令和4年に改正された民法のうち、令和6年度(2024年度)の行政書士試験から出題範囲となる「女性の再婚禁止期間」「嫡出推定」「嫡出否認」「認知無効」についてまとめています。
女性の再婚禁止期間(733条削除)
第733条
削除
これまで、女性は婚姻の解消から100日を経過するまで再婚が禁止されていましたが、改正により再婚禁止期間を定める第733条が削除されました。これは、後述する嫡出推定の規定が見直されたことにより、父の子が定まらないことがなくなったため、再婚禁止期間を定める必要性がなくなったのが理由です。
嫡出推定(772条)
第772条
1 妻が婚姻中に懐胎した子は、当該婚姻における夫の子と推定する。女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、同様とする。
2 前項の場合において、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は、婚姻前に懐胎したものと推定し、婚姻の成立の日から200日を経過した後または婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
3 第1項の場合において、女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に2以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定する。
4 前3項の規定により父が定められた子について、第774条の規定によりその父の嫡出であることが否認された場合における前項の規定の適用については、同項中「直近の婚姻」とあるのは、「直近の婚姻(774条の規定により子がその嫡出であることが否認された夫との間の婚姻を除く。)」とする。
嫡出推定の規定が見直されました。これまで、婚姻の成立の日から200日を経過した後に生まれた子、または婚姻の解消等の日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定されていました。
反対に言うと、婚姻の成立の日から200日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定されないということです。しかし、いわゆる「授かり婚」が増加するなど社会の価値観が変化したことに伴い、婚姻前に懐胎した子の身分関係を安定させる必要が高まってきました。
改正法では、妻が婚姻中に懐胎した子だけでなく、女が婚姻前に懐胎した子であって、婚姻が成立した後に生まれたものも、夫の子と推定します(772条1項、2項)。条文の表現について、「妻」ではなく「女」とあるのは、懐胎した時点では婚姻前だからです。
また、3項と4項が新設されました。
婚姻の解消等の日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定します。この規定自体に変更はありません。しかし、女が子を懐胎した時から子の出生の時までの間に2以上の婚姻をしていたときは、その子は、その出生の直近の婚姻における夫の子と推定します(772条3項)。わかりやすくいうと、子が生まれるまでに2回以上婚姻をした場合は、あとに婚姻をした夫の子と推定されるということです。
また、嫡出否認の訴え(774条)によりその父の嫡出であることが否認された場合は、その夫との間の婚姻を除いた直近の婚姻における夫の子となります(772条4項)。
嫡出否認(774条)
第774条
1 第772条の規定により子の父が定められる場合において、父または子は、子が嫡出であることを否認することができる。
2 前項の規定による子の否認権は、親権を行う母、親権を行う養親または未成年後見人が、子のために行使することができる。
3 第1項に規定する場合において、母は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。
4 第772条第3項の規定により子の父が定められる場合において、子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた者であって、子の父以外のもの(以下「前夫」という。)は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。
5 前項の規定による否認権を行使し、第772条第4項の規定により読み替えられた同条第3項の規定により新たに子の父と定められた者は、第1項の規定にかかわらず、子が自らの嫡出であることを否認することができない。
第777条
次の各号に掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは、それぞれ当該各号に定める時から3年以内に提起しなければならない。
一 父の否認権 父が子の出生を知った時
二 子の否認権 その出生の時
三 母の否認権 子の出生の時
四 前夫の否認権 前夫が子の出生を知った時
これまで、嫡出否認の訴えは、父だけが訴えることができましたが、改正法では、父だけでなく、子と母にも認められるようになりました(774条1項、3項)。また、前述の2以上の婚姻のときに子の父が定められる場合は、前夫も否認することができることとされました(774条4項)。
また、これまで嫡出否認の訴えは、1年以内に提起できることとされていましたが、改正法では3年以内に提起できることとされました(777条)。
認知無効(786条)
第786条
1 次の各号に掲げる者は、それぞれ当該各号に定める時(第783条第1項の規定による認知がされた場合にあっては、子の出生の時)から7年以内に限り、認知について反対の事実があることを理由として、認知の無効の訴えを提起することができる。ただし、第3号に掲げる者について、その認知の無効の主張が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。
一 子またはその法定代理人 子またはその法定代理人が認知を知った時
二 認知をした者 認知の時
三 子の母 子の母が認知を知った時2 子は、その子を認知した者と認知後に継続して同居した期間(当該期間が2以上あるときは、そのうち最も長い期間)が3年を下回るときは、前項(第一号に係る部分に限る。)の規定にかかわらず、21歳に達するまでの間、認知の無効の訴えを提起することができる。ただし、子による認知の無効の主張が認知をした者による養育の状況に照らして認知をした者の利益を著しく害するときは、この限りでない。
3 前項の規定は、同項に規定する子の法定代理人が第1項の認知の無効の訴えを提起する場合には、適用しない。
4 第1項及び第2項の規定により認知が無効とされた場合であっても、子は、認知をした者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わない。
これまで、子その他の利害関係人は、認知に対して反対の事実を主張することができると規定されていました。しかし、これでは子の地位が不安定になってしまいます。
改正法では、認知無効の訴えができる者について、子、法定代理人、認知をした者、子の母に限定しました。また、それぞれ定められた期間から7年以内に提訴するとされました(786条)。
- 子またはその法定代理人:子またはその法定代理人が認知を知った時
- 認知をした者:認知の時
- 子の母:子の母が認知を知った時
提訴期間について、ややこしく感じますが、整理をすると、認知をした者は「認知の時から7年以内」、それ以外の者(子、法定代理人、子の母)は「認知を知った時から7年以内」となります。