行政事件訴訟法における「義務付け訴訟(=義務付けの訴え)」と「差止め訴訟(=差止めの訴え)」の違いについてまとめています。
目次
行政事件訴訟法の「義務付け訴訟」と「差止め訴訟」
義務付け訴訟と差止め訴訟は、行政事件訴訟法を「抗告訴訟」「当事者訴訟」「民衆訴訟」「機関訴訟」の4つに分けたうちの「抗告訴訟」のひとつに分類されます。
「抗告訴訟」とは、行政庁の公権力の行使に関する不服の訴訟をいい(3条1項)、他には「取消訴訟」「無効等確認訴訟」「不作為の違法確認訴訟」などがあります。
「取消訴訟」は、さらに「処分の取消しの訴え」と「裁決の取消しの訴え」にわかれますが、今は「義務付け訴訟」と「差止め訴訟」が主役なので、ここでは詳しくは言及していません。
「処分」と「裁決」の違いなどについては、下の記事で解説しています。
ここまでで、「義務付け訴訟」と「差止め訴訟」の立ち位置が整理できました。
義務付け訴訟
「義務付け訴訟」は、処分または裁決をすべき旨を命ずることを求める訴訟をいいます(3条6項)。
まさに、「こういう処分・裁決をしなさい」と裁判所が行政庁に義務付けるイメージです。
義務付け訴訟は、さらに2つに分けることができます。
- 1号義務付け訴訟(非申請型義務付け訴訟)
- 2号義務付け訴訟(申請型義務付け訴訟)
「1号義務付け訴訟」と「2号義務付け訴訟」の違いについては、下の記事で言及しています。
どちらも、処分または裁決をすべき旨を命ずることを求める点においては共通しています。
差止め訴訟
「差止め訴訟」は、行政庁が処分・裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合に、その処分・裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟のことをいいます(3条7項)。
「処分・裁決をするのをやめなさい」と裁判所が行政庁に差止めるイメージです。
なお、差止め訴訟は、義務付け訴訟と違って1号・2号などに分かれていません。
「差止め訴訟」の詳細については、下の記事で解説しています。
「義務付け訴訟」と「差止め訴訟」の比較
義務付け訴訟が「(処分・裁決をしていないから)しなさい」であるのに対して、差止め訴訟は「(処分・裁決がされそうだから)してはならない」と裁判所が差止めるイメージです。
- 義務付け訴訟:(していないから)しなさい
- 差止め訴訟:(しそうだから)やめなさい
義務付け訴訟と差止め訴訟は、平成16年(2004年)改正時に新しくできた訴訟形態です(新しくできたということは、国民の救済の観点から必要があったということです)。
義務付けと差止め訴訟は訴訟要件がほぼ一緒なので、比べると一緒に理解できます。
なお、前述のように、義務付け訴訟は1号と2号に分かれています。ここでは、訴訟要件が似ている1号義務付け訴訟(非申請型義務付け訴訟)と差止め訴訟を比較しています。
2号義務付け訴訟(申請型義務付け訴訟)については、差止め訴訟ではなく、1号義務付け訴訟と2号義務付け訴訟を比較することで理解が深まります。
1項(重大な損害と補充性)
1号義務付け訴訟も差止め訴訟も、①重大な損害を生ずるおそれがあり、かつ、②その損害を避けるため他に適当な方法がないときに限り、提起することができます(37条の2第1項、37条の4第1項)。
2項(「重大な損害」の判断)
裁判所は、重大な損害を生ずるか否かを判断するに当たっては、①損害の回復の困難の程度を考慮し、②損害の性質・程度、処分の内容・性質を勘案するものとします(37条の2第2項、37条の4第2項)。
3項(法律上の利益)
法律上の利益を有する者に限り、提起することができます(37条の2第3項、37条の4第3項)。
4項(「法律上の利益」の有無の判断)
法律上の利益の有無の判断については、9条2項の規定を準用します(37条の2第4項、37条の4第4項)。
9条2項の読み方については、下の記事で解説しています。
5項(本案勝訴要件)
①処分を「すべき」(差止め訴訟は「すべきでない」)ことが法令の規定から明らかであると認められ、②または処分を「しない」(差止め訴訟は「すべき」)ことが裁量権の範囲を超えもしくはその濫用となると認められるときは、裁判所は、行政庁が処分を「すべき」(差止め訴訟は「してはならない」)旨を命ずる判決をします(37条の2第5項、37条の4第5項)。
本案勝訴要件は、(両者の目的が真逆のため)「義務付け訴訟」と「差止め訴訟」の文言が真逆になっていますが、それ以外の部分は同じです。
- ①すべきこと(すべきでない)が法令の規定から明らか
- ②しないこと(すべきこと)が裁量権の逸脱・濫用