民法の総則の法律行為の意思表示から詐欺・強迫ついて学習します。
詐欺(1項)
詐欺または強迫による意思表示は、取り消すことができます。
第三者による詐欺(2項)
第三者が詐欺を行った場合、相手方が詐欺をしたわけではないので、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、取り消すことができます。相手方が悪意または有過失のときは、相手方を保護する必要性が下がると考えることができます。
第三者が詐欺を行った場合については、令和2年度の記述式問題でも出題されています。
Aは、Bとの間で、A所有の甲土地をBに売却する旨の契約(以下、「本件契約」という。)を締結したが、Aが本件契約を締結するに至ったのは、平素からAに恨みをもっているCが、Aに対し、甲土地の地中には戦時中に軍隊によって爆弾が埋められており、いつ爆発するかわからないといった嘘の事実を述べたことによる。Aは、その爆弾が埋められている事実をBに伝えた上で、甲土地を時価の 2 分の 1 程度でBに売却した。売買から 1 年後に、Cに騙されたことを知ったAは、本件契約に係る意思表示を取り消すことができるか。民法の規定に照らし、40字程度で記述しなさい。
※太文字はこちらで編集したものです。
「Bが詐欺の事実を知り、又は知ることができたときは、Aは、契約を取り消すことができる」といった内容のことを答えます。
記述式問題については、関連記事(動画)をご参照ください。
第三者保護(3項)
詐欺による意思表示の取消しは、善意無過失の第三者に対抗することができません。96条は、詐欺と強迫について規定しています。このうち、詐欺は本人(騙された人)にも落ち度があるので、善意無過失の第三者に対抗することができないの対して、強迫は本人(強迫された人)に落ち度がないため、第三者が善意無過失でも対抗することができます。つまり、第三者保護規定がないということです。
これまで、意思表示の欠陥がある場合について、心裡留保(93条)、虚偽表示(94条)、錯誤(95条)、そして詐欺又は強迫(96条)についてみてきました。このうち、心裡留保と虚偽表示は本人の帰責性が高いので、善意の第三者には対抗できません(93条2項、94条2項)。第三者に無過失が要求されないことに注意しましょう。一方、錯誤は、本人の帰責性が心裡留保や虚偽表示と比較して高くないため、善意無過失の第三者には対抗することができないとされています(95条4項)。
そして、今回学習した詐欺は、詐欺に遭っているため、帰責性は高くありません。もっとも、騙された本人にも落ち度があるため、善意無過失の第三者に対抗することができません(96条3項)。一方、強迫は、本人の帰責性がありません。噛み砕いて言うと、詐欺は「騙されなければよかったのに」と言えるのに対して、強迫は、「強迫されなければよかったのに」とはなりません。そのため、どのような第三者にでも対抗することができます。つまり、強迫は、第三者保護規定がないということです。
一見、丸暗記するしかないように見える意思表示ですが、本人にどのくらい非があるのか、また第三者をどのくらい保護する必要があるのか比較衡量して考えると、善意に加えて無過失を要求すべきか理解しやすくなります(法律は感情がある人間が作っているというのがよくわかります)。
第三者保護規定について、まとめておきます。
種類 | 第三者保護 |
心裡留保 | 善意 |
通謀虚偽表示 | 善意 |
錯誤 | 善意無過失 |
詐欺 | 善意無過失 |
強迫 | 保護されない |