徴収法の労働保険料の納付の手続等について解説します。労働保険料の納付の手続等は、徴収法の中心となる部分です。一度で理解しようとするのではなく、繰り返し学習するようにしましょう。
目次
労働保険料
政府は、労働保険の事業に要する費用にあてるため保険料を徴収する(10条1項)。
労働保険料は、次のとおりとする(10条2項)。
① 一般保険料
② 第1種特別加入保険料
③ 第2種特別加入保険料
③の② 第3種特別加入保険料
④ 印紙保険料
⑤ 特例納付保険料
特別加入保険料は、労災法のところに出てきたので、確認しておきましょう。特例納付保険料はこのあとに出てきます。
一般保険料の額
一般保険料の額は、賃金総額に一般保険料に係る保険料率を乗じて得た額とする(11条1項)。
「賃金総額」とは、事業主がその事業に使用するすべての労働者に支払う賃金の総額をいう(11条2項)。
厚生労働省令で定める事業については、厚生労働省令で定めるところにより算定した額を当該事業に係る賃金総額とする(11条3項)。
一般保険料の額は、原則として、賃金総額に一般保険料に係る保険料率を乗じて得た額になります。
3項について、
厚生労働省令で定める事業は、労災保険に係る保険関係が成立している事業のうち次の各号に掲げる事業であって、同条第1項の賃金総額を正確に算定することが困難なものとする(規則12条)。
① 請負による建設の事業
② 立木の伐採の事業
③ 造林の事業、木炭又は薪を生産する事業その他の林業の事業(立木の伐採の事業を除く。)
④ 水産動植物の採捕又は養殖の事業
厚生労働省令で定める事業は、各号に掲げる事業であって、賃金総額を正確に算定することが困難なものが対象です。各号の事業であっても、ただちに対象となるわけではなく、「賃金総額を正確に算定することが困難なもの」であることが必要な点に注意しましょう。
一般保険料に係る保険料率
一般保険料に係る保険料率は、次のとおりとする(12条1項各号)。
① 労災保険及び雇用保険に係る保険関係が成立している事業にあっては、労災保険率と雇用保険率とを加えた率
② 労災保険に係る保険関係のみが成立している事業にあっては、労災保険率
③雇用保険に係る保険関係のみが成立している事業にあっては、雇用保険率
条文だと難しくみえますが、①労災保険と雇用保険の両方が成立しているもの、②労災保険のみ成立しているもの、③雇用保険のみ成立しているものということです。
労災保険料率そのものが問われることは少ないですが、イメージできた方がよいと思うので、厚生労働省のホームページにある「令和6年度の労災保険率について」を見てみましょう。
厚生労働大臣は、連続する3保険年度中の各保険年度において次の各号のいずれかに該当する事業であって当該連続する3保険年度中の最後の保険年度に属する3月31日(以下この項において「基準日」という。)において労災保険に係る保険関係が成立した後3年以上経過したものについての当該連続する3保険年度の間における業務災害に関する保険給付の額等に厚生労働省令で定める率を乗じて得た額との割合が100分の85を超え、又は100分の75以下である場合には、当該事業についての前項の規定による労災保険率から非業務災害率を減じた率を100分の40の範囲内において厚生労働省令で定める率だけ引き上げ又は引き下げた率に非業務災害率を加えた率を、当該事業についての基準日の属する保険年度の次の次の保険年度の労災保険率とすることができる(12条3項、規則17条)。
①100人以上の労働者を使用する事業
②20人以上100人未満の労働者を使用する事業であって、当該労働者の数に当該事業と同種の事業に係る労災保険率から非業務災害率を減じた率を乗じて得た数が厚生労働省令で定める数[0.4]以上であるもの
③前2号に掲げる事業のほか、厚生労働省令で定める規模の事業[建設の事業及び立木の伐採の事業について当該保険年度の確定保険料の額が40万円以上であること]
これは、メリット制と呼ばれるものです。基本書によっては、徴収法の後半部分に書かれているかもしれませんが、条文では12条3項に入っています。
条文が複雑に見えるので、整理しましょう。
まず、対象となるのは1号から3号に該当する事業です。
1号について、100人以上の労働者を使用する事業、つまり、この制度は、ある程度の規模を持った事業が対象とされていることがわかります。
2号について、20人以上100人未満で、労働者の数に労災保険率から非業務災害率を減じた率を乗じて得た数、つまり業務災害率を乗じて得た数が0.4以上であるものです。これは、100人以上の規模ではないけれど、業務災害率がある程度高い事業が対象になるという点をおさえておきましょう。
3号について、建設の事業と立木の伐採の事業で当該保険年度の確定保険料の額が40万円以上であるものが対象となります。
ここまでで対象の事業が整理できました。
そして、連続する3保険年度の間における業務災害に関する保険給付の額等に厚生労働省令で定める率を乗じて得た額との割合が100分の85を超え、又は100分の75以下である場合に、労災保険率から非業務災害率を減じた率(業務災害にあたる率)を100分の40の範囲内の率だけ引き上げまたは引き下げた率に非業務災害率を加えた率を次の次の保険年度の労災保険率とします。
かんたんにいうと、連続する3保険年度の業務災害に関する保険給付の一定の割合が100分の85を超えたら、業務災害が多く起きているということなので、次の次の保険年度から100分の40引き上げ、100分の75以下である場合は、業務災害が少ないので、100分の40引き下げるということです。
こうすることによって、業務災害を減らすのが目的です。厚生労働省は、メリット制の趣旨として、次のように述べています。
事業の種類ごとに災害率等に応じて定められている労災保険率を個別事業に適用する際、事業の種類が同一であっても作業工程、機械設備あるいは作業環境の良否、事業主の災害防止努力の如何等により事業ごとの災害率に差があるため、事業主負担の公平性の観点から、さらに、事業主の災害防止努力をより一層促進する観点から、当該事業の災害の多寡に応じ、労災保険率又は労災保険料を上げ下げするものである。
最後の部分を整理しましょう。労災保険率から非業務災害率を減じた額、つまり残った部分は業務災害率にあたる部分になります。ここに100分の40を引き上げまたは引き下げると業務災害の部分が計算できます。あとは、ここに先ほど引いた非業務災害率を足すことによって、労災保険料が計算できるということです。
令2-9-D
メリット制は、基本書等で規則の細かい部分にとらわれて全体を見失ってしまいやすい部分です。事業主負担の公平性の観点や、事業主の災害防止努力を促進するために、保険料を上げ下げする仕組みがあるという点をおさえておきましょう。
雇用保険率は、1000分の16.5とする。ただし、次の各号(第3号を除く。)に掲げる事業については1000分の18.5とし、第3号に掲げる事業については1000分の19.5とする(12条4項各号)。【改正】
① 土地の耕作若しくは開墾又は植物の栽植、栽培、採取若しくは伐採の事業その他農林の事業
② 動物の飼育又は水産動植物の採捕若しくは養殖の事業その他畜産、養蚕又は水産の事業
③ 土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体又はその準備の事業
④ 清酒の製造の事業
⑤ 前各号に掲げるもののほか、短期雇用特例被保険者の雇用の状況等を考慮して政令で定める事業
雇用保険率は、法律で定められています。条文がややこしいので整理しましょう。
- 原則:1000分の16.5
- 3号以外(農林水産、清酒製造等):1000分の18.5
- 3号(建設等):1000分の19.5
労災保険率の特例
前条第3項の場合、つまりメリット制の場合です。かなり細かい部分なので、かんたんにいうと、一定の数以下の労働者を使用する事業主が、使用する労働者の安全や衛生を確保するための一定の措置を講じたときは、100分の40ではなく、100分の45となるということです。理論上、100分の45引き上げられる可能性はありますが、事業主が積極的に安全や衛生を確保する措置を講じているので、基本的には100分の45引き下げてもらえる制度があるという点をおさえておきましょう。仮に、100分の45引き上げに該当してしまった場合は、申告書を提出しなければ100分の40のままになります。
第1種特別加入保険料の額
※解説
※解説
別表4
令5-8-A
第2種特別加入保険料の額
第3種特別加入保険料の額
令5-8-E
概算保険料の納付
事業主は、保険年度ごとに、概算保険料を、その労働保険料の額その他厚生労働省令で定める事項を記載した申告書に添えて、その保険年度の6月1日から40日以内(保険年度の中途に保険関係が成立したものについては、当該保険関係が成立した日から50日以内)に納付しなければならない(15条1項)。
有期事業については、その事業主は、概算保険料を、その労働保険料の額その他厚生労働省令で定める事項を記載した申告書に添えて、保険関係が成立した日から20日以内に納付しなければならない(15条2項)。
政府は、事業主が申告書を提出しないとき、又はその申告書の記載に誤りがあると認めるときは、労働保険料の額を決定し、これを事業主に通知する(15条3項)。
通知を受けた事業主は、納付した労働保険料の額が同項の規定により政府の決定した労働保険料の額に足りないときはその不足額を、納付した労働保険料がないときは同項の規定により政府の決定した労働保険料を、その通知を受けた日から15日以内に納付しなければならない(15条4項)。
ここから具体的な保険料の納付の手続きがはじまります。
事業主は、保険年度ごとに、概算保険料を、その保険年度の6月1日から40日以内に納付します。この1年間に大体このくらいの保険料になりますという保険料を納付するということです。保険年度の中途に保険関係が成立したものについては、保険関係が成立した日から50日以内となっています。
有期事業は、事業が終わってしまう可能性があるので、20日以内と期限が短くなっています。
概算保険料申告書、増加概算保険料申告書並びに確定保険料申告書は、所轄都道府県労働局歳入徴収官に提出しなければならない(規則38条1項)。
前項の規定による申告書の提出は、次の区分に従い、日本銀行、年金事務所、所轄労働基準監督署長又は所轄公共職業安定所長を経由して行うことができる(規則38条2項)。
令元-9-D
事業主が申告書を提出しないとき、申告書の記載に誤りがあると認めるときは、政府が、労働保険料の額を決定し、事業主に通知します。通知を受けた事業主は、政府の決定した労働保険料を、通知を受けた日から15日以内に納付しなければなりません。
増加概算保険料の納付
まず、要件を見ておきましょう。
徴収法は、労働保険の事業の効率的な運営を図るため、基本的には1回の概算保険料の納付で済ませたいのが本音です。しかし、見込額の100分の200、つまり概算保険料の2倍を超え、かつ、その差額が13万円以上のときは、要件に該当した日から30日以内に差額を納付しなければならないとしています。
概算保険料の追加徴収
政府は、一般保険料率、第1種特別加入保険料率、第2種特別加入保険料率又は第3種特別加入保険料率の引上げを行ったときは、労働保険料を追加徴収する(17条1項)。
政府は、前項の規定により労働保険料を追加徴収する場合には、厚生労働省令で定めるところにより、事業主に対して、期限[通知を発する日から起算して30日を経過した日]を指定して、その納付すべき労働保険料の額を通知しなければならない(17条2項、規則26条)。
保険料の引上げを行ったときは、労働保険料を追加徴収します。
概算保険料の延納
1年分の概算保険料をまとめて納付するのが困難な場合もあるので、延納が認められています。
延納の方法は、規則によって定められていますが、本試験で頻出のため解説します。
有期事業以外の事業であって納付すべき概算保険料の額が40万円(労災保険に係る保険関係又は雇用保険に係る保険関係のみが成立している事業については、20万円)以上のもの又は当該事業に係る労働保険事務の処理が労働保険事務組合に委託されているもの(当該保険年度において10月1日以降に保険関係が成立したものを除く。)についての事業主は、延納の申請をした場合には、その概算保険料を、4月1日から7月31日まで、8月1日から11月30日まで及び12月1日から翌年3月31日までの各期(当該保険年度において、4月1日から5月31日までに保険関係が成立した事業については保険関係成立の日から7月31日までを、6月1日から9月30日までに保険関係が成立した事業については保険関係成立の日から11月30日までを最初の期とする。)に分けて納付することができる(規則27条1項)。
延納をする事業主は、その概算保険料の額を期の数で除して得た額を各期分の概算保険料として、最初の期分の概算保険料についてはその保険年度の6月1日から起算して40日以内(当該保険年度において4月1日から9月30日までに保険関係が成立したものについての最初の期分の概算保険料は、保険関係成立の日の翌日から起算して50日以内)に、8月1日から11月30日までの期分の概算保険料については10月31日(当該事業に係る労働保険事務の処理が労働保険事務組合に委託されているものについての事業主に係る概算保険料(以下この項において「委託に係る概算保険料」という。)については11月14日)までに、12月1日から翌年3月31日までの期分の概算保険料については翌年1月31日(委託に係る概算保険料については翌年2月14日)までに、それぞれ納付しなければならない(規則27条2項)。
条文が読みにくいので整理しましょう。
まず、有期事業以外の事業について、概算保険料の額が40万円以上のもの、または労働保険事務の処理が労働保険事務組合に委託されているものが対象です。概算保険料の額については、労災保険または雇用保険のみが成立している事業については、20万円以上となっています。つまり、ひとつあたり20万円と考えるとわかりやすいと思います。
「10月1日以降に保険関係が成立したものを除く。」となっているのは、4月1日から半年以上経過しているので、半年分以下の概算保険料は延納しないで納付してくださいということです。
延納の申請をした場合、概算保険料を、①4月1日から7月31日まで、②8月1日から11月30日まで、③12月1日から翌年3月31日までの3回に分けて納付することができます。
ただ、4月1日から5月31日までに保険関係が成立した事業については保険関係成立の日から7月31日までを最初の期とする、つまり通常通り3回に分けて納付することができますが、6月1日から9月30日までに保険関係が成立した事業については保険関係成立の日から11月30日までを最初の期とする、つまり、2回に分けて納付する形になっています。なお、10月以降はどうなるかというと、括弧書きにあったように、延納の対象とならず、1回で納付することになります。ここまでが1項です。
次に、延納をする事業主は、概算保険料の額を期の数で除して得た額、つまり3回に分けて納付するなら概算保険料を3で除して得た額を、最初の期分の概算保険料についてはその保険年度の6月1日から起算して40日以内に納付します。これは通常の概算保険料の納付期限と同じであることがわかります。そして、8月1日から11月30日までの期分の概算保険料については10月31日まで、12月1日から翌年3月31日までの期分の概算保険料については翌年1月31日までに納付します。また、当該保険年度において4月1日から9月30日までに保険関係が成立したものについての最初の期分の概算保険料は、保険関係成立の日の翌日から起算して50日以内に納付します。これも通常の概算保険料と同様です。繰り返し、9月30日までとなっているのは、10月1日以降は延納の対象外だからです。
ここで、委託に係る概算保険料については、2回目が11月14日まで、3回目が2月14日までと、納期が14日後ろにズレているので注意しましょう。
ここまでが有期事業以外のものです。
ここから有期事業です。先ほどの有期事業以外のものを原則として、有期事業はどのように違うかを意識していきましょう。
まず、有期事業について、概算保険料の額が75万円以上のもの、または労働保険事務の処理が労働保険事務組合に委託されているものが対象です。概算保険料の額が高くなっている点に注意しましょう。
事業の全期間が6月以内のものは対象外になります。有期事業以外の事業と条文の表現が異なりますが、10月1日以降に保険関係が成立したものも、その年度は6月以内なので、同じ概念であることがわかります。つまり、有期事業の全期間が6月以内なら、延納しないで納付してくださいということです。
延納の申請をした場合、概算保険料を、①4月1日から7月31日まで、②8月1日から11月30日まで、③12月1日から翌年3月31日までの3回に分けて納付することができる点は同じです。
概算保険料の納付の概念は、有期事業以外の事業と同じです。気をつけたいのは、最初の期分の概算保険料については、保険関係成立の日の翌日から起算して20日以内になっている点です。ただ、有期事業は、延納しない場合も20日なので、同じように考えることができます。
そして、4月1日から7月31日までの期分の概算保険料については3月31日までとなっています。有期事業以外の事業は、6月30日となっていたので、比較しておきましょう。
他、認定決定による概算保険料や増加概算保険料、保険料率の引上げによる概算保険料の増加額についても、概算保険料であることには変わらないので、延納が認められています。
確定保険料
事業主は、保険年度ごとに、確定保険料の額その他厚生労働省令で定める事項を記載した申告書を、次の保険年度の6月1日から40日以内(保険年度の中途に保険関係が消滅したものについては、当該保険関係が消滅した日から50日以内)に提出しなければならない(19条1項)。
有期事業については、その事業主は、確定保険料の額その他厚生労働省令で定める事項を記載した申告書を、保険関係が消滅した日から50日以内に提出しなければならない(19条2項)。
事業主は、納付した労働保険料の額が確定保険料の額に足りないときはその不足額を、納付した確定保険料がないときは確定保険料を、申告書に添えて、有期事業以外の事業にあっては次の保険年度の6月1日から40日以内(保険年度の中途に保険関係が消滅したものについては、当該保険関係が消滅した日から50日以内)に、有期事業にあっては保険関係が消滅した日から50日以内に納付しなければならない(19条3項)。
政府は、事業主が申告書を提出しないとき、又はその申告書の記載に誤りがあると認めるときは、確定保険料の額を決定し、これを事業主に通知する(19条4項)。
通知を受けた事業主は、納付した労働保険料の額が同項の規定により政府の決定した確定保険料の額に足りないときはその不足額を、納付した確定保険料がないときは政府の決定した確定保険料を、その通知を受けた日から15日以内に納付しなければならない。ただし、厚生労働省令で定める要件に該当する場合は、この限りでない(19条5項)。
事業主が納付した労働保険料の額が、確定保険料の額をこえる場合には、政府は、厚生労働省令で定めるところにより、そのこえる額を次の保険年度の労働保険料若しくは未納の労働保険料その他徴収金に充当し、又は還付する(19条6項)。
先ほどは、前もって1年分の概算保険料を納付するものでした。今度は、その保険年度の確定保険料を支払う場面です。事業主は、保険年度ごとに、申告書を次の保険年度の6月1日から40日以内に提出しなければなりません。概算保険料も6月1日から40日以内でした。つまり、この期間に概算保険料と前の年度の確定保険料を納付するということです。こうすることによって、労働保険の事業の効率的な運営を図ることができるようになっています。
なお、保険年度の中途に保険関係が消滅したものと有期事業については、当該保険関係が消滅した日から50日以内に提出することになっています。
3項について、事業主は、すでに概算保険料を納付しているので、確定保険料の額に足りないときは不足額を納付します。
また、概算保険料のときと同じように、政府は、事業主が申告書を提出しないとき、または申告書の記載に誤りがあると認めるときは、確定保険料の額を決定し、事業主に通知します。
通知を受けた事業主は、確定保険料を、通知を受けた日から15日以内に納付しなければなりません。政府が認定決定した保険料は、概算も確定も「通知を受けた日から15日以内」で共通しているので、まとめておさえておきましょう。
もし、事業主が納付した労働保険料の額が、確定保険料の額をこえる場合は、こえる額を次の保険年度の労働保険料等に充当または還付します。
何もしなければ充当され、還付の請求をしたときは、還付される点をおさえておきましょう。
確定保険料の特例
労災保険に係る保険関係が成立している有期事業であって厚生労働省令で定めるものが次の各号のいずれかに該当する場合には、政府は、その事業の一般保険料に係る確定保険料の額をその額から非業務災害率に応ずる部分の額を減じた額に100分の40の範囲内において厚生労働省令で定める率を乗じて得た額だけ引き上げ又は引き下げて得た額を、その事業についての一般保険料の額とすることができる(20条1項)。
政府は、労働保険料の額を引き上げ又は引き下げた場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その引き上げ又は引き下げられた労働保険料の額と確定保険料の額との差額を徴収し、未納の労働保険料その他徴収金に充当し、又は還付するものとする(20条3項)。
有期事業においてもいわゆるメリット制が規定されています(20条)。有期事業は、「事業の期間が予定される事業」のことをいい、年度という概念がありません。そのため、先ほど見たような「次の次の保険年度の労災保険率とすることができる」といった制度を適用することができません。
そこで、有期事業は、事業が終了したとき、労働保険料の額を引き上げまたは引き下げることによって、確定保険料の額との差額を徴収しまたは還付するようになっています。
追徴金
政府は、事業主が労働保険料又はその不足額を納付しなければならない場合には、その納付すべき額(その額に1000円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。)に100分の10を乗じて得た額の追徴金を徴収する。ただし、事業主が天災その他やむを得ない理由により、同項の規定による労働保険料又はその不足額を納付しなければならなくなった場合は、この限りでない(21条1項)。
前項の労働保険料又はその不足額が1000円未満であるときは、追徴金を徴収しない(21条2項)。
追徴金は、100分の10、つまり10パーセントです。
ここで、労働保険料と徴収金の納付について見ておきましょう。
まず、原則として労働保険料等の納付は、納付書によって行われます。納付書は「これで納付できます」といったイメージでとらえておきましょう。それでは、例外となる納入告知書はどのような場合に使うのでしょうか。
確定保険料の特例は、有期事業のメリット制にあたるものです。ほか、追徴金や確定保険料の認定など、納入告知書は「これで納付しなさい」といった強めのイメージでとらえておきましょう。頻出なのは、概算保険料の認定決定は、概算の段階なので納入告知書の対象ではない、つまり原則どおり納付書による点です。あとは、 過去問演習をしながら慣れていきましょう。基本書では、それぞれの場所に納付書と納入告知書が書かれていますが、条文ではこのようにまとめて規定されています。
口座振替による納付等
前項の承認を受けた事業主に係る労働保険料のうち、その納付に際し添えることとされている申告書の提出期限とその納期限とが同時に到来するものが厚生労働省令で定める日までに納付された場合には、その納付の日が納期限後であるときにおいても、その納付は、納期限においてされたものとみなして、第27条[督促及び滞納処分]及び第28条[延滞金]の規定を適用する(21条の2第2項)。
「その納付が確実と認められ、かつ、その申出を承認することが労働保険料の徴収上有利と認められるときに限り」という言い回しは独特ですが、社会保険のところでも出てくるので、選択式などで問われたときに対応できるようにおさえておきましょう。
※解説
前項に規定する取引日とは、金融機関の休日以外の日をいう(同条2項)。
※解説
印紙保険料の額
印紙保険料の額は、日雇労働被保険者(以下「日雇労働被保険者」という。)1人につき、1日当たり、次に掲げる額とする(22条1項)。
① 賃金の日額が11300円以上の者については、176円
② 賃金の日額が8200円以上11300円未満の者については、146円
③ 賃金の日額が8200円未満の者については、96円
雇用保険法に出てきた日雇労働被保険者の印紙保険料の額です。この額に応じて、日雇労働求職者給付金の日額が決まります。
印紙保険料の納付
事業主は、日雇労働被保険者に賃金を支払う都度その者に係る印紙保険料を納付しなければならない(23条1項)。
印紙保険料の納付は、事業主が、日雇労働被保険者手帳に雇用保険印紙をはり、これに消印して行わなければならない(23条2項)。
事業主は、厚生労働省令で定めるところにより、印紙保険料納付計器を、厚生労働大臣の承認を受けて設置した場合には、当該印紙保険料納付計器により、日雇労働被保険者が所持する日雇労働被保険者手帳に納付すべき印紙保険料の額に相当する金額を表示して納付印を押すことによって印紙保険料を納付することができる(23条3項)。
日雇労働被保険者を使用する場合には、その者の日雇労働被保険者手帳を提出させなければならない。その提出を受けた日雇労働被保険者手帳は、その者から請求があったときは、これを返還しなければならない(23条6項)。
雇用保険法のところだけではイメージしにくかった、印紙保険料の納付について定められています。
事業主は、日雇労働被保険者に賃金を支払う都度その者に係る印紙保険料を納付します。納付の方法は、事業主が、日雇労働被保険者手帳に雇用保険印紙をはり、消印して行います。
事業主は、日雇労働被保険者を使用した場合には、第44条[納付印による印紙保険料の納付の方法]の規定による場合を除き、その者に賃金を支払う都度、その使用した日数に相当する枚数の雇用保険印紙をその使用した日の被保険者手帳における該当日欄にはり、消印しなければならない(規則40条1条)。
事業主は、前項の消印に使用すべき認印の印影をあらかじめ所轄公共職業安定所長に届け出なければならない。認印を変更しようとするときも、同様とする(同条2項)。
事業主は、雇用保険印紙を購入しようとするときは、あらかじめ、所定の事項を記載した申請書を所轄公共職業安定所長に提出して、雇用保険印紙購入通帳の交付を受けなければならない(規則42条1項)。
雇用保険印紙購入通帳は、その交付の日の属する保険年度に限り、その効力を有する(同条2項)。
雇用保険印紙購入通帳の有効期間(当該雇用保険印紙購入通帳の有効期間についてこの項の規定により更新を受けたときにあっては、当該更新を受けた雇用保険印紙購入通帳の有効期間)の満了後引き続き雇用保険印紙を購入しようとする事業主は、雇用保険印紙購入通帳の有効期間の更新を受けなければならない(同条3項)。
雇用保険印紙購入通帳の有効期間の更新を受けようとする事業主は、当該雇用保険印紙購入通帳の有効期間が満了する日の翌日の一月前から当該期間が満了する日までの間に、当該雇用保険印紙購入通帳を添えて、次に掲げる事項を記載した申請書を所轄公共職業安定所長に提出して、新たに雇用保険印紙購入通帳の交付を受けなければならない(同条4項)。
交付を受けた雇用保険印紙購入通帳は、更新前の雇用保険印紙購入通帳の有効期間が満了する日の翌日の属する保険年度に限り、その効力を有する(同条5項)。
事業主は、その所持する雇用保険印紙購入通帳の有効期間が満了したとき又は事業の廃止等により雇用保険印紙を購入する必要がなくなったときは、速やかに、その所持する雇用保険印紙購入通帳を所轄公共職業安定所長に返納しなければならない(同条8項)。
日雇労働被保険者が多く、印紙をはって消印するのが大変な場合は、厚生労働大臣の承認を受けて印紙保険料納付計器を設置し、納付印を押すことによって納付することもできます。
日雇労働被保険者を使用する場合には、日雇労働被保険者手帳を提出してもらいます。もっとも、日雇労働被保険者から請求があったときは、返還しなければなりません。
事業主は、雇用保険印紙を購入しようとするときは、購入申込書に購入しようとする雇用保険印紙の種類別枚数、購入年月日、労働保険番号並びに事業主の氏名又は名称及び住所又は所在地を記入し、雇用保険印紙を販売する日本郵便株式会社の営業所に提出しなければならない(規則43条1項)。
事業主は、次の各号の場合においては、雇用保険印紙を販売する日本郵便株式会社の営業所に雇用保険印紙購入通帳を提出し、その保有する雇用保険印紙の買戻しを申し出ることができる。ただし、第3号に該当する場合においては、その買戻しの期間は、雇用保険印紙が変更された日から6月間とする(同条2項)。
① 雇用保険に係る保険関係が消滅したとき。
② 日雇労働被保険者を使用しなくなったとき
③ 雇用保険印紙が変更されたとき。
帳簿の調製及び報告
印紙保険料の決定及び追徴金
事業主が印紙保険料の納付を怠った場合には、政府は、その納付すべき印紙保険料の額を決定し、これを事業主に通知する(25条1項)。
事業主が、正当な理由がないと認められるにもかかわらず、印紙保険料の納付を怠ったときは、政府は、厚生労働省令で定めるところにより、決定された印紙保険料の額(その額に1000円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。)の100分の25に相当する額の追徴金を徴収する。ただし、納付を怠った印紙保険料の額が1000円未満であるときは、この限りでない(25条2項)。
労働保険料の追徴金が100分の10であったことと比較しておきましょう。
特例納付保険料の納付等
雇用保険法第22条第5項に規定する者(以下この項において「特例対象者」という。)を雇用していた事業主が、雇用保険に係る保険関係が成立していたにもかかわらず、届出をしていなかった場合には、当該事業主(以下この条において「対象事業主」という。)は、特例納付保険料として、対象事業主が納付する義務を履行していない一般保険料の額(雇用保険率に応ずる部分の額に限る。)のうち当該特例対象者に係る額に相当する額として厚生労働省令で定めるところにより算定した額に厚生労働省令で定める額[特例納付保険料の基本額に100分の10を乗じて得た額]を加算した額を納付することができる(26条1項、規則57条)。
厚生労働大臣は、対象事業主に対して、特例納付保険料の納付を勧奨しなければならない。ただし、やむを得ない事情のため当該勧奨を行うことができない場合は、この限りでない(26条2項)。
対象事業主は、勧奨を受けた場合においては、特例納付保険料を納付する旨を、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣に対し、書面により申し出ることができる(26条3項)。
政府は、申出を受けた場合には、特例納付保険料の額を決定し、厚生労働省令で定めるところにより、期限を指定して、これを対象事業主に通知するものとする(26条4項)。
対象事業主は、申出を行った場合には、期限までに、厚生労働省令で定めるところにより、特例納付保険料を納付しなければならない(26条5項)。
前半に出てきてた特例納付保険料についてです。
まず、雇用保険法22条5項を見てみましょう。
次に掲げる要件のいずれにも該当する者に対する前項の規定の適用については、同項中「当該確認のあった日の2年前の日」とあるのは、被保険者の負担すべき額に相当する額がその者に支払われた賃金から控除されていたことが明らかである時期のうち最も古い時期として厚生労働省令で定める日」とする。
①その者に係る届出がされていなかったこと。
②厚生労働省令で定める書類に基づき、被保険者となったことの確認があった日の2年前の日より前に被保険者の負担すべき額に相当する額がその者に支払われた賃金から控除されていたことが明らかである時期があること。
復習になりますが、一定の場合、算定基礎期間を2年より前の時期について認めてもらえることがあります。ただ、1号について、届出がされていなかったということは、その被保険者について、保険料が納付されていなかったということです。特例納付保険料の納付等はこの場合について定めています。
特例対象者を雇用していた事業主が、雇用保険に係る保険関係が成立していたにもかかわらず、届出をしていなかった場合には、特例納付保険料として、一般保険料の額のうち当該特例対象者に係る額に相当する額に厚生労働省令で定める額を加算した額を納付することができます。
事業主にとってなんとなく不利であるっぽいのに、「できる」となっていることに違和感がある方もいると思います。
「労働保険料その他この法律の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利は、これらを行使することができる時から2年を経過したときは、時効によって消滅する。」(41条1項)
徴収法の時効は2年です。そのため、労働保険料を徴収することはできませんし、徴収金を徴収することもできません。そこで、「納付することができる」といった表現になっています。また、「厚生労働省令で定める額を加算した額」といったように「徴収金」ではない表現になっています。
「対象事業主に対して、特例納付保険料の納付を勧奨しなければならない」といった表現も同様です。決して強制することはできないようになっています。
対象事業主は、勧奨を受けた場合、特例納付保険料を納付する旨を、書面により申し出ることができます。これもまた、あくまで自主的に申し出ることができます。ただ、ここから先は、変わります。政府は、申出を受けると、特例納付保険料の額を決定し、事業主に通知します。そして、事業主は、特例納付保険料を納付しなければなりません。この違和感は記憶のフックになると思うので活用しましょう。
督促及び滞納処分
労働保険料その他徴収金を納付しない者があるときは、政府は、期限を指定して督促しなければならない(27条1項)。
督促するときは、政府は、納付義務者に対して督促状を発する。この場合において、督促状により指定すべき期限は、督促状を発する日から起算して10日以上経過した日でなければならない(27条2項)。
督促を受けた者が、その指定の期限までに、労働保険料その他徴収金を納付しないときは、政府は、国税滞納処分の例によって、これを処分する(27条3項)。
認定決定の場合は、「通知を受けた日から15日以内」でしたが、督促は「督促状を発する日から起算して10日以上経過した日」となっているので、整理しておきましょう。
延滞金
政府は、労働保険料の納付を督促したときは、労働保険料の額に、納期限の翌日からその完納又は財産差押えの日の前日までの期間の日数に応じ、年14.6パーセント(当該納期限の翌日から2月を経過する日までの期間については、年七7.3パーセント)の割合を乗じて計算した延滞金を徴収する。ただし、労働保険料の額が1000円未満であるときは、延滞金を徴収しない(28条1項)。
延滞金の計算において、1000円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる(28条3項)。
計算した延滞金の額に100円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる(28条4項)。
延滞金は、次の各号のいずれかに該当する場合には、徴収しない。ただし、第4号の場合には、その執行を停止し、又は猶予した期間に対応する部分の金額に限る(28条5項)。
① 督促状に指定した期限までに労働保険料その他徴収金を完納したとき。
② 納付義務者の住所又は居所がわからないため、公示送達の方法によって督促したとき。
③ 延滞金の額が100円未満であるとき。
④ 労働保険料について滞納処分の執行を停止し、又は猶予したとき。
⑤ 労働保険料を納付しないことについてやむを得ない理由があると認められるとき。
延滞金の考え方は、社会保険でも共通しているので、この時点でおさえておきましょう。
先取特権の順位
先取特権とは、債務者の財産について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利のことをいいます(民法303条)。労働保険料と徴収金は、国税、地方税に次ぐものとされています。
徴収金の徴収手続
労働保険料の負担
次の各号に掲げる被保険者は、当該各号に掲げる額を負担するものとする(31条1項)。
① 労災保険及び雇用保険に係る保険関係が成立している事業に係る被保険者 イに掲げる額からロに掲げる額を減じた額の2分の1の額
イ 当該事業に係る一般保険料の額のうち雇用保険率に応ずる部分の額
ロ イの額に相当する額に二事業率を乗じて得た額
② 雇用保険に係る保険関係のみが成立している事業に係る被保険者 イに掲げる額からロに掲げる額を減じた額の2分の1の額
イ 当該事業に係る一般保険料の額
ロ イの額に相当する額に二事業率を乗じて得た額
日雇労働被保険者は、前項の規定によるその者の負担すべき額のほか、印紙保険料の額の2分の1の額(その額に一円未満の端数があるときは、その端数は、切り捨てる。)を負担するものとする(31条2項)。
事業主は、当該事業に係る労働保険料の額のうち当該労働保険料の額から被保険者の負担すべき額を控除した額を負担するものとする(31条3項)。
条文だと読みにくいので整理しましょう。
労災保険と雇用保険に係る保険関係が成立している事業に係る被保険者は、雇用保険から二事業の部分を除いた額の2分の1を負担します。反対にいうと、労災保険は事業者が全額負担します。そして、雇用保険は二事業部分は事業者が全額負担します。そして、残った部分の2分の1を被保険者が負担します。
2号は、雇用保険に係る保険関係が成立している事業に係る被保険者についてですが、内容は同じです。
賃金からの控除
労働保険料は、毎月のお給料から控除することができます。