行政手続法の標準処理期間について解説しています。
標準処理期間は「申請に対する処分」の話
まず、標準処理期間は、行政手続法の中の、処分の中の「申請に対する処分」の話であるということを捉えておきましょう(行政手続法>処分>申請に対する処分)。
行政手続法は、①処分、②行政指導、③届出、④命令等を定める手続を対象にしています。このうち、①処分は、「申請に対する処分」と「不利益処分」の2つがあります。
前提として、「処分」や「申請に対する処分」「不利益処分」の位置関係がわからない方は、下の記事をご参照ください。
標準処理期間を「定めること」と「公にしておくこと」
第6条 行政庁は、申請がその事務所に到達してから当該申請に対する処分をするまでに通常要すべき標準的な期間(法令により当該行政庁と異なる機関が当該申請の提出先とされている場合は、併せて、当該申請が当該提出先とされている機関の事務所に到達してから当該行政庁の事務所に到達するまでに通常要すべき標準的な期間)を定めるよう努めるとともに、これを定めたときは、これらの当該申請の提出先とされている機関の事務所における備付けその他の適当な方法により公にしておかなければならない。
行政手続法では、標準処理期間を定めることは努力義務とされています。しかし、標準処理期間を定めたときは公にしておく義務があります(6条)。
標準処理期間を定めることが努力義務とされているのは、処分の性質上、標準処理期間の設定が困難な場合があるからです。一方、定めたのなら、公にしておくことは困難ではないので(隠す必要はないので)、義務となっています。
【参考】標準処理期間は、実際に見てみると記憶に残りやすくなります。たとえば、私がいる沖縄県では「行政手続における審査基準、標準処理期間及び処分基準の公表について」というページがあり、設定されている標準処理期間が公にされています。あなたが住んでいる都道府県の標準処理期間を見てみると、実感がわくと思います(「都道府県名 標準処理期間」で検索してみましょう)。
審査基準と標準処理期間
ここで、「審査基準」と「標準処理期間」が混ざりやすいので整理しておきましょう。
審査基準 | 標準処理期間 | |
定めること | 法的義務 | 努力義務 |
公にしておくこと | 法的義務 | 法的義務 |
申請に対する処分の審査基準を定めることと公にしておくことはどちらも法的義務ですが、標準処理期間は、定めることは努力義務で、(もし定めたときは)公にしておくことは法的義務です。
また、審査基準と対になる処分基準は、定めることも公にしておくことも努力義務なので、注意が必要です。もっとも、段階が異なる3つを同じ列に並べて暗記するのはただの暗記に陥ってしまいやすいので、「審査基準と標準処理期間」「審査基準と処分基準」のように相互の関連性があるものを理由も付けて比較するとよいでしょう。
不作為の違法確認訴訟における「相当の期間」の経過
行政事件訴訟法の抗告訴訟のひとつに「不作為の違法確認訴訟」というものがあります。これは「行政庁が法令に基づく申請に対し、相当の期間内に何らかの処分又は裁決をすべきであるにもかかわらず、これをしないことについての違法の確認を求める訴訟」です(行政事件訴訟法3条5項)。
相当の期間について、裁判例は、「その処分をなすに通常必要とする期間を基準として判断し、通常の所要期間を経過した場合には原則として……不作為は違法となり、ただ右期間を経過したことを正当とするような特段の事情がある場合には違法たることを免れる」としています(東京地判昭39.11.4)。
標準処理期間が設定されている場合、その徒過がただちに「相当の期間」となることはありませんが、裁判所の判断にとって重要な要素となると考えられています。つまり、標準処理期間と相当の期間は一致するものではないということです。