ここでは、表現の自由の規制として明確性の原則について学習します。
明確性の原則とは、表現の自由をはじめとする精神的自由に対する規制は明確でなければならず、漠然不明確な立法は違憲であるとするものです。そのため、基本書等では、「漠然性故に無効の原則」や「不明確故に無効の原則」などと書かれているものもありますが、同じものになります。それでは、どのようなものが問題になったか、リーディングケースである徳島市公安条例事件をみてみましょう。
徳島市公安条例事件
事案
徳島市の「集団行進及び集団示威運動に関する条例」は,集団示威行進等について市公安委員会への届出制を定め(1条),集団示威行進を行う者が遵守すべき事項として「交通秩序を維持すること」を掲げ(3条3号)ていました。Yは、集団にだ行進させるよう刺激を与え扇動をしたとして、起訴されたところ、「交通秩序を維持すること」という文言が不明確ではないかなどが争われました。
判旨
判例は、「刑罰法規の定める犯罪構成要件があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反し無効であるとされるのは,その規定が通常の判断能力を有する一般人に対して,禁止される行為とそうでない行為とを識別するための基準を示すところがなく,そのため,その適用を受ける国民に対して刑罰の対象となる行為をあらかじめ告知する機能を果たさず,また,その運用がこれを適用する国又は地方公共団体の機関の主観的判断にゆだねられて恣意に流れる等,重大な弊害を生ずるからであると考えられる。」として、不明確が無効とされる理由について述べました。
一方、「しかし,一般に法規は,規定の文言の表現力に限界があるばかりでなく,その性質上多かれ少なかれ抽象性を有し,刑罰法規もその例外をなすものではないから,禁止される行為とそうでない行為との識別を可能ならしめる基準といっても,必ずしも常に絶対的なそれを要求することはできず,合理的な判断を必要とする場合があることを免れない。」として、法規が抽象的にならざるを得ないことについて言及しています。
そこで、「それゆえ,ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは,通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによってこれを決定すべきである。」として判断枠組みを示しました。徳島市公安条例事件では、この判断枠組みが重要になります。一言一句覚える必要はありませんが、通常の判断能力を有する一般人の理解において、基準が読み取れるかどうかによって決定するといった大枠を理解しておきましょう。
結論としては、「本条例3条3号の規定は,確かにその文言が抽象的であるとのそしりを免れないとはいえ,集団行進等における道路交通の秩序遵守についての基準を読みとることが可能であり,犯罪構成要件の内容をなすものとして明確性を欠き憲法31条に違反するものとはいえない」として、合憲とされました(最判昭50.9.10)。