健康保険法の日雇特例被保険者に関する特例について学習します。
まず、定義について確認しておきましょう。
この法律において「日雇労働者」とは、次の各号のいずれかに該当する者をいう(3条8項)。
① 臨時に使用される者であって、次に掲げるもの(同一の事業所において、イに掲げる者にあっては1月を超え、ロに掲げる者にあってはロに掲げる定めた期間を超え、引き続き使用されるに至った場合(所在地の一定しない事業所において引き続き使用されるに至った場合を除く。)を除く。)
イ 日々雇い入れられる者
ロ 2月以内の期間を定めて使用される者であって、当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれないもの
② 季節的業務に使用される者(継続して4月を超えて使用されるべき場合を除く。)
③ 臨時的事業の事業所に使用される者(継続して6月を超えて使用されるべき場合を除く。)
これらの者を日雇労働者といいます。
この法律において「日雇特例被保険者」とは、適用事業所に使用される日雇労働者をいう。ただし、後期高齢者医療の被保険者等である者又は次の各号のいずれかに該当する者として厚生労働大臣の承認を受けたものは、この限りでない(3条2項)。
① 適用事業所において、引き続く2月間に通算して26日以上使用される見込みのないことが明らかであるとき。
② 任意継続被保険者であるとき。
③ その他特別の理由があるとき。
日雇労働者のうち、適用事業所に使用される日雇労働者を日雇特例被保険者とします。ただし、1号から3号に該当する者として厚生労働大臣の承認を受けたものは、この限りでない、つまり、日雇特例被保険者にはならないということです。これらを前提に条文を見ていきましょう。
目次
第1節 日雇特例被保険者の保険の保険者
日雇特例被保険者の保険の保険者
日雇特例被保険者の保険の保険者は、協会とする(123条1項)。
日雇特例被保険者の保険の保険者の業務のうち、日雇特例被保険者手帳の交付、日雇特例被保険者に係る保険料の徴収及び日雇拠出金の徴収並びにこれらに附帯する業務は、厚生労働大臣が行う(123条2項)。
日雇特例被保険者の保険の保険者は、協会とします。
第2節 標準賃金日額等
※省略
第3節 日雇特例被保険者に係る保険給付
保険給付の種類
日雇特例被保険者(日雇特例被保険者であった者を含む。以下この節において同じ。)に係るこの法律による保険給付は、次のとおりとする(127条)。
① 療養の給付並びに入院時食事療養費、入院時生活療養費、保険外併用療養費、療養費、訪問看護療養費及び移送費の支給
② 傷病手当金の支給
③ 埋葬料の支給
④ 出産育児一時金の支給
⑤ 出産手当金の支給
⑥ 家族療養費、家族訪問看護療養費及び家族移送費の支給
⑦ 家族埋葬料の支給
⑧ 家族出産育児一時金の支給
⑨ 特別療養費の支給
⑩ 高額療養費及び高額介護合算療養費の支給
日雇特例被保険者に係る保険給付は、特別療養費の支給以外、一般被保険者に対するものと同じです。
療養の給付
日雇特例被保険者の疾病又は負傷に関しては、療養の給付を行う(129条1項)。
日雇特例被保険者が療養の給付を受けるには、これを受ける日において次の各号のいずれかに該当していなければならない(129条2項)。
① 当該日の属する月の前2月間に通算して26日分以上又は当該日の属する月の前6月間に通算して78日分以上の保険料が、その日雇特例被保険者について、納付されていること。
② 前号に該当することにより当該疾病又は負傷につき受けた療養の給付の開始の日から1年を経過していないこと
日雇特例被保険者は、前2月間に通算して26日分以上、前6月間に通算して78日分以上の保険料というのが基本になります。26日を3倍すれば78日になるので、2月間に26日というのをおさえておきましょう。
傷病手当金
日雇特例被保険者が療養の給付を受けている場合において、その療養のため労務に服することができないときは、その労務に服することができなくなった日から起算して3日を経過した日から労務に服することができない期間、傷病手当金を支給する(135条1項)。
傷病手当金の額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、1日につき、当該各号に定める金額とする。ただし、次の各号のいずれにも該当するときは、いずれか高い金額とする。
① 当該日雇特例被保険者について、その者が初めて当該療養の給付を受けた日の属する月の前2月間に通算して26日分以上の保険料が納付されている場合 当該期間において保険料が納付された日に係るその者の標準賃金日額の各月ごとの合算額のうち最大のものの45分の1に相当する金額
② 当該日雇特例被保険者について、その者が初めて当該療養の給付を受けた日の属する月の前6月間に通算して78日分以上の保険料が納付されている場合 当該期間において保険料が納付された日に係るその者の標準賃金日額の各月ごとの合算額のうち最大のものの45分の1に相当する金額
日雇特例被保険者に係る傷病手当金の支給期間は、同一の疾病又は負傷及びこれにより発した疾病に関しては、その支給を始めた日から起算して6月を超えないものとする(135条3項)。
傷病手当金の待機期間は、一般被保険者と同じです。金額は、各月ごとの合算額、1号の場合、たとえば4月と5月ごとの合算額のうち、最大のものの45分の1に相当する額となります。1箇月のお給料を30で割ると1日あたりのお給料がわかります。これの3分の2の金額が傷病手当金ということです。この計算を合わせると45分の1になります(合算額のうち最大のもの÷30✕2/3)。
また、日雇特例被保険者に係る傷病手当金の支給期間は、支給を始めた日から起算して6月を超えないものとします。一般被保険者の傷病手当金が「通算して1年6月間」であったことと比較しておきましょう。
出産育児一時金
出産育児一時金は、その出産の日の属する月の前4月間に通算して26日となっている点に注意しましょう。これは、出産の日前2月間だと働くことができないのを考えるとわかりやすいと思います。
出産手当金
出産育児一時金の支給を受けることができる日雇特例被保険者には、出産の日(出産の日が出産の予定日後であるときは、出産の予定日)以前42日(多胎妊娠の場合においては、98日)から出産の日後56日までの間において労務に服さなかった期間、出産手当金を支給する(138条1項)。
出産手当金の額は、1日につき、出産の日の属する月の前4月間の保険料が納付された日に係る当該日雇特例被保険者の標準賃金日額の各月ごとの合算額のうち最大のものの45分の1に相当する金額とする(138条2項)。
一般被保険者と同様のことが規定されています。また、出産手当金の額については、傷病手当金と同じように考えることができます。
家族埋葬料
日雇特例被保険者の被扶養者が死亡したときは、日雇特例被保険者に対し、家族埋葬料を支給する(143条1項)。
日雇特例被保険者が家族埋葬料の支給を受けるには、死亡の日の属する月の前2月間に通算して26日分以上又は当該月の前6月間に通算して78日分以上の保険料が、その日雇特例被保険者について、納付されていなければならない(143条2項)。
家族埋葬料の額は、第103条の政令で定める金額[5万円]とする(143条3項)。
出産や埋葬など、人の誕生や死に関わるところは、一般被保険者でも日雇労働者でも同じように考えていることがわかります。
家族出産育児一時金
日雇特例被保険者の被扶養者が出産したときは、日雇特例被保険者に対し、家族出産育児一時金を支給する(144条1項)。
日雇特例被保険者が家族出産育児一時金の支給を受けるには、出産の日の属する月の前2月間に通算して26日分以上又は当該月の前6月間に通算して78日分以上の保険料が、その日雇特例被保険者について、納付されていなければならない(144条2項)。
家族出産育児一時金の額は、第101条の政令で定める金額[48万8000円]とする(144条3項)。
先ほどは、日雇特例被保険者本人が出産する場合についてでした。今回は、日雇特例被保険者の被扶養者が出産したときの場合です。この場合、日雇特例被保険者自身が出産するわけではないので、原則通り、出産の日の属する月の前2月間に通算して26日分以上又は当該月の前6月間に通算して78日分以上となります。先ほどは、出産の日の属する月の前4月間に通算して26日分以上となっていたことと比較しておきましょう。
特別療養費
次の各号のいずれかに該当する日雇特例被保険者でその該当するに至った日の属する月の初日から起算して3月(月の初日に該当するに至った者については、2月。)を経過しないもの又はその被扶養者が、特別療養費受給票を病院若しくは診療所若しくは薬局のうち自己の選定するものに提出して、そのものから療養を受けたとき、又は特別療養費受給票を指定訪問看護事業者のうち自己の選定するものに提出して、そのものから指定訪問看護を受けたときは、日雇特例被保険者に対し、その療養又は指定訪問看護に要した費用について、特別療養費を支給する(145条1項)。
① 初めて日雇特例被保険者手帳の交付を受けた者
② 1月間若しくは継続する2月間に通算して26日分以上又は継続する3月ないし6月間に通算して78日分以上の保険料が納付されるに至った月において日雇特例被保険者手帳に健康保険印紙をはり付けるべき余白がなくなり、又はその月の翌月中に日雇特例被保険者手帳を返納した後、初めて日雇特例被保険者手帳の交付を受けた者
③ 前に交付を受けた日雇特例被保険者手帳に健康保険印紙をはり付けるべき余白がなくなった日又はその日雇特例被保険者手帳を返納した日から起算して1年以上を経過した後に日雇特例被保険者手帳の交付を受けた者
特例被保険者が、保険給付を受けるには、原則として2月間に26日といった条件がありました。しかし、初めて日雇特例被保険者手帳の交付を受けた者などの場合、2月間に26日の条件を満たせないことが想定できます。そこで、このような場合は、特別療養費を支給します。
「その該当するに至った日の属する月の初日から起算して3月を経過しないもの」というのは、たとえば、4月15日に初めて日雇特例被保険者手帳の交付を受けた者の場合、4月、5月、6月までが対象になるということです。また、カッコ書きにあるように「月の初日に該当するに至った者については、2月。」、つまり、4月1日に初めて日雇特例被保険者手帳の交付を受けた者の場合、4月、5月までが対象になるということです。月の初日から2箇月が原則であり、月の途中に該当するに至っても、丸2箇月分は余裕を見てくれていると考えるとわかりやすいと思います。
特別療養費の額は、病院若しくは診療所又は薬局から受けた療養については当該療養につき算定された費用の額の100分の70に相当する額とする(145条2項1号)。
第1項の療養を受ける者が6歳に達する日以後の最初の3月31日以前である場合における前項の規定の適用については、同項第1号中「100分の70」とあるのは、「100分の80」とする(145条3項)。
第1項の療養を受ける者(第149条において準用する第74条第1項第3号に掲げる場合に該当する被保険者若しくはその被扶養者又は政令で定める被保険者の被扶養者を除く。)が70歳に達する日の属する月の翌月以後である場合における第2項の規定の適用については、同項第1号中「100分の70」とあるのは、「100分の80」とする(145条4項)。
特別療養費の額は、療養の給付と同じように、原則100分の70、6歳未満70歳以上は100分の80になります。4項が読みにくいですが、一般被保険者のときと同じように収入が多い場合です。一般被保険者のところで理解していれば問題ありません。
特別療養費については、制度を細かく覚えるというより、「2月間に26日」という要件を満たせない方のために特別療養費を支給してくれる制度があるという点をおさえておきましょう。