令和3年に改正された民法のうち、令和5年度(2023年度)の各試験から出題範囲となる「所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令」「管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令」についてまとめます。詳しくは後述しますが、日本の課題となっている空き家対策や所有者不明土地等対策を解決するために作られたというのを意識すると学習がしやすくなります。
目次
はじめに全体像を見よう
「所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令」と「管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令」という漢字の多さにびっくりしてしまうので、はじめに全体像を見てみましょう。
これらは、「所有者が不明」「管理が不全」のときの取り扱いを規定した条文です。
- 所有者不明:264条の2〜264条の8
- 管理不全 :264条の9〜264条の14
管理不全が1つ少ないのは、「訴えの取扱い」が異なるためです(最後にまとめています)。
そして、それぞれ「土地」「建物」について規定しています。
所有者不明 | 管理不全 | |
土地 | 264条の2〜264条の7 | 264条の9〜264条の13 |
建物 | 264条の8 | 264条の14 |
建物がさっぱりしているのは、所有者不明については264条の8第5項、管理不全については264条の14第4項が土地の条文を準用しているからです。
これまでも、不在者財産管理制度(25条〜29条)がありましたが、これは「人」単位で財産を管理するものでした。わかりやすくいうと、不在者(住所又は居所を去った者)がいなければ、土地や建物を管理することができない(管理命令が出せない)ということです。
それが、改正によって、「土地」「建物」単位で管理できるようになりました。
そもそも、なぜ土地や建物単位で管理をする必要があるのでしょうか。それは、日本の課題となっている「空き家対策と所有者不明土地等対策」のためです。目的があって、そのために法が整備されていくのを見ると、一人の法律家として学習の意欲が湧いてきますよね。また、「なぜこのような法律を作る必要があるのか」という視点で見られるようになると、条文の理解も促進されます。
さて、全体像が見えたところで、それぞれについて見てみましょう。
所有者不明土地管理命令及び所有者不明建物管理命令
所有者が不明の土地は、管理がなされないおそれがあるため(周囲も危険です)、「所有者不明土地管理命令」「所有者不明建物管理命令」の条文が新設されました。
所有者不明土地管理命令
第264条の2
1 裁判所は、所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない土地について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、その請求に係る土地又は共有持分を対象として、所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分をすることができる。
2 所有者不明土地管理命令の効力は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地にある動産に及ぶ。
3 所有者不明土地管理命令は、所有者不明土地管理命令が発せられた後に当該所有者不明土地管理命令が取り消された場合において、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び当該所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産の管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産について、必要があると認めるときも、することができる。
4 裁判所は、所有者不明土地管理命令をする場合には、当該所有者不明土地管理命令において、所有者不明土地管理人を選任しなければならない。
裁判所は、所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない土地について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人による管理を命ずる処分をすることができます(264条の2)。
所有者不明土地管理人の権限
第264条の3
1 前条第4項の規定により所有者不明土地管理人が選任された場合には、所有者不明土地管理命令の対象とされた土地又は共有持分及び所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により所有者不明土地管理人が得た財産の管理及び処分をする権利は、所有者不明土地管理人に専属する。
2 所有者不明土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意の第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 所有者不明土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為
保存行為や利用行為、改良行為を超える行為をするときは裁判所の許可を得なければなりません(264条の3第1項)。これは、不在者財産管理人や権限の定めのない代理人と同様です(103条、28条)。
許可がないことについては、善意の第三者に対抗することができません(264条の3第2項但書)。この点、管理不全は善意無過失の第三者に対抗することができないとなっているので注意しましょう。
所有者不明土地等に関する訴えの取扱い
第264条の4
所有者不明土地管理命令が発せられた場合には、所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人を原告又は被告とする。
所有者不明土地等に関する訴えについては、所有者不明土地管理人が原告・被告になります。
一方、後述する管理不全土地等に関しては、訴えの取扱いがありません。つまり、管理不全土地等に関する訴えについては、所有者が原告・被告になるということです。
所有者が不明の場合は、原告・被告になるのが困難なので、所有者不明土地管理人が原告・被告になる、管理不全の場合は、所有者がわからないわけでないので(ただ管理が不全なだけなので)、所有者本人が原告・被告になると考えるとよいでしょう。
所有者不明土地管理人の義務
第264条の5
1 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
2 数人の者の共有持分を対象として所有者不明土地管理命令が発せられたときは、所有者不明土地管理人は、当該所有者不明土地管理命令の対象とされた共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
所有者不明土地管理人の解任及び辞任
第264条の6
1 所有者不明土地管理人がその任務に違反して所有者不明土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、所有者不明土地管理人を解任することができる。
2 所有者不明土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
後見人の解任と辞任と似た制度になっています(844条、846条)。
所有者不明土地管理人の報酬等
第264条の7
1 所有者不明土地管理人は、所有者不明土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
2 所有者不明土地管理人による所有者不明土地等の管理に必要な費用及び報酬は、所有者不明土地等の所有者の負担とする。
報酬について、不在者財産管理人と同様です(29条)。
所有者不明建物管理命令
所有者不明建物管理命令は、所有者不明土地管理命令を準用します(264条の8第5項)。
管理不全土地管理命令及び管理不全建物管理命令
管理不全土地管理命令は、所有者がわかっているため、ところどころが所有者不明と異なっています。
管理不全土地管理命令
第264条の9
1 裁判所は、所有者による土地の管理が不適当であることによって他人の権利又は法律上保護される利益が侵害され、又は侵害されるおそれがある場合において、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、当該土地を対象として、管理不全土地管理人による管理を命ずる処分をすることができる。
2 管理不全土地管理命令の効力は、当該管理不全土地管理命令の対象とされた土地にある動産に及ぶ。
3 裁判所は、管理不全土地管理命令をする場合には、当該管理不全土地管理命令において、管理不全土地管理人を選任しなければならない。
所有者不明土地管理命令が「所有者を知ることができず、又はその所在を知ることができない」であったのに対して、管理不全土地管理命令は「土地の管理が不適当」になっています。
管理不全土地管理人の権限
第264条の10
管理不全土地管理人は、管理不全土地管理命令の対象とされた土地及び管理不全土地管理命令の効力が及ぶ動産並びにその管理、処分その他の事由により管理不全土地管理人が得た財産の管理及び処分をする権限を有する。
2 管理不全土地管理人が次に掲げる行為の範囲を超える行為をするには、裁判所の許可を得なければならない。ただし、この許可がないことをもって善意でかつ過失がない第三者に対抗することはできない。
一 保存行為
二 管理不全土地等の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為3 管理不全土地管理命令の対象とされた土地の処分についての前項の許可をするには、その所有者の同意がなければならない。
保存行為等の範囲を超える行為についても、共通しています。
ただし、許可がないことについて、所有者不明が善意の第三者であったのに対し、管理不全は善意無過失の第三者に対抗することができない点が異なります。できる限り所有者に配慮すべきであることから、所有者不明土地管理人と比べて、管理不全土地管理人の権限が制限されているのがわかります。
管理不全土地管理人の義務
第264条の11
1 管理不全土地管理人は、管理不全土地等の所有者のために、善良な管理者の注意をもって、その権限を行使しなければならない。
2 管理不全土地等が数人の共有に属する場合には、管理不全土地管理人は、その共有持分を有する者全員のために、誠実かつ公平にその権限を行使しなければならない。
善良な管理者の注意についても、共通しています。
管理不全土地管理人の解任及び辞任
第264条の12
1 管理不全土地管理人がその任務に違反して管理不全土地等に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、利害関係人の請求により、管理不全土地管理人を解任することができる。
2 管理不全土地管理人は、正当な事由があるときは、裁判所の許可を得て、辞任することができる。
解任・辞任についても、共通しています。
管理不全土地管理人の報酬等
第264条の13
1 管理不全土地管理人は、管理不全土地等から裁判所が定める額の費用の前払及び報酬を受けることができる。
2 管理不全土地管理人による管理不全土地等の管理に必要な費用及び報酬は、管理不全土地等の所有者の負担とする。
報酬についても、共通しています。
管理不全建物管理命令
管理不全建物管理命令は、管理不全土地管理命令を準用します(264条の14第4項)。
まとめ
最後にまとめておきましょう。「◯」は条文で規定されているものです。
所有者不明 | 管理不全 | |
管理命令 | ◯ (264条の2) |
◯ (264条の9) |
管理人の権限 | ◯ 善意の第三者 (264条の3) |
◯ 善意無過失の第三者 (264条の10) |
訴えの取扱い | ◯ 管理人 (264条の4) |
× 本人 |
管理人の義務 | ◯ (264条の5) |
◯ (264条の11) |
解任・辞任 | ◯ (264条の6) |
◯ (264条の12) |
報酬等 | ◯ (264条の7) |
◯ (264条の13) |
建物の準用 | ◯ (264条の8) |
◯ (264条の14) |
管理人の権限について、裁判所の許可がないことをもって、所有者不明は善意の第三者に対抗することができないのに対して、管理不全は善意無過失の第三者に対抗することができません。
訴えの取扱いは、所有者不明の場合は管理人が原告・被告となりますが、管理不全の場合は所有者本人が原告・被告となります。
本制度で異なる部分なので、押さえておきましょう。