行政事件訴訟法における「仮の差止め」について、まとめています。
仮の差止めの要件
差止めの訴えの提起があった場合において、差止めの訴えに係る処分(または裁決)がされることにより生ずる償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、仮の差止めを命ずることができます(37条の5第2項)。
- 差止めの訴えを提起していること
- 償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること
- 本案について理由があること
つまり、差止めの訴えの判決が出るまで待っていたのでは、間に合わないときに、裁判所が暫定的に差止めを命ずることができるということです。
「償うことのできない損害」について、裁判例は、「金銭賠償が不可能な損害が発生する場合のほか、社会通念に照らして金銭賠償のみによることが著しく不相当と認められるような場合を指すものと解される。」としています(神戸地決平19.2.27)。
もっとも、仮の差止めは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができません(37条の5第3項)。
ここまででお気づきの方もいると思いますが、「仮の義務付け」(37条の5第1項)と「仮の差止め」(37条の5第2項)は、同じ構造になっています。
仮の差止めを題材にした問題
行政書士試験では、「仮の差止め」について、記述式問題でも出題されています。
Y市議会の議員であるXは、2023 年 7 月に開催されたY市議会の委員会において発言(以下「当該発言」という。)を行った。これに対して、当該発言は議会の品位を汚すものであり、Y市議会会議規則 a 条に違反するとして、Y市議会の懲罰委員会は、20 日間の出席停止の懲罰を科すことが相当であるとの決定を行った。Y市議会の議員に対する懲罰は、本会議で議決することによって正式に決定されるところ、本会議の議決は、 9 月に招集される次の会期の冒頭で行うこととし、会期は終了した。これに対し、Xは、①問題となった当該発言は市政に関係する正当なものであり、議会の品位を汚すものではなく、会議規則には違反しない、②予定されている出席停止の懲罰は 20 日と期間が長く、これが科されると議員としての職責を果たすことができない、と考えている。
9 月招集予定の次の会期までの間において、Xは、出席停止の懲罰を回避するための手段(仮の救済手段も含め、行政事件訴訟法に定められているものに限る。)を検討している。次の会期の議会が招集されるまで 1 か月程度の短い期間しかないことを考慮に入れたとき、誰に対してどのような手段をとることが有効適切か、40字程度で記述しなさい。
※太文字はこちらで編集したものです。
「Y市に対して」、「出席停止の懲罰の差止訴訟を提起するとともに、仮の差止めを申し立てる」といった内容のことを答えます。
今回は、「仮の救済手段も含め」とあるので、仮の差止めについても回答する必要があります。おそらく、被告適格(Y市)、訴訟の種類(差止訴訟)、仮の救済(仮の差止め)にそれぞれ配点がされているはずです。