行政事件訴訟法における「差止め訴訟」(差止めの訴え)について,まとめています。
行政事件訴訟法における「差止め訴訟」の位置
差止め訴訟は,行政事件訴訟法を「抗告訴訟」「当事者訴訟」「民衆訴訟」「機関訴訟」の4つに分けたうち,抗告訴訟のひとつに分類されます。
「差止め訴訟」は,行政庁が処分・裁決をすべきでないにかかわらずこれがされようとしている場合に,その処分・裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟のことをいいます(3条7項)。
義務付け訴訟が,「非申請型義務付け訴訟」「申請型義務付け訴訟」の2つに分かれていたのに対し,差止め訴訟は1つなので理解しやすいと思います。
2023.02.14
【行政事件訴訟法】義務付け訴訟と差止め訴訟の違いについて
行政事件訴訟法における「義務付け訴訟(=義務付けの訴え)」と「差止め訴訟(=差止めの訴え)」の違いについてまとめています。 行政事件訴訟法...
訴訟要件
差止めの訴えは,一定の処分(または裁決)がされることにより重大な損害を生ずるおそれがある場合に限り,提起することができます(37条の4第1項本文)。ただし,その損害を避けるために他に適当な方法があるときは,提起することはできません(37条の4第1項但書)。
まず,「重大な損害」について,国歌斉唱義務不存在確認等請求事件の判例は,「処分がされることにより生ずるおそれのある損害が,処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なもの」としています(最判平24.2.9)。
次に,「他に適当な方法があるとき」とは,どのようなときでしょうか。
行政事件訴訟法には,処分等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは,裁判所は,処分等の全部又は一部の停止をすることができる「執行停止」があります(25条2項)。
つまり,執行停止で救済できるときは,「差止め訴訟」はできないことになります。
本案勝訴要件
①差止めの訴えに係る処分(または裁決)につき,行政庁がその処分(または裁決)をすべきでないことがその処分(または裁決)の法令の規定から明らかであると認められるか,②または行政庁が処分(または裁決)をすることが裁量権の範囲を超えもしくはその濫用となると認められるとき,裁判所は,行政庁がその処分(または裁決)をしてはならない旨を命ずる判決をします(37条の4第5項)。
参考までに,前述の判決は,「差止め訴訟のうち免職処分以外の懲戒処分の差止め訴訟は適法」とされましたが(本案勝訴要件について検討を進めましたが),差止請求は棄却されました。
第三者効
差止訴訟の判決は,その事件について,処分または裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束します(38条,33条)。しかし,第三者に対しては効力が及びません。つまり,差止め訴訟が却下・棄却されても,原告以外の第三者は,同じ処分または裁決について差止め訴訟を提起できるということです。