国民年金法の積立金の運用について学習します。給付の通則で学習したように、政府は、国民年金事業の財政が、財政均衡期間の終了時に給付の支給に支障が生じないようにするために必要な積立金を保有しています(16条の2第1項)。この積立金の運用について定めているのが本章です。
運用の目的
積立金の運用は、積立金が被保険者から徴収された保険料の一部であり、かつ、将来の給付の財源となるため、被保険者の利益のために、安全かつ効率的に行うこととされています。
積立金の運用
積立金の運用は、厚生労働大臣が、前条の目的に沿った運用に基づく納付金の納付を目的として、年金積立金管理運用独立行政法人に対し、積立金を寄託することにより行うものとする(76条1項)。
厚生労働大臣は、同項の規定に基づく寄託をするまでの間、財政融資資金に積立金を預託することができる(76条2項)。
積立金の運用は、年金積立金管理運用独立行政法人(Government Pension Investment Fund, GPIF)に対し、寄託することにより行います。年金積立金管理運用独立行政法人は、年金積立金の管理・運用を行い、その収益を国庫に納付することにより、年金財政の安定に貢献する組織です。
寄託とは、民法における契約のひとつで、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生じるものです(民法657条)。寄託の例としては、ホテルのクロークなどがあげられます。私たちがホテルに行ってコートなどを預ける行為が寄託です。
条文にあるように、寄託は「ある物を保管すること」を相手方に委託するものであり、これ自体には運用の意味は含まれていません。
年金積立金管理運用独立行政法人法第3条は、「年金積立金管理運用独立行政法人は、厚生年金保険法及び国民年金法の規定に基づき厚生労働大臣から寄託された積立金の管理及び運用を行うとともに、その収益を国庫に納付することにより、厚生年金保険事業及び国民年金事業の運営の安定に資することを目的とする。」と定めています。さらに、第18条では、業務の範囲が明確にされています。具体的には、年金積立金管理運用独立行政法人は、次の業務を行います。
① 年金積立金の管理及び運用を行うこと。
② 厚生年金保険法に規定する積立金の資産の構成の目標を定めること。
③ 前2号に掲げる業務に附帯する業務を行うこと。
これにより、寄託された年金積立金の管理及び運用が実際に行われることとなります。
また、厚生労働大臣は、寄託をするまでの間、財政融資資金に積立金を預託することができます。
財政融資資金は、主に公共事業を支えるために政府が提供する資金です。公共事業や政府のプロジェクトを円滑に進めるために設立され、国の財政の一部として運用されています。厚生労働大臣は、この財政融資資金に年金積立金を預託し、一定期間運用させることができます(財政融資資金法6条)。
預託とは、金銭や物品を預けて託すことを意味します。先ほどの寄託とは異なり、民法などで規定されている用語ではありません(「預託等取引に関する法律」は除く)。たとえば、消費者庁には、「預託」について、次のような記載があります。
預託とは、物品を預けて託すことを意味しますが、その契約形態が典型契約(消費貸借、賃貸借、寄託(混合・消費寄託を含みます。)等)であるか、無名契約であるかは問いません。
預託は、物品を預けて託すという意味ですが、販売を伴う預託等取引の抜け道を作らないために、かんたんにいうと、「これは消費貸借だから預託にはあたらない」といった言い訳ができないようにするため、預託は、消費貸借や賃貸、寄託などを含む概念であるとしています。
少し逸れましたが、厚生労働大臣は、財政融資資金という運用することが前提となっている資金に積立金を預託することができるということです。
運用職員の責務