行政事件訴訟法における「仮の義務付け」について、まとめています。
仮の義務付けの要件
義務付けの訴えがあった場合において、義務付けの訴えに係る処分(または裁決)がされないことにより、償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があり、かつ、本案について理由があるとみえるときは、裁判所は、仮の処分(または裁決)をすべき旨を命ずることができます(37条の5第1項)。
これを「仮の義務付け」といいます。
- 義務付けの訴えを提起していること
- 償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があること
- 本案について理由があること
つまり、義務付けの訴えの判決が出るまで待っていたのでは、間に合わないときに、裁判所が暫定的に処分(または裁決)を命ずることができるということです。
もっとも、仮の義務付けは、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるときは、することができません(37条の5第3項)。
仮の義務付けと執行停止の関係
行政事件訴訟では、「処分の取消しの訴え」の提起があった場合において、処分等により生ずる重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、処分等の全部または一部の停止をすることができます(25条2項)。
執行停止が「重大な損害」となっているのに対して、仮の義務付けは「償うことができない損害」となっているのに注意が必要です。
判例は、「償うことのできない損害を避けるため緊急の必要があるときは、処分・裁決がされないことによって被る損害が、原状回復ないし金銭賠償による填補が不能であるか、または、社会通念上相当に困難であるとみられる程度に達していて、そのような損害の発生が切迫しており、社会通念上、これを避けなければならない緊急の必要性が存在することをいう」としています(最決平18.1.25)。
仮の義務付けと内閣総理大臣の異議
行政事件訴訟では、「執行停止の申立てがあった場合、内閣総理大臣が裁判所に対して異議を述べることができる」とされています。これは、仮の義務付けでも同様です(第37条の5第4項、27条1項)。
つまり、仮の義務付けの必要性があっても、内閣総理大臣が「NO!」を突きつければ、仮の義務付けはできないということです(仮の義務付けの決定がされた後でも異議を述べることができます)。
まとめ
仮の義務付けと執行停止についてまとめておきましょう。この記事は「仮の義務付け」を中心にしていますが、条文の構造上、執行停止を左、仮の義務付けを右にしています。
執行停止 (25条) |
仮の義務付け (37条の5) |
|
訴えの提起 | 処分の取消しの訴え | 義務付けの訴え |
損害の程度 | 重大 | 償うことができない |
本案に理由あり | 必要 | 必要 |
公共の福祉に〜 | できない | できない |
内閣総理大臣の異議 | できる | できる |