記述式問題の解法や必要な知識について、令和2年度の記述式問題を題材にして学習します。
問題44 行政法
まず、何が問われているか確認しましょう。ここでは、「誰を被告として」「どのような行為を対象とする」「どのような訴訟を提起すべきか」答えることがわかります。
それでは、問題文を読んでみましょう。
Xは、本件換地処分は違法なものであるとして、取消しの訴えを提起しようとしましたが、出訴期間が経過しています。ここで使うのが、無効等確認の訴え(無効等確認訴訟)です。
まず、定義を確認しましょう。
ただ、行政書士試験の学習をしている方は、これだと理解が難しいと思います。
ここで、行政法総論で学習した行政行為についておさらいしましょう。
まず、行政処分は、それが違法であっても当然には無効とはならず、取り消されない限り、原則として有効と扱われます。これを「公定力」といいました。間違った課税処分がされたからといって、税金を払わないでよいわけではなく、それを取り消してもらわない限りは(一応)有効であるということです。
また、違法な処分を取り消すには、原則として「取消しの訴え」を提起する必要があります。これを「取消訴訟の排他的管轄」といいます(法律の定めによって先に審査請求が必要な場合もあります)。先ほど、無効等確認の訴えの定義で出てきた「処分若しくは裁決」となっていた処分がこの取消すべき処分です。そして、裁決は、何かの処分がされ、それに対して審査請求をして、その裁決に対して取消しの訴えを提起するものです。
しかし、取消しの訴えは出訴期間が設けられており、出訴期間が過ぎてしまった場合、国民の側からは処分の効力を争うことができなくなってしまいます。これを「不可争力」といいました。これでは、違法な処分がされたにもかかわらず泣き寝入りをしなければならないといったケースが出てきてしまいます。
そこで、登場するのが「無効等確認の訴え」です。
行政処分の瑕疵が大きい場合、それは無効で、取消しの訴えを提起しなくても効力を否定できると考えられています。これによって、取消しの訴えの出訴期間だけでなく、取消の訴えを提起する必要があるという問題もクリアできたことになります。そこで、文字通り「これは無効ですよね?」と「確認の訴え」を提起することで、違法な処分を受けた国民は救済されます。
このことから、無効等確認の訴えは、「時機に遅れた取消訴訟」ともいわれます(お願いしていることは取消しの訴えと同じだけれど、出訴期間がないということです)。
無効等確認の訴えは、このイメージを持っておくと、「出訴期間」がないということ、遅れて訴訟を提起できるため、要件が厳しめになっていて「補充性」が要求されるなどが理解しやすくなります。
無効等確認の訴えの原告適格を見てみましょう。
無効等確認の訴えは、①当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者、②その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないものが提起できます(条文の解釈は判例に従っています)。
今回の問題だと、Xは、本件換地処分の配分が違法だからやり直してほしいと思っています。このことから、②「その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者」であることがわかります。なお、換地とは、土地区画整理事業によって、従前の土地の代わりに交付される新しい土地のことです。Xは、この配分が違法であると主張しています。
発展的な知識ですが、「当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによって目的を達することができないもの」という補充性を満たしているかについて、本問が題材にしている判例は、「当該換地処分の無効を前提とする従前の土地の所有権確認訴訟等の現在の法律関係に関する訴えは右紛争を解決するための争訟形態として適切なものとはいえず、むしろ当該換地処分の無効確認を求める訴えのほうがより直截的で適切な争訟形態というべき」としています(最判昭62.4.17)。
民事訴訟法の知識がないと難しいのでかんたんにいうと、「目的を達することができない」とは、目的を達成するのが不能というわけではなく、無効等確認の訴えを提起した方が直截的、つまり、まわりくどくないということです。
本問に戻ると、「誰を被告として」は、被告適格が問われます。今回、換地処分をしたのは、土地区画整理組合(本件組合)です。
本件組合は、国又は公共団体に所属しないので、当該行政庁、「本件組合」を被告として提起します。
「どのような行為を対象とする」は、「本件換地処分を対象」とします。
「どのような訴訟」は、これまで見てきた「無効等確認の訴え」を選びます。
最後に、これまでの答えを設問の形式に沿うように、調整しましょう。
例:本件組合を被告として、本件換地処分を対象とする無効等確認の訴えを提起する。(37字)
問題45 民法
まず、何が問われているか確認しましょう。「Aは、本件契約にかかる意思表示を取り消すことができるか」となっています。
続いて、問題文を読んでいきましょう。
本問では、第三者(C)による詐欺がテーマとなります。
まず、詐欺による意思表示は、取り消すことができます。
ただ、今回は、詐欺を行ったのが第三者のため、相手方の取引の安定も保護する必要があります。
そこで、第三者が詐欺を行った場合、相手方がその事実を知り、または知ることができたときに限り、取り消すことができるとしています。本人と相手方が利益衡量されているのがわかります。
もう一点、本問では、「売買から1年後に、Cに騙されたことを知った」とあるので、期間にも注意する必要があります。
今回は、追認は出てきていないので、20年を経過していなければ、取り消すことができます。
最後に、問題の形式に沿って記述しましょう。
例:Bが詐欺の事実を知り、又は知ることができたときに限り、Aは、契約を取り消すことができる。(44文字)
問題46 民法
本問の設問は、「どのような理由に基づくものか」となっています。そして、「背信的悪意者の意義をふまえつつ、Dへの譲渡人Cが無権利者でない理由」を記述します。
それでは、問題文を頭から読んでいきましょう。
本問は、択一式で聞かれたら解けるけれど、記述するとなると難しく感じる方もいると思います。
まず、背信的悪意者は、「信義則上登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない者」であることがあげられます。「登記の欠缺」はあまり使われる言葉ではないので、「登記の不存在」でも問題ありません。そして、Dへの譲渡人Cが無権利者でない理由は、「AC間の売買は有効であるから」となります。
本問の題材となっている判例は、「所有者甲(A)から乙(B)が不動産を買い受け、その登記が未了の間に、丙(C)が当該不動産を甲(A)から二重に買い受け、更に丙(C)から転得者丁(D)が買い受けて登記を完了した場合に、たとい丙(C)が背信的悪意者に当たるとしても、丁(D)は、乙(B)に対する関係で丁自身が背信的悪意者と評価されるのでない限り、当該不動産の所有権取得をもって乙に対抗することができるものと解するのが相当である。」としています(最判平8.10.29)。
最後に、「背信的悪意者は」に続く形で記述しましょう。
例:信義則上登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない者であり、AC間の売買は有効であるから。(44文字)