ここでは、会社法の株式会社から発起設立について学習します。
まず、株式会社の設立が規定されているのは、第2編の「株式会社」です。
- 第1編 総則
- 第2編 株式会社
- 第3編 持分会社
- 第4編 社債
- 第5編 組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転、株式交付
- 第6編 外国会社
- 第7編 雑則
- 第8編 罰則
次に、「株式会社」の中を見てみましょう。
- 第1章 設立
- 第2章 株式
- 第3章 新株予約権
- 第4章 機関
- 第5章 計算等
- 第6章 定款の変更
- 第7章 事業の譲渡等
- 第8章 解散
- 第9章 清算
設立が規定されているのは、第1章の「設立」です。こうして見ると、会社ができるところから清算するまでが体系的に作られているのがわかります。
さらに、「設立」の中を見てみましょう。いよいよ手続の流れが見えてきます。
- 第1節 総則
- 第2節 定款の作成
- 第3節 出資
- 第4節 設立時役員等の選任及び解任
- 第5節 設立時取締役等による調査
- 第6節 設立時代表取締役等の選定等
- 第7節 株式会社の成立
- 第8節 発起人等の責任等
- 第9節 募集による設立
本試験対策でいうと、設立について大まかな流れが理解できているかが問われます。
目次
第1節 総則
① 発起人が設立時発行株式(株式会社の設立に際して発行する株式をいう。以下同じ。)の全部を引き受ける方法
② 発起人が設立時発行株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法
株式会社は、2つの方法によって設立することができます。発起人が設立時発行株式の全部を引き受ける方法を発起設立といいます。そして、発起人が設立時発行株式を引き受けるほか、設立時発行株式を引き受ける者の募集をする方法を募集設立といいます。
発起人(ほっきにん)とは、会社の設立を企画して、定款に署名した者のことをいいます。かんたんにいうと、「会社をつくろう!」という言い出しっぺの人です。
基本書の多くは、発起設立と募集設立が同時に書かれています。たしかに、一通り学習ができたあとは、両者をまとめて学習することは効率が良いと思えますが、初学の段階でこれらを同時に進めると、今何をやっているのか混乱しやすくなります。たとえば、民法の担保権を学習するのに、いきなり抵当権と質権などを並行して学習することはしないと思います。担保権の総論を学んだあとは、各担保権について学習し、そのあとで比較をしてきたと思います。
また、条文も、第1節から第8節において発起設立や両方に共通することについて規定しており、第9節で募集設立について規定しています。そこで、まずは発起設立で設立の大まかな流れを学習しましょう。次に、募集設立は発起設立とどのような部分が異なるのかを意識しながら学習しましょう。
発起人は、1株以上を引き受けなければなりません。自ら「会社を作ろう」と言ったのに、自分が出資しないのは認められないということです。
第2節 定款の作成
定款の作成
株式会社を設立するには、発起人が定款を作成し、その全員がこれに署名し、又は記名押印しなければならない(26条1項)。
前項の定款は、電磁的記録をもって作成することができる(同条2項)。
定款(ていかん)とは、会社の組織・活動について定めた根本規則です。その会社にとっての法のようなものだと考えるとわかりやすいと思います。
定款の記載又は記録事項
① 目的
② 商号
③ 本店の所在地
④ 設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
⑤ 発起人の氏名又は名称及び住所
これらは、必ず記載し、又は記録しなければならないことから、絶対的記載事項といいます。
条文の記載が「記載し、又は記録」となっているのは、定款を書面で作成する場合は記載、電磁的記録(パソコンなど)で作成する場合は記録するからです。
また、会社の設立に際し作成する定款を原始定款といいます。
① 金銭以外の財産を出資する者の氏名又は名称、当該財産及びその価額並びにその者に対して割り当てる設立時発行株式の数
② 株式会社の成立後に譲り受けることを約した財産及びその価額並びにその譲渡人の氏名又は名称
③ 株式会社の成立により発起人が受ける報酬その他の特別の利益及びその発起人の氏名又は名称
④ 株式会社の負担する設立に関する費用(定款の認証の手数料その他株式会社に損害を与えるおそれがないものとして法務省令で定めるものを除く。)
これらの事項は、定款に記載しなくても定款自体の効力は有効ですが、定めがなければ、その効力が生じません。これを相対的記載事項といいます。
相対的記載事項のうち、1号から4号にある①現物出資、②財産引受け、③発起人の報酬等、④設立費用を変態設立事項といいます。態様が変わっているものという意味です。これらは、会社の財産を損なう危険性があるため、定款に記載しなければ効力を生じないとしています。少し細かいですが、設立費用に関しては、定款の認証手数料など決まっていて不正が起きないものに関しては記載不要とされています。
これを任意的記載事項といいます。定款にあってもなくてもいいということです。もっとも、定款に記載すると、その事項について変更をするときに、定款変更の手続が必要になります。
試験対策としては、絶対的記載事項をおさえ、次に相対的記載事項として変態設立事項の4つをおさえるようにしましょう。そして、それ以外が任意的記載事項となります。
本試験では、何が絶対的記載事項なのかなどが問われます。
株式会社の定款には、設立に際して出資される財産の価額またはその最低額を記載または記録しなければならない。
令元-問37-ア
正誤:◯
定款の認証
公証人(日本公証人連合会のWebサイトにリンクします)とは、遺言などの公正証書の作成、会社の定款の認証など、公証業務を行う公的機関です。この公証人の認証を受けると、定款の効力が生じます。
なお、公証人の認証を受けなければならないのは、原始定款です。会社成立前は、定款が正しく作られているか判断することができないからです。なお、会社成立後は、株主総会の特別決議によって定款を変更することができます。
ここまでで、会社を設立するには、定款を作って、公証人の認証を受けることがわかりました。
第3節 出資
定款の記載又は記録事項に関する検査役の選任
発起人は、変態設立事項があるときは、その内容が適正か、検査役の選任の申立てをします。
① 現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額の総額が500万円を超えない場合
② 現物出資財産等のうち、市場価格のある有価証券について定款に記載され、又は記録された価額が当該有価証券の市場価格を超えない場合
③ 現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額が相当であることについて弁護士等の証明(現物出資財産等が不動産である場合にあっては、当該証明及び不動産鑑定士の鑑定評価。)を受けた場合
変態設立事項があるときは、原則として、検査役による検査が必要です。もっとも、①現物出資財産等の総額が500万円を超えない場合、②有価証券の価額が市場価格を超えない場合、③弁護士等の証明がある場合は、影響が小さく、または内容が正しいことについて担保されるため、検査役の選任は不要とされています。
出資の履行
設立時発行株式の株主となる権利の喪失
発起人のうち出資の履行をしていないものがある場合には、発起人は、当該出資の履行をしていない発起人に対して、期日を定め、その期日までに当該出資の履行をしなければならない旨を通知しなければならない(36条1項)。
通知は、同項に規定する期日の2週間前までにしなければならない(同条2項)。
通知を受けた発起人は、期日までに出資の履行をしないときは、当該出資の履行をすることにより設立時発行株式の株主となる権利を失う(同条3項)。
発起人のうち出資の履行をしていないものがある場合、期日を通知をして、期日までに出資の履行をしないときは、株主となる権利を失います。
第4節 設立時役員等の選任及び解任
設立時役員等の選任
設立時役員等の選任の方法
設立時役員等の解任
設立時役員等の解任の方法
発起人は、設立時取締役等の選任や解任をします。「等」となっているのは、他に設立時監査役なども選任することがあるからです。もっとも、それらについては省略します。
第5節 設立時取締役等による調査
設立時取締役は、その選任後遅滞なく、次に掲げる事項を調査しなければならない(46条1項)。
① 現物出資財産等について定款に記載され、又は記録された価額が相当であること。
② 弁護士等の証明が相当であること。
③ 出資の履行が完了していること。
④ 前3号に掲げる事項のほか、株式会社の設立の手続が法令又は定款に違反していないこと。
設立時取締役は、現物出資財産等について、調査をします。
設立時取締役は、調査により、法令若しくは定款に違反し、又は不当な事項があると認めるときは、発起人にその旨を通知しなければならない(同条2項)。
第6節 設立時代表取締役等の選定等
※省略
第7節 株式会社の成立
株式会社の成立
株式の引受人の権利
本試験では、どのタイミングで株主になるかが問われます。
発起人は、その引き受けた設立時発行株式について、その出資に係る金銭の全額を払い込み、またはその出資に係る金銭以外の財産の全部を給付した時に、設立時発行株式の株主となる。
(平29-問37-3)
正誤:✕
第8節 発起人等の責任等
出資された財産等の価額が不足する場合の責任
出資された現物出資財産等の価額が不足する場合、発起人と設立時取締役は、不足額を支払う義務を負います。
① 検査役の調査を経た場合
② 当該発起人又は設立時取締役がその職務を行うについて注意を怠らなかったことを証明した場合
出資された財産等の価額が不足する場合であっても、検査役の調査を経た場合、注意を怠らなかったことを証明した場合は、義務を負いません。括弧書きにあるように、実際に財産を給付した者は帰責性が高いため、除かれています。
証明をした弁護士等も、原則として不足額を支払う義務を負います。ただし、注意を怠らなかったことを証明した場合は、義務を免れます。
出資の履行を仮装した場合の責任等
① 払込みを仮装した場合 払込みを仮装した出資に係る金銭の全額の支払
② 給付を仮装した場合 給付を仮装した出資に係る金銭以外の財産の全部の給付
出資の履行を仮装した場合、全額の支払等の義務を負います。1号は金銭、2号は現物出資になっているだけで本質的な部分はどちらも同じです。
出資の履行を仮装することに関与した発起人又は設立時取締役として法務省令で定める者も、義務を負います。ただし、注意を怠らなかったことを証明した場合は、義務を免れます。ここも括弧書きにあるように、仮装した本人は帰責性が高いため除かれています。
発起人等の損害賠償責任
発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、株式会社の設立についてその任務を怠ったときは、当該株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う(53条1項)。
発起人、設立時取締役又は設立時監査役がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該発起人、設立時取締役又は設立時監査役は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う(同条2項)。
発起人等は、任務懈怠により生じた損害を賠償する損害を負います。
責任の免除
反対にいうと、総株主の同意があれば、責任を免除することができます。もっとも、53条は1項のみの責任です。2項の第三者に対して損害を生じたときは、株主が同意しても損害を受けたのは第三者のため、責任を免除することはできません。
まとめ
発起設立についてみてきました。発起設立では、定款の作成、出資、設立時役員等の選任、設立時取締役による調査を経て、株式会社が成立することがわかりました。大きな流れは会社法の節にあるので、条文から離れないようにしましょう。続いて、募集設立ではどの部分が同じでどの部分が異なるのかを意識しながら学習を進めましょう。