行政と国民との法律関係に私法が適用されるかが問題となります。この点については、個別的に判断されるようになっています。試験対策としては、どの事例のときにどうなるかということを押さえることが重要です。まずは判例等の知識をインプットし、次にそれが実際に本試験ではどのように問われるかを確認しましょう。
国の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効
国が義務者であっても、被害者に損害を賠償すべき関係は、公平の理念に基づき被害者に生じた損害の公正な填補を目的とする点において、私人相互間における損害賠償の関係とその目的性質を異にするものではないから、国に対する損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法30条所定の5年と解すべきではなく、民法(旧)167条1項により10年と解すべきである。
国の安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求権の消滅時効については、会計法30条の5年ではなく、民法(旧)167条1項により10年と解すべきとされました。
それでは、実際にどのように出題されたかを確認しましょう。
【過去問】
公務災害に関わる金銭債権の消滅時効期間については、早期決済の必要性など行政上の便宜を考慮する必要がないので、会計法の規定は適用されず、民法の規定が適用される。(平27-9-5)
正解:◯
租税滞納処分と民法177条
滞納処分による差押の関係においても、民法177条の適用があるものと解するのが相当である。
国税滞納処分においては、滞納処分による差押の関係においても、民法177条の適用があるとされています。参考までに、民法177条は、「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない」という、不動産の物権変動の対抗要件について定めたものです。
それでは、過去問を見てみましょう。
【過去問】
租税滞納処分は、国家が公権力を発動して財産所有者の意思いかんにかかわらず一方的に処分の効果を発生させる行為であるという点で、自作農創設特別措置法(当時)所定の農地買収処分に類似するものであるから、物権変動の対抗要件に関する民法の規定の適用はない。(平30-9-3)
正解:☓
租税対象処分は、民法が適用されます。このように、特に☓の選択肢については、何についてどのくらいの深さで知識が問われるかを意識して学習するとよいでしょう。今回の問題であれば、「租税滞納処分は、民法の適用があるかどうか」が問われています。
建築基準法65条(現63条)と民法
防火地域又は準防火地域内にある外壁が耐火構造の建築物、すなわち、建築基準法65条の要件に該当する建物については、直ちに民法234条1項の規定の適用が排除されるものではなく、同項により保護される採光、通風、建物の建築・修繕の便宜等の相隣土地所有者の生活利益を犠牲にしても、なお接境建築を許すだけの合理的理由、例えば、相隣者間の合意とか、同法236条所定の慣習等がある場合に限って初めて、建築基準法65条の規定が民法234条1項の規定に優先して適用される。
建築基準法65条(現63条)は、民法234条1項の規定に優先されるとあります。
この判例は理解しにくいので補足します。まず、民法第234条1項は「建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない」と規定しています。そして、建築基準法65条の要件に該当する建物(耐火構造の建築物)については、直ちにこの民法234条1項の規定の適用が排除されるものではないとしています。つまり、この時点で民法が優先されるわけではないということです。
次に、民法236条は「前二条の規定と異なる慣習があるときは、その慣習に従う」と規定しています。ここで、相隣者間の合意や民法236条所定の慣習がある場合に限って、建築基準法65条の規定が民法234条1項の規定に優先して適用されるとしています。
それでは、過去問を見てみましょう。
【過去問】
建築基準法において、防火地域または準防火地域内にある建築物で外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができるとされているところ、この規定が適用される場合、建物を築造するには、境界線から一定以上の距離を保たなければならないとする民法の規定は適用されない。(平30-9-4)
正解:◯
公営住宅の使用関係
公営住宅の使用関係については、公営住宅法及びこれに基づく条例が特別法として民法及び借家法(現借地借家法)に優先して適用されるが、法及び条例に特別の定めがない限り、原則として一般法である民法及び借家法の適用があり、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用があるものと解すべきである。
公営住宅の使用関係については、特別法(公営住宅法と条例)が一般法(民法と借地借家法)に優先して適用されますが、原則として一般法である民法と借地借家法の適用があり、信頼関係の法理の適用があるとしています。これも少しわかりにくいので2つのポイントを押さえておきましょう。
- 特別法が一般法に優先する
- 一般法の適用がある
ここで、「一般法が優先する」と覚えてしまうと、次の過去問に引っかかってしまいます。あくまで、優先されるのは特別法で、一般法も適用されるということです。
それでは最後に、過去問を見てみましょう。
【過去問】
公営住宅の使用関係については、一般法である民法および借家法(当時)が、特別法である公営住宅法およびこれに基づく条例に優先して適用されることから、その契約関係を規律するについては、信頼関係の法理の適用があるものと解すべきである。(平30-9-1)
正解:☓
公営住宅の使用関係については、公営住宅法などの特別法が民法や借地借家法に優先して適用されます。この問題の難しいところは、後半の「信頼関係の法理の適用がある」という部分は合っている点です。問題文の冒頭と後半だけ見て「正しい」と判断した方も少なくないと思います。
また、この選択肢は「1」というのも厄介なところです。本試験の緊張状態を考えると、この選択肢を見て「◯」と判断し(本問題は「妥当なもの」を選ぶ問題)、他の選択肢を読まないことも十分考えられます。