ここでは,民法の多数当事者間の債権及び債務から不可分債権及び不可分債務について解説します。
不可分債権
不可分債権とは,たとえば,A,B,Cの3人が共同でDから自動車を買ったときの引渡請求権などがあります。自動車を引き渡すことは分けることができないので,不可分債権であることがわかります。
請求
不可分債権では,各債権者は,全ての債権者のために全部または一部の履行を請求することができます(428条,432条)。
A,B,Cの各債権者は,全ての債権者のためにDに対して自動車を引き渡してほしいと請求することができるということです。
相殺
債務者が不可分債権者の一人に対して債権を有する場合において,その債務者が相殺を援用したときは,その相殺は,他の不可分債権者に対しても,その効力を生じます(428条,434条)。
Dが,A,B,Cのいずれか一人に対して債権を有する場合,Dが相殺を援用したときは,他の不可分債権者に対しても効力を生じます。
絶対効と相対効のまとめ
原則として,不可分債権者の一人の行為または一人について生じた事由は,他の不可分債権者に対してその効力を生じません(428条,435条の2)。上の請求,相殺,そして履行が例外です。
履行は,条文がないのでイメージしにくいかもしれませんが,不可分債権の債務者が自動車の引渡し(履行)を行ったときは,他の不可分債権者に対しても効力が生じるというのを想像するとわかりやすいと思います。
不可分債務
不可分債務とは,たとえば,A,B,Cの3人が共同でDに自動車を売ったときの引渡債務などがあります。自動車を引き渡すことは分けることができないので,不可分債務であることがわかります。
請求
債務の目的がその性質上不可分である場合において,数人が債務を負担するときは,債権者は,その債務者の一人に対し,または同時に若しくは順次に全ての不可分債務者に対し,全部または一部の履行を請求することができます(430条,436条)。
Dは,A,B,Cの各債務者に対し,自動車を引き渡してほしいと請求することができるということです。
不可分債務者の一人について法律行為の無効または取消しの原因があっても,他の不可分債務者の債務は,その効力を妨げられません(430条,437条)。
A,B,Cのひとりについて,無効の原因があっても,他の不可分債務者は有効なのだから,引渡債務は効力を持ち続けるということです。
更改
不可分債務者の一人と債権者との間に更改があったときは,債権は,全ての不可分債務者の利益のために消滅します(430条,438条)。
なお,更改とは,前のとは異なる新しい契約等に変えることをいいます。
相殺
不可分債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において,その不可分債務者が相殺を援用したときは,債権は,全ての不可分債務者の利益のために消滅します(430条,439条)。
不可分債務者の一人と債務者との間に更改や相殺があったときは,全ての不可分債務者の利益のために消滅します。
絶対効と相対効のまとめ
原則として,不可分債務者の一人の行為または一人について生じた事由は,他の不可分債権者に対してその効力を生じません(441条)。上の更改,相殺,そして履行が例外です。
まとめ
不可分債権と不可分債務について整理しましょう。
不可分債権 | 不可分債務 | |
履行 | ○ | ○ |
請求 | ○ | ✕ |
更改 | ✕ | ○ |
免除 | ✕ | ✕ |
相殺 | ○ | ○ |
混同 | ✕ | ✕ |
試験対策の点から,それほど出題される分野ではないので優先度合いは下がります。多数当事者間の債権債務は絶対効か相対効が問われますが,表を暗記しようとするのではなく,それぞれどのような場面のことなのかを考え,その場合はどうかを考えて答えを導けるようにするのがおすすめです。