【行政裁量】要件裁量と効果裁量,裁量権の逸脱・濫用の判例等まとめ

行政法総論
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行政裁量とは,行政庁に認められた判断の余地のことをいいます。

法律による行政を徹底すると,すべての行政行為の要件・効果をあらかじめ法律で決めておく必要があります。しかし,現代の多様で専門的な問題に対応するためには,行政庁に裁量を持たせた方が妥当な場合があるため,行政裁量が認められています。

本試験対策としては,どのような裁量が認められるのか,そして裁量権の逸脱・濫用が争われた結果,違法と認められた判例を中心に押さえていきましょう。



行政裁量

行政裁量

行政裁量は,①法律要件を解釈し,それを具体的事例にあてはめる要件裁量,②法律要件が充足されると判断した場合,処分をするかどうか,処分をするならどのような処分をするかという効果裁量があります。また,いつ行うかという時の裁量もありますが,試験対策上割愛します。

要件裁量に関する判例:マクリーン事件

要件裁量に関する判例:マクリーン事件

「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」があるかどうかの判断における法務大臣の裁量権の範囲が広汎なものとされているのは当然のことである。

最判昭53.10.4

憲法でも有名な「マクリーン事件」です。「在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由」の判断基準が特に定められていないのは,法務大臣の裁量に任せられており,その裁量権の範囲が広範なものとされているとされました。

本試験では,この判例について,裁量権の範囲を超えるかが問われています。

外国人が在留期間中に日本で行った政治活動のなかに、わが国の出入国管理政策に対する非難行動あるいはわが国の基本的な外交政策を非難し日米間の友好関係に影響を及ぼすおそれがないとはいえないものが含まれていたとしても、それらは憲法の保障が及ぶ政治活動であり、このような活動の内容を慎重に吟味することなく、在留期間の更新を適当と認めるに足りる相当の理由があるものとはいえないと判断した法務大臣の判断は、考慮すべき事項を考慮しておらず、その結果、社会観念上著しく妥当を欠く処分をしたものであり、裁量権の範囲を越える違法なものとなる。

(平28-9-1)

正解:✕

効果裁量に関する判例:神戸税関事件

効果裁量に関する判例:神戸税関事件

公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきである。したがって、裁判所が右の処分の適否を審査するにあたっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と懲戒処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、懲戒権者の裁量権の行使に基づく処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべきものである。

最判昭52.12.20

神戸税関職員であったXらが,懲戒免職処分に対して,裁量権の逸脱などを主張したものです。判例は,「社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用したと認められる場合に限り違法であると判断すべき」としました。

本試験では,この判例について,どのような場合に違法であるかと判断すべきかが問われています。

裁判所が懲戒権者の裁量権の行使としてされた公務員に対する懲戒処分の適否を審査するに当たっては、懲戒権者と同一の立場に立って懲戒処分をすべきであったかどうか又はいかなる処分を選択すべきであったかについて判断し、その結果と処分とを比較してその軽重を論ずべきものではなく、それが社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したと認められる場合に限り、違法と判断すべきものである。

(平28-9-5)

正解:◯

裁量権の逸脱・濫用

裁量権の逸脱・濫用

行政庁の裁量処分が,裁量権の範囲を超えまたはその濫用があった場合,裁判所はその処分を取り消すことができます(行政事件訴訟法30条)。裁量審査をする方法としては,処分の結果という実体面に着目した実体的審査(基本書によって呼び方が異なります),処分にいたる判断の過程に着目した判断過程審査,手続き面に着目した手続審査があります。

本試験対策として,裁量権の逸脱・濫用が争われた事件は数多くありますが,違法と認められたものは少ないので,これらを優先的に押さえておくようにしましょう。

実体的審査

実体的審査

①事実誤認
②目的違反・動機違反
③信義則違反
④平等原則違反
⑤比例原則違反

①事実誤認

事実に誤認があれば,違法となります。

②目的違反・動機違反

法の趣旨・目的とは異なる目的や動機に基づいて処分された場合も違法となります。判例では,「余目町個室付浴場事件」を押さえておきましょう。

余目町個室付浴場事件

本件児童遊園設置認可処分は行政権の著しい濫用によるものとして違法であり、かつ、右認可処分とこれを前提としてされた本件営業停止処分によって被上告人が被った損害との間には相当因果関係があると解するのが相当である。

最判昭53.5.26

Aが,山形県余目町(あまるめまち・現在は合併し庄内町になっています)で個室付浴場(いわゆるソープランドです)を開業しようという計画をしていたところ,地元住民から反対運動が起こったため,山形県知事が同営業を阻止する目的で児童遊園設置認可処分をしました。最高裁は,児童遊園設置認可処分は行政権の著しい濫用によるものとして違法としました。

以下,参考として余目町の地図を掲載しておきます。

本試験では,この判例について問われています。違法とされた判例は少ないため,まずはこれらの判例の結論を覚えると,それ以外は違法ではないと判断できるようになります。それから,その他の判例であったり,判例の理由部分なども押さえていくと効率よく学習を進められます。

法の一般原則として権利濫用の禁止が行政上の法律関係において例外的に適用されることがあるとしても、その適用は慎重であるべきであるから、町からの申請に基づき知事がなした児童遊園設置認可処分が行政権の著しい濫用によるものであっても、それが、地域環境を守るという公益上の要請から生じたものである場合には、当該処分が違法とされることはない。

(令3-8-3)

正解:✕

③信義則違反

信義則違反が認められる場合,違法となります。

④平等原則違反

平等原則違反が認められる場合,違法となります。

⑤比例原則違反

比例原則違反が認められる場合,違法となります。もう少しかんたんにいうと,行政目的を達成するために必要な限度を超える処分をした場合に比例原則違反が認められるということです。

判断過程審査

判断過程審査

処分の結果だけでなく,判断の過程に着目して,考慮すべき事実を考慮しなかったり(考慮不尽),考慮すべきではない事実を考慮するなど(他事考慮),判断の過程が社会通念上著しく妥当性を欠くといえるときは,その裁量処分は違法となります。

判断過程審査については,「呉市中学校施設使用不許可事件」を押さえておきましょう。

呉市中学校施設使用不許可事件

学校施設の目的外使用を許可するか否かは,原則として,管理者の裁量にゆだねられているものと解するのが相当である。すなわち,学校教育上支障があれば使用を許可することができないことは明らかであるが,そのような支障がないからといって当然に許可しなくてはならないものではなく,行政財産である学校施設の目的及び用途と目的外使用の目的,態様等との関係に配慮した合理的な裁量判断により使用許可をしないこともできるものである。

裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては,その判断が裁量権の行使としてされたことを前提とした上で,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が,重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとすべきものと解するのが相当である。

本件中学校及びその周辺の学校や地域に混乱を招き,児童生徒に教育上悪影響を与え,学校教育に支障を来すことが予想されるとの理由で行われた本件不許可処分は,重視すべきでない考慮要素を重視するなど,考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており,他方,当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず,その結果,社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができる。

最判平18.2.7

学校施設の目的外使用を許可するかは,原則として,管理者の裁量にゆだねられているとしています。つまり,ここには裁量があるということです。

そして,裁量権の行使の審査においては,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が,重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限って,裁量権の逸脱又は濫用として違法となるとしています。

結論として,この事件では,重視すべきでない考慮要素を重視するなど,考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠いており,他方,当然考慮すべき事項を十分考慮しておらず,その結果,社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものということができるとして違法とされています。

本試験では,この判例について問われています。

学校施設の目的外使用を許可するか否かについては、原則として、管理者の裁量に委ねられており、学校教育上支障があれば使用を許可することができないことは明らかであるが、集会の開催を目的とする使用申請で、そのような支障がないものについては、集会の自由の保障の趣旨に鑑み、これを許可しなければならない。

(令3-9-オ)

正解:✕

この問題の難しいところは,判例の結論である「違法である」という部分ではなく,その途中が聞かれている点です。しかも,「管理者の裁量に委ねられており、学校教育上支障があれば使用を許可することができないことは明らかである」までは合っているのも厄介なところです。そして,「そのような支障がないものについては、集会の自由の保障の趣旨に鑑み、これを許可しなければならない」という部分が間違っているという構造になっています。

学習途中の方はもちろん,本試験レベルまで勉強した方でも,本試験の緊張した中で判断するのは勇気がいると思います。もっとも,本問題は「妥当な組み合わせ」を選ぶ問題になっているので,消去法を使えば正解できるようになっています。ただ,正解にたどり着くための,教科書検定の審査はともかく,水俣病の裁量もまた判断に困る方が多いと思います。やはり難問に感じます。

手続審査

手続審査

適正さを欠く手続によって処分がされると,それが理由で違法となります。

SOMEYA, M.

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東京都生まれ。沖縄県在住。主に行政書士試験対策について発信しているブログです。【好き】沖縄料理・ちゅらさん・Cocco・龍が如く3

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東京都生まれ。沖縄県在住。主に行政書士試験対策について発信しているブログです。【好きなもの】沖縄料理・ちゅらさん・Cocco・龍が如く3

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