ここまで,民法の債務不履行の種類について,履行遅滞や履行不能について見てきました。今回は債務不履行があったときはどのようになるのかについて見ていきます。
履行の強制
債務者が任意に債務の履行をしないときは,債権者は,民事執行法その他強制執行の手続に関する法令の規定に従い,直接強制,代替執行,間接強制その他の方法による履行の強制を裁判所に請求することができます(414条1項本文)。
行政書士試験では,直接強制などの具体的な方法については問われませんが,たとえば直接強制は,債務者の動産を取り上げるなどがあります。間接強制は,○○をしないときは一定の金額を命じるなどがあります。行政法の執行罰を想像するとわかりやすいと思います。
債務不履行による損害賠償
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときまたは債務の履行が不能であるときは,債権者は,これによって生じた損害の賠償を請求することができます(415条1項本文)。
いわゆる損害賠償請求です。おそらくもっとも有名だと思います。
ただし,その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,この限りではありません(415条1項但書)。
つまり,損害賠償請求ができないということです。
損害賠償の範囲
債務の不履行に対する損害賠償の請求は,これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とします(416条1項)。特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見すべきであったときは,債権者は,その賠償を請求することができます(416条2項)。
損害賠償できるのは,通常生ずべき損害の範囲です。また,これに加えて,特別の事情によって生じた損害であっても,当事者がその事情を予見すべきであったときは,賠償を請求することができます。
過失相殺
債務の不履行またはこれによる損害の発生もしくは拡大に関して債権者に過失があったときは,裁判所は,これを考慮して,損害賠償の責任及びその額を定めます(418条)。
もし,債権者に非がある場合は,裁判所が過失相殺をして,8対2のように損害賠償の責任とその額を定めるということです。
金銭債務の特則
金銭の給付を目的とする債務の不履行については,その損害賠償の額は,債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定めます(419条1項本文)。ただし,約定利率(やくじょうりりつ)が法定利率を超えるときは,約定利率によります(419条1項但書)。
少し細かいですが,本試験で出題されるので補足します。損害賠償は,原則,法定利率によって定めます。ただし,当事者が決めた約定利率が法定利率を超えるときは,約定利率になります。
また,金銭の給付の損害賠償については,債務者は,不可抗力をもって抗弁とすることができません(419条3項)。
損害賠償は,債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,請求することができませんでした。しかし,金銭の給付の損害賠償については,不可抗力だったといえないということです。電車が遅れてとかは言い訳にはならないということです。