行政立法とは、行政機関が法規範を作ることをいいます。本来、こういったルールを作る機関は国会ですが、現代の行政活動は広範かつ専門的のため、細かいルールまですべて国会が作るとなると、かえって国民の利益になりません。そこで、行政機関が法規範を作る必要性が生じました。
しかし、憲法41条は、「国会は、国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」と定めているため、法規範を作るには、必ず国会の関与が必要になります。つまり、法律の委任がないのに、勝手に行政が国民の権利義務にかかわる法規範を作ることはできないということです。
行政立法には、法規命令と行政規則の2種類があります。
法規命令
法規命令は、行政立法のうち国民の権利義務にかかわるものをいいます。法規命令は、①委任命令と②執行命令に分けられます。
①委任命令
委任命令とは、法律の委任に基づいて国民の権利義務を規制するものです。委任立法は厳格な授権が要求されるため、包括的な白紙委任は許されず、法律による個別具体的な委任が必要になります。
本試験対策の観点でみると、行政立法に関する出題のうち、大半を占めるのはこの委任命令です。委任命令に関する判例知識が問われるので、それらを押さえておきましょう。
人事院規則に関する判例
人事院規則は、国家公務員法102条1項に基き、一般職に属する国家公務員の職責に照らして必要と認められる政治的行為の制限を規定したものであるから、実質的に何ら違法、違憲の点は認められないばかりでなく、人事院規則には国家公務員法の規定によって委任された範囲を逸脱した点も何ら認められず、形式的にも違法ではないから、憲法31条違反の主張はその前提を欠くものというべきである。
国家公務員法102条が白紙委任ではないかと問題とされた裁判では、人事院規則は委任された範囲を逸脱していないとしています。
参考までに、「人事院規則」とは、人事院が定める命令のことをいいます。
では、実際にどのように問われるか過去問を見てみましょう。
国家公務員法が人事院規則に委任しているのは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為の行為類型を規制の対象として具体的に定めることであるから、国家公務員法が懲戒処分の対象と刑罰の対象とで殊更に区別することなく規制の対象となる政治的行為の定めを人事院規則に委任しているからといって、憲法上禁止される白紙委任に当たらない。(平26-問9-オ)
正解:◯
監獄法施行規則に関する判例
規則120条(及び124条)は、結局、被勾留者と幼年者との接見を許さないとする限度において、監獄法50条の委任の範囲を超えた無効のものと断ぜざるを得ない。
接見を制限する監獄法施行規則(当時)は、監獄法(現刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律)の委任の範囲を超えた無効のものとされました。
ただ、これだけでは理解しにくいと思うので、補足します。監獄法45条は、「受刑者及び監置に処せられたる者」以外の在監者である被勾留者の接見につき許可制度を採用することを明らかにした上、広く被勾留者との接見を許すこととしていました。なお、受刑者とは、刑の執行を受けている者のことです。監置とは、法定の秩序を乱した者を留置する施設をいいます。
被勾留者には一般市民としての自由が保障されるので、法45条は、被勾留者と外部の者との接見は原則としてこれを許すものとし、例外的に、これを許すと支障を来す場合があることを考慮して、命令をもって、面会の立会、場所、時間、回数等、面会の態様についてのみ必要な制限をすることができる旨を定めていますが、命令によって許可基準そのものを変更することは許されません。
ところが、監獄法施行規則120条は「14歳末満の者には在監者と接見をなすことを許さず」と規定していました。これらの規定は、「たとえ事物を弁別する能力の未発達な幼年者の心情を害することがないようにという配慮の下に設けられたものであるとしても、それ自体、法律によらないで、被勾留者の接見の自由を著しく制限するものであって、法50条の委任の範囲を超えるものといわなければならない」とされました。わかりやすくいうと、制限できるのは面会の態様についてのみであって、「面会できない」というように、許可基準そのものを変えることはできないということです。
それでは、本試験ではどのように出題されるか見てみましょう。
監獄法(当時)の委任を受けて定められた同法施行規則(省令)において、原則として被勾留者と幼年者との接見を許さないと定めていることは、事物を弁別する能力のない幼年者の心情を害することがないようにという配慮の下に設けられたものであるとしても、法律によらないで被勾留者の接見の自由を著しく制限するものであって、法の委任の範囲を超えるものといえ、当該施行規則の規定は無効である。(令3-問10-2)
正解:◯
児童扶養手当法施行令に関する判例
施行令1条の2第3号が父から認知された婚姻外懐胎児童を本件括弧書により児童扶養手当の支給対象となる児童の範囲から除外したことは法の委任の趣旨に反し、本件括弧書は法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効と解すべきである。
児童扶養手当施行令が父から認知された婚外懐胎児童を児童扶養手当の支給対象となる児童の範囲から除外したことは法の委任の趣旨に反し、無効という判例です。
この判例についても補足します。児童扶養手当法第1条は、「父または母と生計を同じくしていない児童が育成される家庭の生活の安定と自立の促進に寄与するため、当該児童について児童扶養手当を支給し、もって児童の福祉の増進を図ることを目的とする」と規定しています。
かんたんにいうと、「父または母と一緒に住んでいない児童について児童扶養手当を支給する」ということです。しかし、児童扶養手当法第4条1項が委任した児童扶養手当施行令1条の2第3号括弧書では、「父から認知された児童を除く。」となっていました。これは、「父と一緒に住んでいなくても、父から認知された児童は児童扶養手当支給の対象外とします」ということです。
児童扶養手当法(法律)が「父または母と生計を同じくしていない児童」と規定しているのに、委任を受けた児童扶養手当施行令(政令)が「父から認知された児童は除く。」としたのは、法の委任の趣旨に反しているため、法の委任の範囲を逸脱した違法な規定として無効とされました。
それでは過去問を見てみましょう。
児童扶養手当法の委任を受けて定められた同法施行令(政令)の規定において、支給対象となる婚姻外懐胎児童について「(父から認知された児童を除く。)」という括弧書きが設けられていることについては、憲法に違反するものでもなく、父の不存在を指標として児童扶養手当の支給対象となる児童の範囲を画することはそれなりに合理的なものともいえるから、それを設けたことは、政令制定者の裁量の範囲内に属するものであり、違憲、違法ではない。(令3-問10-4)
正解:☓
この問題に限りませんが、過去問は、特に誤りの選択肢についてどのようなところでどのくらいの深さの知識を聞いてくるかを確認するようにしましょう。
医薬品ネット販売の権利確認等請求事件
新施行規則のうち、店舗販売業者に対し、一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について、① 当該店舗において対面で販売させ又は授与させなければならないものとし、② 当該店舗内の情報提供を行う場所において情報の提供を対面により行わせなければならないものとし、③ 郵便等販売をしてはならないものとした各規定は、いずれも上記各医薬品に係る郵便等販売を一律に禁止することとなる限度において、新薬事法の趣旨に適合するものではなく、新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきである。
薬事法施行規則(新施行規則)のうち、郵便等販売を一律に禁止することとなる部分については、薬事法(新薬事法)の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効となるというものです。
こちらの判例についても補足します。「薬事法が医薬品の製造、販売等について各種の規制を設けているのは、医薬品が国民の生命及び健康を保持する上での必需品であることから、医薬品の安全性を確保し、不良医薬品による国民の生命、健康に対する侵害を防止するため」です(最判平7.6.23)。
そして、新薬事法成立(2009年)の前後を通じてインターネットを通じた郵便等販売に対する需要は相当程度存在し、郵便等販売を広範に制限することに反対する意見は少なからずありました。一般用医薬品の販売の方法として安全面で郵便等販売が対面販売より劣るということはなく、対面販売に限定する理由は乏しいということです。
さらに、憲法22条1項による保障は、狭義における職業選択の自由のみならず職業活動の自由の保障をも包含しているものと解されるところ、これまでは違法とされていなかった郵便等販売に対する新たな規制は、郵便等販売を事業の柱としてきた者の職業活動の自由を相当程度制約することは明らかです。
新薬事法の他の規定中にも、「店舗販売業者による一般用医薬品の販売又は授与やその際の情報提供の方法を原則として店舗における対面によるものに限るべきである」とか、「郵便等販売を規制すべきである」との趣旨を明確に示すものは存在しません。
したがって、新施行規則のうち、店舗販売業者に対し、一般用医薬品のうち第一類医薬品及び第二類医薬品について、郵便等販売を一律に禁止する部分は、新薬事法の趣旨に適合するものではなく、新薬事法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効になります。
②執行命令
執行命令とは、法律を実施するために必要な手続について定めるものをいいます。前述の委任命令とは異なり、新たに国民の権利義務を規制するわけではないので、法律による個別具体的な委任は必要ありません。
執行命令については、イメージがわきにくいと思うので補足します。たとえば、行政書士として実務で関わることが多い建設業には、「建設業法」という法律があります。建設業法では、どのようにして建設業の許可を得るかなどについて定められています。ただ、これだけでは手続面について不十分です。もう少しかんたんにいうと、「建設業を始めるには許可が必要」ということはわかったけれど、「どのような書類をいつまでにどこに提出するか」といった手続面を定める必要があるからです。
冒頭にもあるように、現代の行政活動は広範かつ専門的のため、細かいルールまですべて国会が作るとなると、かえって国民の利益になりません。そこで、建設業法を実施するために必要な手続については、行政機関(国土交通省)が「建設業法施行規則」という省令で規定しています。
具体例を見てみましょう。建設業法第5条では、「許可を受けようとする者は、国土交通省令で定めるところにより、次に掲げる事項を記載した許可申請書を提出しなければならない。」と規定しています。これを受けて、建設業法施行規則第2条では、「法第5条の許可申請書の添付書類のうち同条第1項第1号から第4号までに掲げるものの様式は、次に掲げるものとする。」として、具体的な添付書類を規定しています。これが、執行命令にあたります。
これを見ると、単に手続について定めているだけであって、新たに国民の権利義務を規制するわけではないので、法律による個別具体的な委任は必要ないということがわかると思います。
行政規則
行政規則とは、行政組織内部の命令をいいます。行政規則には、訓令・通達などがあります。
行政規則は、行政組織内部の命令であるため、法律による個別具体的な委任は必要ありません。ここで先ほどの執行命令も個別具体的な委任が不要とあったので整理しておきましょう。執行命令は、法律を実施するために必要な手続について定めているだけなので、個別具体的な委任は不要です。行政規則は、行政組織内部の命令であるため(国民が直接影響を受けない)、個別具体的な委任は不要です。
訓令・通達
訓令とは、上級行政機関が下級行政機関に対して指示するための命令です。訓令のうち、書面によるものを通達といいます。
通達に関しては、「墓地埋葬通達事件」の判例をチェックしておきましょう。
墓地埋葬通達事件
通達は、原則として、法規の性質をもつものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は右機関および職員に対する行政組織内部における命令にすぎないから、これらのものがその通達に拘束されることはあっても、一般の国民は直接これに拘束されるものではなく、このことは、通達の内容が、法令の解釈や取扱いに関するもので、国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものである場合においても別段異なるところはない。
このように、通達は、元来、法規の性質をもつものではないから、行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではない。
また、裁判所がこれらの通達に拘束されることのないことはもちろんで、裁判所は、法令の解釈適用にあたつては、通達に示された法令の解釈とは異なる独自の解釈をすることができ、通達に定める取扱いが法の趣旨に反するときは独自にその違法を判定することもできる筋合である。(略)
そして、現行法上行政訴訟において取消の訴の対象となりうるものは、国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的に法律上の影響を及ぼすような行政処分等でなければならないのであるから、本件通達中所論の趣旨部分の取消を求める本件訴は許されないものとして却下すべきものである。
墓地埋葬法13条は、「墓地、納骨堂又は火葬場の管理者は、埋葬、埋蔵、収蔵又は火葬の求めを受けたときは、正当の理由がなければこれを拒んではならない。」と定めています。同条の「正当の理由」について、厚生省(当時)の担当者が、従来の通達を変更し、依頼者が他の宗教団体の信者であることのみを理由として埋葬を拒否することは「正当の理由」によるものとは認められないという通達を発しました。そこで、宗教団体の経営する墓地の管理者がこの通達の取消しを求める訴えを提起しました。
判例は、通達は、法規の性質を持つものではなく、国民は直接これに拘束されるわけではないという理由から、通達の取消しを求める訴訟は許されないとしています。
この判例がまるまる総合問題として出題されているので確認しておきましょう。
墓地埋葬法13条は、「墓地、納骨堂又は火葬場の管理者は、埋葬、埋蔵、収蔵又は火葬の求めを受けたときは、正当の理由がなければこれを拒んではならない。」と定めているところ、同条の「正当の理由」について、厚生省(当時)の担当者が、従来の通達を変更し、依頼者が他の宗教団体の信者であることのみを理由として埋葬を拒否することは「正当の理由」によるものとは認められないという通達(以下「本件通達」という。)を発した。本件通達は、当時の制度の下で、主務大臣がその権限に基づき所掌事務について、知事をも含めた関係行政機関に対し、その職務権限の行使を指揮したものであるが、この通達の取消しを求める訴えに関する最高裁判所判決(最三小判昭和43年12月24日民集22巻13号3147頁)の内容として、妥当なものはどれか。
- 通達は、原則として、法規の性質をもつものであり、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職務権限の行使を指揮し、職務に関して命令するために発するものであって、本件通達もこれに該当する。
- 通達は、関係下級機関および職員に対する行政組織内部における命令であるが、その内容が、法令の解釈や取扱いに関するものであって、国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものである場合には、法規の性質を有することとなり、本件通達の場合もこれに該当する。
- 行政機関が通達の趣旨に反する処分をした場合においても、そのことを理由として、その処分の効力が左右されるものではなく、その点では本件通達の場合も同様である。
- 本件通達は従来とられていた法律の解釈や取扱いを変更するものであり、下級行政機関は当該通達に反する行為をすることはできないから、本件通達は、これを直接の根拠として墓地の経営者に対し新たに埋葬の受忍義務を課すものである。
- 取消訴訟の対象となりうるものは、国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的に法律上の影響を及ぼすような行政処分等でなければならないのであるから、本件通達の取消しを求める訴えは許されないものとして棄却されるべきものである。(令3-問25)
正解:3
補足:選択肢5の知識については(「棄却」ではなく「却下」)、行政立法の部分ではないので(行政事件訴訟法の分野)、ここでの言及は割愛します。