の定めがあること
  3. (責任を負う取締役を除く)取締役の過半数の同意(取締役会設置会社は取締役会決議)があること
  4. 総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主が異議を述べなかったこと

定款の定めを設ける場合、それぞれ監査役全員の同意、監査等委員全員の同意、監査委員全員の同意を得る必要があります(426条2項)。

株主総会の特別決議ではなく取締役(取締役会設置会社では取締役会)によって責任の一部が免除できるため(言ってみれば、会社の経営陣だけで責任の一部免除ができる)、株主総会のものより要件が厳しくなっているのがわかります。

なお、直接取引をした取締役・執行役は取締役等による一部免除は適用されません(428条)。

責任限定契約(427条)

責任限定契約(427条)

会社は、非業務執行取締役、会計参与、監査役、会計監査人(非業務執行取締役等)の責任について、当該非業務執行取締役等が職務を行うにつき善意無重過失のときは、定款で定めた額の範囲内であらかじめ株式会社が定めた額と最低責任限度額とのいずれか高い額を限度とする旨の契約を非業務執行取締役等と締結することができる旨を定款で定めることができます(427条)。

これまでの免除(総株主の同意)や一部免除(株主総会の特別決議、取締役の過半数)は事後的なもののため、実際に免除や一部免除がされるかが不確定なところがあります。そこで、非業務執行取締役等とあらかじめ責任を限定する契約(責任限定契約)を結ぶことができるようになっています。

定款の定めを設ける決議株主総会に提出するときは、それぞれ監査役・監査等委員・監査委員の全員の同意を得る必要があります(427条3項、425条3項)。

なお、直接取引をした取締役・執行役は責任限定契約による一部免除は適用されません(428条)。

役員等の第三者に対する損害賠償責任(429条)

役員等の第三者に対する損害賠償責任(429条)

役員等がその職務を行うについて悪意または重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います(429条1項)。

  • 423条:会社に対する損害賠償責任
  • 429条:第三者に対する損害賠償責任

会社に対する損害賠償責任とは異なり、総株主の同意による免除等はありません。損害を被ったのは「会社」ではなく「第三者」だからです。

余談:427条(責任限定契約)の次が429条(第三者に対する損害賠償責任)になっていて、「428条は?」と感じる方もいるかもしれません。428条は、度々登場している「直接取引をした取締役・執行役は無過失責任」という条文です。条文の流れを意識すると体系的な学習になって捗りますが、条文が抜けているのが気になる方のために追記しておきました。

まとめ

役員等に任務懈怠があった場合、会社に対する損害賠償責任を負います(423条)。

ここを始点として、それぞれ免除の規定を押さえていきましょう。

  • 総株主の同意:免除(424条)
  • 株主総会決議:一部免除(425条)
  • 取締役会等:一部免除(426条)
  • 責任限定契約:一部免除(427条)
SOMEYA, M.

SOMEYA, M.

東京都生まれ。沖縄県在住。主に行政書士試験対策について発信しているブログです。【好き】沖縄料理・ちゅらさん・Cocco・龍が如く3

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