会社法における株主総会等の決議不存在確認の訴え・決議無効確認の訴え・決議取消しの訴えについて整理します。「会社の組織に関する訴え」は、種類や数字が多く出てきますが、どのような種類があるのか、なぜそのようになっているのかを押さえると理解しやすくなります。
株主総会等の決議に関する訴え
会社の組織に関する訴えの全体像
株主総会等の決議に関する訴えを掘り下げる前に、全体像を見ておきましょう。
会社法>「第7編 雑則」>「第2章 訴訟」>「第1節 会社の組織に関する訴え」
「株主総会等の決議に関する訴え」は、会社の組織に関する訴えのひとつになります。会社の組織に関する訴えは他には以下のものがあります。
- 会社の組織に関する行為の無効の訴え(828条)
- 新株発行等の不存在の確認の訴え(829条)
- 株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え(830条)
- 株主総会等の決議の取消しの訴え(831条)
- 持分会社の設立の取消しの訴え(832条)
- 会社の解散の訴え(833条)
このうち、よく問われるのは828〜831条です。
参考までに書くと、「会社の組織に関する行為の無効の訴え」には、「会社の設立」「株式の発行」「新株予約権」「資本金の額の減少」「組織再編」などが含まれます(828条1項各号)。
法律関係の安定性の要請から(「会社ができたと思ったら無効になっちゃった…」「株式が発行されたのに無効になっちゃった…」など不安定にならないよう)、提訴期限が定められています。ここはひたすら暗記に走りやすいところなので、整理しておくとよいでしょう。
- 会社の設立の無効の訴え:2年以内
- 株式・新株予約権関係:6か月以内(非公開会社は1年以内)
- それ以外(組織再編など):6か月以内
株主総会等の決議に関する訴え
株主総会等の決議に関する訴えは、大きく2種類に分けられます。
- 株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え(830条)
- 株主総会等の決議の取消しの訴え(831条)
このうち、「株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え」を、
- 株主総会等の決議の不存在確認の訴え
- 株主総会等の決議の無効確認の訴え
に分けることもできます。
太文字にするとわかりやすいですが、「確認の訴え」と「取消しの訴え」です。これは字面の問題ですが、「無効の確認の/訴え」「決議の取消しの/訴え」と切ると理解しにくくなってしまうと思うので、あくまで「無効の/確認の訴え」「決議の/取消しの訴え」なんだと捉えるようにしましょう。
そうすれば、抗告訴訟の「取消の訴え」と「無効等確認の訴え」で訴訟期間が違うのと同じように理解しやすいと思います(無効等確認は瑕疵が大きいため「出訴期間」がなかったはずです)。
- 株主総会等の決議の不存在又は無効の確認の訴え:提訴期間なし
- 株主総会等の決議の取消しの訴え:3か月
「決議の取消しの訴え」は、3か月の提訴期間が設けられていますが、「無効の確認の訴え」は、提訴期間が設けられていないことがわかります(訴えの利益がある間は、いつでも提訴できる)。
先ほどの「会社の組織に関する行為の無効の訴え」(828条)と「新株発行等の不存在の確認の訴え」(829条)と混ざってしまいですが、今は「株主総会等の決議に関する訴え」(830条、831条)の話をしていることを忘れないようにしましょう。
決議不存在確認の訴え・決議無効確認の訴え
株主総会等(株主総会・種類株主総会・創立総会・種類創立総会)の決議が存在しない(開催されたとはいえない)ときは、決議不存在確認の訴えを起こすことができます(830条1項)。
株主総会等の決議の内容が法令に違反しているときは、決議無効確認の訴えを提起することができます(830条2項)。
前述のように、決議不存在確認の訴え・決議無効確認の訴えは「確認の訴え」なので、確認を求める正当な利益がある限り、誰でも、いつでも訴えを提起することができます。
株主総会等の決議取消しの訴え
取消事由
株主総会等の決議取消しの訴えは、次の場合に提起することができます(831条1項各号)。
- ①招集の手続きまたは決議の方法が法令・定款に違反し、または著しく不公正なとき。
- ②決議の内容が定款に違反するとき。
- ③特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がされたとき。
ここで、手続きや方法、内容、法令・定款などで混乱してしまいやすいので、整理しておきましょう。
招集の手続き 決議の方法 |
決議の内容 | |
法令違反 | 取消し | 無効 |
定款違反 | 取消し | 取消し |
招集の手続きや決議の方法(広義の手続き)が法令・定款に違反しているときは、「決議取消しの訴え」の対象になります。
一方、決議の内容が定款に違反しているときは(定款はあくまで会社の決まりごとなので)「決議取消しの訴え」の対象ですが、法令に違反しているときは「決議無効確認の訴え」の対象になります。言い換えると、瑕疵が大きいので提訴期間がなく、いつでも訴えを提起することができるということです。
提訴期間
決議取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提訴しなければなりません(831条1項)。
また、3か月以内に提訴した場合でも、訴えを提起した後、3か月経過後に別の新たな取消事由を追加主張することはできません(最判昭51年12月24日)。
裁量棄却
決議取消しの訴えの提起があった場合において、株主総会等の招集の手続または決議の方法が法令・定款に違反するときであっても、裁判所は、その違反する事実が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないものであると認めるときは、請求を棄却することができます(831条2項)。
手続き面に違反があっても、違反が重大でなく、決議に影響を及ぼさないのなら、仮に決議をやり直しても同じ結果になることが予想されるため、棄却できるということです。ここで大切なのは、棄却できるのは手続き面であり、決議の内容に違反があるときは裁量棄却はできません。
まとめ
最後に、もう一度まとめておきましょう。
招集の手続き 決議の方法 |
決議の内容 | |
法令違反 | 取消し (裁量棄却あり) |
無効 |
定款違反 | 取消し (裁量棄却あり) |
取消し (裁量棄却なし) |
ポイントは、以下のとおりです。
- 決議の内容に法令違反があるときは無効事由
- 手続き面で法令・定款違反があるときは裁量棄却あり