行政不服審査法と行政事件訴訟法の「執行停止」や「教示」などの違いの比較

行政法
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行政不服申立ての一般法である「行政不服審査法」と行政事件訴訟の一般法である「行政事件訴訟法」における「執行停止」や「教示」などの違いについて比較しています。



行政不服申立てと行政事件訴訟の比較

行政不服申立て 行政事件訴訟
対象 適法・違法
当・不当
適法・違法
機関 行政機関 裁判所
手続 書面審理主義 口頭審理主義

行政不服申立ては、適法・違法だけでなく、当・不当の審理もできます。行政事件訴訟では、適法・違法の審理だけが対象です。これは、行政に関する法律は、行政庁に自由な判断の余地が与えられていることもあり(行政庁の裁量)、一般に司法審査は及ばないとされているからです。

行政不服申立ては、「国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度」(行政不服審査法1条)という目的から、書面審理主義がとられています。行政事件訴訟は、「行政事件訴訟に関し、この法律に定めがない事項については、民事訴訟の例による」(行政事件訴訟法7条)ことから、口頭審理主義がとられています。

行政不服申立ては、簡易迅速ではありますが、行政機関が審理するため中立性が欠けます。行政事件訴訟は、工数がかかりますが、裁判所が審査するため中立性が担保されます。

「期間」の比較

行政不服審査法 行政事件訴訟法
主観的 知った日の翌日から3か月以内 知った日から6か月以内
客観的 日の翌日から1年以内 日から1年以内

行政不服審査法は、処分があったことを知った日の「翌日から」、行政事件訴訟法は、処分または裁決があったことを知った「日から」起算するので注意しましょう。

処分があったことを知った日」とは、処分のあったことを現実に知った日をいいます。また、処分があったことを現実に知ったかどうかにかかわらず、処分が社会通念上相手方において了知することのできる状態に置かれたときは、特段の事由がない限り、これを知ったものとされています(最判昭27.11.20

また、どちらも、「正当な理由があるときは、この限りでない」とされています(行審法18条、行訴法14条)。「正当な理由」とは、審査請求期間が教示されなかった場合や誤って長期の審査請求期間が教示された場合をいいます。

「執行停止」の比較

行政不服審査 行政事件訴訟
判断機関 審査庁 裁判所
裁量的執行停止 申立て、職権(*1)
(25条2項)
申立て
(25条2項)
その他の措置 可(*1)
(25条2項)
不可
当事者の意見 不要(*2) 必要
(25条6項但書)
義務的執行停止 あり
(25条4項)
なし
公共の福祉に〜 この限りでない
(25条4項但書)
できない
(25条4項)
補充性 あり
(25条6項)
あり
(25条2項但書)
執行停止の取消し 職権
(26条)
相手方の申立て
(26条1項)
内閣総理大臣の異義 なし あり
(27条)

参考:『完全整理択一六法 行政法』

執行停止が置かれている条文は、行政不服審査法、行政事件訴訟法ともに25条です。といっても、関係があるわけではありません(たまたま同じ位置にあります)。上の表では、左が「行政不服審査法」、右が「行政事件訴訟法」の条文番号を示しています。

まず、前提として、裁判所は中立のため「受け身である」ということです。基本的に自分から積極的に動くことはせず、「公共の福祉のため」というときだけ、自分から動くという視点を持っておくと判断がしやすくなります。

裁量的執行停止

裁量的執行停止(執行停止できる)について、行政不服審査法は、執行されたら困る審査請求人の申立てと職権でできます。行政事件訴訟法は申立てのみです。

その他の措置

*1 執行停止の方法は、①処分の効力の停止、②処分の執行の停止、③処分の手続の停止、④その他の措置の4種類があります。「その他の措置」は、処分庁と上級行政庁はできます(それ以外の審査庁はできません)。裁判所は、その他の措置をとることはできません。

当事者の意見

*2 当事者の意見は、処分庁と上級行政庁は不要です(それ以外の審査庁は処分庁の意見が必要です)。裁判所は中立なので、当事者の意見を聞くことが必要です(口頭弁論の必要はありません)。

処分をした「処分庁」やそれを監督する立場である「処分庁の上級行政庁」である審査庁は、自らの意思で(職権で)比較的裁量のある「その他の措置」をとることもできますが、それ以外の審査庁と裁判所は、申立てにより(職権はできない)、処分庁の意見を聞いて執行停止ができます。また、このときも比較的裁量のある「その他の措置」をとることはできません。

義務的執行停止

義務的執行停止について、重大な損害を避けるため緊急の必要があるときは、審査庁は執行停止をしなければなりません。裁判所は「することができる」だけで執行停止の義務はありません。

ただし、公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき、または本案について理由がないとみえるときは、この限りではありません(審査庁は執行停止をしなくてもいい)。裁判所は、執行停止をすることができません。裁判所は「公共の福祉に〜」、執行停止ができないというのが重要です。

補充性

補充性について、どちらも「①処分の効力の停止」は、それ以外の措置によって目的を達することができるときは、することができません。執行停止は、申立人の権利利益保全のため必要最小限に限られるという趣旨により、②処分の執行の停止、③処分の手続の停止、④その他の措置によって目的を達することができないときだけできることになっています。

執行停止の取消し

執行停止の取消しについて、事情が変更したときは、審査庁は職権により執行停止を取消すことができます(執行される)。処分庁、処分庁の上級行政庁以外の審査庁も職権により執行停止を取消すことができます。裁判所は相手方の申立てにより執行停止の決定を取り消すことができます。

内閣総理大臣の異議

内閣総理大臣の異議について、行政不服審査法はありません。行政事件訴訟法では、内閣総理大臣は、裁判所に対し、執行停止について異議を述べることができます

「教示」の比較

行政不服審査法 行政事件訴訟法
教示 原則:必要
処分が口頭のとき:不要
(82条1項)
原則:必要
処分が口頭のとき:不要
(46条1項)
教示の方法 書面
(82条1項)
書面
(46条1項)
不服申立てができること 必要
(82条1項)
不要
相手 行政庁
(82条1項)
被告とすべき者
(46条1項1号)
期間 不服申立期間
(82条1項)
出訴期間
(46条1項2号)
審査請求前置 定めがあるときは必要
(46条1項3号)
裁決主義 裁決主義のときは必要
(46条2項)
利害関係人への教示 必要
(82条2項)
不要

教示について、原則は必要です。ただし、処分が口頭の場合は不要です。

教示をする場合、書面でする必要があります。

審査請求前置について、審査請求をしたあとでなければ訴えを提起することができない旨の定めがあるときは、その旨を教示します。また、裁決主義がとられている場合は、その旨を教示します。どちらも行政事件訴訟法のみに当てはまる項目です。

行政不服審査法では、利害関係人から、教示を求められたときは、教示しなければなりません。また、この場合、書面による教示を求められたときは、書面でする必要があります(行審法82条3項)。行政事件訴訟法では、相手方以外の第三者への教示は不要です。

SOMEYA, M.

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東京都生まれ。沖縄県在住。主に行政書士試験対策について発信しているブログです。【好き】沖縄料理・ちゅらさん・Cocco・龍が如く3

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